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No52 |
命を見つめる
(7/7)
旭山動物園園長、ボルネオトラストジャパン理事
今、安全とか安心とかが権利のように保障されているので、自分で見つけられない。本当は安全というのは自分で見つけるもので、危険というのも自分で察知するものでなければいけなくて、それを誰かのせいにしかできないのであれば、もう遊園地から遊具はなくなるしかないんですね。でも、その環境というのを考えたときに、じゃあそれが子どもらしく過ごせる環境なのかというと違いますよね。明らかにうちのつまらなかったときの動物園みたいに檻の中に動物がいるだけみたいな、何も事故は起きない空間になっていくんです。だから、本当に僕たちがつないでいくこと、営みって何なのかなと、そんなことを思ったりします。
生まれたら死にますよというあたり前のことが、今あたり前になかなか感じられない。動物園でも命は終わるのですけれども、本当は人以外の生き物は、食物連鎖という食べる食べられるの関係が輪になって、全部が輪になって閉じていますよという関係の中で生きています。食べる、食べられるとは何かというと、殺す、殺されるの連鎖なんです。だから、自然の生き物に対して助け続けたら、命はつながらないです。
エゾリスは、野生だと 3 、 4 年が平均寿命と言われています。うちの動物園で一番長生きしたエゾリスが16年生きているんです。だから、16年が生物学的には寿命。今の現代人の平均寿命に近いのかもしれないですね。でも、いい悪いではなくて、何かのハンディがあったり、何かの油断があったり、何かの能力の衰えがあったら、次の命に引き継がれていきますよというのが本当は生き方。だけど、動物園はその輪から動物を引き抜いてくるので、終われない命になってしまいます。だけど終わりは来るんですよね。その終わりを僕らはどう迎えさせてあげるかというのを本当に考えていきます。
上川のベアーセンターからうちに来たカンゾウというホッキョククマが、当時日本で飼育しているクマで最高齢のクマでした。血液検査をしたら、肝臓が悪かったのでカンゾウという名前になりました。
安全と食べ物が保障されているので、よぼよぼになっても生きています。ある日泳いでいて、プールから出たんですけれども、プール一面にもう白い米粒みたいなのが浮いて、何だろうと思ったらウジだったんです。よく見るともうカンゾウの爪の間とかにびっちりウジが刺さっていて、プチプチプチプチみたいな音がしていました。要するに老廃物がもう腐敗している状況なんですね。ああこれはと思って見たら、肝臓の機能も衰えていたんですけれども、腎不全寸前になっていました。
どう生きるかは、どう飼育するか、どう死を迎えさせてあげるか。肉食動物として、ホッキョクグマとして、カンゾウとして一生を過ごさせてあげて、どういう終わり方をするかで決まるような気がしていて、そのときに僕らの中では、尊厳とか生活の質とか色々なことを考えた中で、終わらせてあげるという感覚を持ちます。要するに安楽死なんですね。それを選択肢に入れながら命を見ていきます。
カンゾウのときは自然死だったんですけど、死期が近づいた時はもう耳も聞こえない、目も見えないんですけど、人の来た気配は感じるので、扉が開くと出るんですね。もうこんなになっても出せと。でも、生きてるというのは理屈じゃないし、医学じゃないし、科学じゃないし、やっぱり生きているという命なんですね。本当にそれがすごくて、でも必ず死は来て、だから今お孫さんがいたりとかお子さんがいたりとかであれば、もし命を飼ったら、それはどこかで終わらせるのではなくて、やっぱりちゃんと看取ってあげなければいけないものなんだと思います。生きているうちは存在としてあるんですね。心の中でその命が生き始めるのは死んでからですね。でも、その心で生き始める原点の最低条件は、やっぱりその死を自分で受け止めるということだと思うんです。今はそれがどんどんどんどんなくなってしまっている。だから、心の中で生きている生き物がほとんどいなくなってしまっている。だから優しくなれない、何かどこかで踏ん張りがきかなくなっていくような気がします。
いま一度豊かさとか色々なものを、何かもう一回感じて、理屈ではないところで豊かさを感じたり、命をつなぐということを考えなればいけないのではないのかなと思っています。
座長・三浦哲嗣先生(札幌医科大学医学部内科学第二講座教授)
25年以上獣医或いは動物園のスタッフとして命を見つめてきた経験からの大変感銘深いお話でした。
たくさんのスライドを見せて頂きましたが、長年動物に愛情を注いできた坂東さんには我々には読み取れない多くのことが見え、理解できるのだと感銘いたしました。
私達人間同士もお互いにもう少しよく見て、良く聞いて理解を深めることが大事なのだということも教えていただいたような気がいたします。
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