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NO.5 |
労働と心筋梗塞
(2−2)
生活習慣と労働時間
大半が9時間を越える労働時間
「心筋梗塞の予防には生活習慣を見直すことが有効」であると前節で強調しました。1日は24時間で構成されており、だれもが、その中で生活時間の配分をしなければなりません。
仮に、健康を維持するための睡眠に8時間、食事、入浴、掃除、洗濯、買い物などの家事に最低4時間、家族だんらん、テレビ、読書、趣味、交際などの余暇に3〜4時聞必要だとすると、日々の生活の糧を得る労働に関わる時間は残りの8〜9時間という計算になります。
しかし、現代の日本では、通勤時間を含めると労働時間が9時間を超えてしまう人が大多数だと思います。つまり、多くの人は他の生活時間を削って労働時間に充てていることになります。
長時間労働は健康的な生活習慣に悪影響
過剰な労働時間が短時間あるいは短期間であれば許容できますが、長時間あるいは長期間になると問題です。長時間労働は、健康的な生活習慣を大きく浸食し、働く人の健康状態に悪影響を及ばすからです。
このように、労働時間を含む労働条件(どんな働き方をしているか)について評価することは、生活習慣を再点検するためにも有用であり、予防医学上大きな意義があります。
発症と関連する労働条件
仕事がきつく、裁量の自由がないと発症の恐れ
筆者らは、心筋梗塞患者56人と健康者112人を対象として、労働条件について聴き取り調査をし比較しました。その結果、統計学的にみて発症危険率が高かったのは12因子でした(表2)。
カラセクらはスウェーデンの労働者を対象とした大規模な研究を行い「仕事の負担度が高く、裁量の自由度が低い場合に冠動脈疾患の発症危険率が高くなる」ことを報告しています。筆者らの研究においても患者群の特徴として、労働時間が長く、休暇が少なく、労働が身体的・精神的にきついなど「仕事の負担度が高く」、仕事の内容やペ−スを自分で決める権限がないなど「裁量の自由度が低い」状況がみとめられています。
社会的支援度が高いと病気発症危険率は低下
また、ジョンソンらは仕事の負担度、裁量の自由度に社会的支援度を追加した3次元モデルを提出し「社会的支援度が高い場合には冠動脈疾患の発症危険率が低くなる」ことを確認しています。筆者らの研究においても患者群では頼りになる上司がいない、仕事上の困難や悩みなどを家族に話さないなどの傾向があり、社会的(技術的、情緒的)支援が乏しい状況がみとめられています。
このように日本の労働者を対象とした研究においても、ジョンソンらと同種の3次元モデル(高負担、低自由、低支援が複合したとき危険率が最大になる)に対応した因子がみとめられたことは、予防対策上きわめて意義が深いと考えられます。
おわりに
働き過ぎずマイペース、しかも1人で悩まない
心筋梗塞の発症を予防するには、高血圧、高脂血症、糖尿病などを早期に発見し、治療・管理することに加えて、個人のレベルで生活習慣を見直していくことが必要です。その生活習慣に深い影響を与える日々の労働の在り方として(1)仕事の負担度を軽減すること(働き過ぎに注意する)(2)裁量の自由度を高めること(マイぺースを心掛ける)(3)社会的支援を充実させること(職場や家庭での人間関係を良好にし、1人で悩まない)、などの点に留意することは心筋梗塞の予防対策として有効であると考えます。
人間らしい生活とは、3分の1は健康に働くこと、3分の1は家族や友達と幸福に暮らすこと、3分の1は社会のために役立つことをすること、と言われます。よい生活習慣を実践し、仕事を充実させ、健康で幸せに満ちた日々を過ごされますことを願っております。