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労働と心筋梗塞
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北大医学部公衆衛生学講座 志渡 晃一
働く人の健康状態は、日々の働き方(どんなところで、どんな働き方をしているのか)と、それによって規定される生活習慣に強く影響されます。過重な労働は生活習慣に悪影響を及ぼし、高血圧や糖尿病などを引き起こし、やがては心筋梗塞などの重篤な疾患を併発させ、最悪な場合は死に至らしめることもあります。働き盛りを襲う突然死の原因ともなる心筋梗塞を予防するためには、どんな働き方をしていると発症する危険が高くなるのかについて多角的に検討する必要があります。
危険因子の意味
病気にならぬために避けた方がよいということ
「たばこを吸うと肺がんになる」といわれています。しかし、各個人を対象としてみると「たばこを吸う人が必ず肺がんになる」ということはなく、また「たばこを吸わない人が絶対に肺がんにならない」ということもありません。現実には「祖父は1日に50本もたばこを吸っていたのに90歳まで長生きした」とか、その反対に「友達はたばこを1本も吸わないのに若くして肺がんになった」などということが起こります。
「統計的に病気になる傾向が強い」の意味も
そこで、たばこと肺がんのような関係を、専門的には「喫煙は肺がんの危険因子である」と表現します。危険因子という言葉を使うことによって「たばこを吸う人は、たばこを吸わない人に比べて、肺がんになる傾向性が強い」というように確率的・統計的な意味合いを持たせることができます。
同様に「塩辛いものを食べると高血圧になる」は「高食塩食の摂取は高血圧の危険因子である」と、「お酒の飲み過ぎる人は肝硬変になりやすい」は、「多量飲酒は肝硬変の危険因子である」と表現した方が適切です。
このように危険因子とは「病気の発生に深く関連するもの」であり、したがって「病気にならないためには避けた方が賢明であるもの」のことを意味しています。
心筋梗塞の危険因子
予防医学の観点から3つに分類可能
これまでの研究から、心筋梗塞の発症には多種多様な危険因子が互いに関連し合いながら影響を及ぼしていると考えられています(図1)。これらの危険因子は予防医学の観点から3つに分類することができます(表1)。男性、家族歴などのように変更不可能な因子、高脂血症、高血圧などのように改善するためには比較的長期間にわたる通院・治療が必要な因子、喫煙、飲酒、食事、運動、睡眠などのように自分自身である程度改善することができる因子です。
健康菅理面から予防すべき高脂血症や高血圧
ここで注目してほしいことは高脂血症、高血圧などは心筋梗塞の予防からみると危険因子の1つに過ぎませんが、健康管理からみると、それ自体が予防すべき重要な疾患であり、その発症には長い間にわたる生活習慣が強く影響しているという事実です。
心筋梗塞の予防には生活習慣の見直しを
北海道民を対象とした筆者ら(北大公衆衛生・循環器内科)の研究でも、患者群で、喫煙率が高く喫煙本数も多い、過度に飲酒、食事時間が不規則、睡眠不足、運動不足などの特徴的な生活習慣がみとめられています。このように喫煙、食事、睡眠などの生活習慣を改善することは、心筋梗塞の予防に直接的、間接的に有効だと考えることができます。

