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NO.8 |
心臓核医学検査とは
(3−3)
心臓核医学検査でわかること
表には心臓核医学検査で現在広く使用されている、あるいは使用されつつあるラジオアイソトープ製剤を示します。
心臓核医学検査で用いられるアイソトープ製剤 アイソトープ製剤 目的 対象疾患 Tc−99mヒト血清アルブミン RI心血管造影・心機能解析 全ての心疾患 TI−201(塩化タリウム)
Tc−99m MIBI(ミビ)
Tc−99mテトロフォスミン
心筋血流イメージング 虚血性心臓病
(狭心症、心筋梗塞)
川崎病、心筋症I−123BMIPP 心筋脂肪酸代謝イメージング
(エネルギー代謝)虚血性心臓病
心筋症I−123 MIBG 心臓交感神経イメージング 虚血性心臓病
心筋症、心不全Tc−99m ピロリン酸
In−111 抗ミオシン抗体心筋壊死イメージング 急性心筋梗塞
心筋炎、心筋症心臓核医学検査では心エコー検査が得意とする心臓弁の異常・心内血流異常(シャント、逆流、狭窄)や心臓カテーテル検査でわかる冠動脈の硬化病変以外の様々な情報を画像化(イメージングという)して診断に利用できます。しかも、心機能評価を除く他の検査のほとんどは心臓核医学検査が最もすぐれ、また他の診断法では評価できないものです。以下に、実例をあげて説明をしましょう。
1、ラジオアイソトープ(RI)心血管造影法・心プールシンチグラフィ
心臓への血液の流れや心機能をみる検査です。心室の全体的あるいは局所的な動きを視覚的かつ定量的に評価できます。図1は心不全患者さんのもので、著しい心肥大と心機能の低下(左室駆出率8%)が認められます。
2、心筋シンチグラフィ
心臓の筋肉そのものをみる検査で、みる対象により心筋内の血流・心筋細胞の生存性を評価する心筋血流イメージング、心筋細胞内における脂肪酸の利用・エネルギー産生能をみる心筋脂肪酸代謝イメージング、心臓を支配している交感神経機能を評価する心臓交感神経イメージング、傷害され壊死に陥っている心筋のみを描出する心筋壊死(えし)イメージングなどがあります。
●心筋血流イメージング
最も利用されている検査で、運動や薬物(ジピリダモールなど)負荷により、心筋の虚血や梗塞の診断、心筋血流の予備能をみます。図2は狭心症の患者さんの運動負荷T−(タリウム)心筋シンチグラフィで、運動時の血流低下が安静時には回復し、一過性の虚血であることが良くわかります。安静時でも血流が高度に低下し回復しない心筋は通常心筋梗塞巣と判断されます。
●心筋脂肪酸代謝(BMIPP)イメージング
心臓がエネルギー源にしている脂肪酸の利用状態を評価でき、心筋血流状態では把握できない心筋細胞内の情報がえられます。図3は急性心筋梗塞の患者さんの心筋血流イメージング(左)と心筋脂肪酸代謝イメージング(右)です。治療により回復した心筋においても、エネルギー状態が低下していることが観察されます。
●心臓交感神経(MIBG)イメージング
心筋細胞に密に分布し、様々な機能を調節している交感神経そのものをイメージングします。心不全ではその活動の異常亢進や逆に高度な低下が観察されます。
●心筋壊死イメージング
生存心筋には集積せず壊死心筋にのみ集積し、その傷害部位を検出できます。図4は急性心筋梗塞患者さんのピロリン酸および抗ミオシン抗体イメージングです。いずれも梗塞巣のみが検出され健常心筋は描出されていません。。
最後に−これからの心臓核医学検査は?
前述のごとく、心臓核医学検査は外来検査としては高額になるのが欠点ですが、欧米のように患者負担が軽減されればさらに普及していくでしょう。その理由は、安全性が高く、非侵襲的(極めて肉体的負担の少ない)で、外来でも反復して行えること、心臓核医学検査のみに可能な分野が多いこと、高い信頼性、などが挙げられます。
また、心臓核医学は基礎研究の成果をいち早く簡便に臨床利用できる分野でもあります。将来は、心筋細胞膜機能、エネルギー代謝、心筋血流やその予備能、そして心機能などを1〜2回の検査でより簡便に、定量的に評価可能となるでしょう。
こうした心臓核医学検査がさらに普及すれば、病気の早期発見・早期治療・治療効果判定・予後推定と極めて重要な診断に結びつくばかりではなく、逆に不必要な入院や侵襲的検査(過剰診察)をさけることができます。このような正確な診断や早期治療、入院適応の適切な判断はひいては医療費抑制へと結びつくと思います。

