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運動
(3−3)
運動不足による心疾患死は適量の人の約2倍
さて運動は心臓病によいと言われているが、本当に科学的なデータがあるのだろうか。先ほどの3大危険因子にも入っていなかったではないかと言われるかも知れない。しかし欧米では古くより運動と疾患に関する疫学的研究が盛んである。
バーリンらは1990年にそれまでの関連論文27を集めて分析を行い、運動不足の人はそうでない人に比べ虚血性心疾患による死亡は1.9倍多いと結論している。また彼は研究論文の質についても触れており、データの質が高くきちんとしている諭文ほど運動効果が明らかに出ていると述べている。
これらの報告はみな前向き調査(これから追跡調査してゆく対象集団がはじめから決まっている)によるものであり、その研究にエントリーするときにスクリ−ニング検査で明らかな心臓病は除外されている。
しかし、これらの研究には運動不足の人は最初から病気がかくれていたのではないか、運動していた人はもともといろいろな面で健康な人ではなかったのか、という批判を完全には回避することは出来なかった
運動を5年間継続して心疾患死が半減の例も
1993年になってこれまでハーバード大学卒業生の身体活動度と健康に関する疫学調査を長期間にわたって精力的に行ってきた、パフェンバーガーらは9年間にわたる追跡調査によって、それまで運動不足だっだ男性が運動を始めた場合(アンケートで判断)、全死亡が運動不足のままだったものに比較して23%低下(虚血性心疾患による死亡は41%低下)したと報告した(図2)。
さらに1995年運動を中心とした心血管系の病気予防のセンターとしては最も大規模なものの一つといえるクーパー・クリニックのブレアらは、運動負荷試験での運動接続時間(最大酸素摂取量の指標であり、運動している人の方がしてない人より高い)をもとにしたデータから、運動接続時間が平均約5年間の追跡期間中増加した男性は、そうでない者に比べて全死亡率が44%(心血管系の疾患による死亡は51%)低下したと報告した(図3)。
運動不足は3大危険因子と同程度に重要
また、これらの身体活動度と心血管系の病気を検討した研究では、運動不足は先に述べた3大危険因子と比較しても同じくらい重要な危険因子と結論しているものも多い。
運動はあらゆる病気の死亡率を下げる
運動と死亡率との報告で興味深いのは運動によって心血管系の病気による死亡が低下するだけでなく、ほとんどの報告で全死亡率が低下していることである。また運動によって何か他の疾患、事故などによる死亡が増加するということはないのである。この全死亡率が低下するという事実は、運動が心臓病以外にも予防効果が明らかになっていることと関係があると考えられる。すなわち肥満、高血圧、大腸ガン、糖尿病、骨粗しよう症などである(表1)。
運動には禁煙や血圧を下げたりの二次効果も
なぜ運動が虚血性心疾患の予防によいのだろうか。1つには運動そのものの効果というより2次的な効果もある。運動をするようになると、健康のため喫煙をやめるようになる傾向があるかも知れない。大幅にではないが、血圧が下がる。肥満(危険因子)が改善する。いわゆる善玉コレステロール(HDLコレステロール)が増加する。耐糖能異常(糖尿病でみられる現象。危険因子)が改善するなどである。
血小板の働きを抑え、動脈の血栓詰まりをふせぐ
しかし運動そのものによる効果もある。心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化で狭くなったところに血栓が着いて詰まるのだが、このときに血栓を作るのに大きな働きをする血小板の働きが、いつも運動していると抑えられるようになる。一酸化窒素(N0)という血管を広げる化学物質が増えるうえ、不整脈を起こしやすくするカテコラミンというホルモンの分泌も抑えられるようになる。運動してトレーニングされている心臓血管は、一般に種々のストレスに対して過剰に脈を速くしたり、血管を締めて血圧を上げたり、ストレス・ホルモンを出し過ぎたりしなくなるようである。
運動して生活様式改善を最優先する
しかし、いくら運動が心臓によいからといっても、運動だけでタバコは吸うし、霜降りステーキ大好きという調子ではだめだ。危険因子が併さって病気が起こるのである。よい暮らしがしたい、もっとお金が欲しいと言って努力するのと同様に、健康を得るためにも、ある程度努力する、投資することが必要と言えるのではないだろうか。