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No44 |
世界最高峰を目指すための「超健康法」
(4/5)
無理な登頂がたたる? 不整脈が悪化
ところが人生というのはうまくいかないもので、エベレストに無理に無理を重ねて登ったつけがどっと出てきました。特にエベレストが終わってから全国あちこちで話をしてくれと呼ばれ、2年半の間に日本航空だけで千回、全日空に約600回乗っているし、新幹線は何百回か分からないほどです。ほとんど地上にいなかった。空にいるか新幹線に乗っているか、時たま地上に降りて、べらべらしゃべったらまたいなくなる。トレーニングをしたいと思いながらあまりできない。そのつけで、とうとう不整脈が悪化しました。2年前にエベレストの中国側の様子を調べに7,000mのノースコルまで行こうとしました。途中、トレーニングをしながら中国のベースキャンプに着き、そこを出発して6,400mまで行ったらもう歩けなくなりました。心臓の不整脈がひどくなって、もう一歩も足が出ない。いろんな薬を持参したのですが駄目でした。
去年はシシャパンマという8,000m級の山に登りました。具合の悪いことに、携帯電話大の携帯心電図計をオムロンが開発し、これを持っていかされたのですが、常に波動の乱れが出る。不整脈です。これがインターネットで私の体調を管理していただいている東京都老人研の白澤先生や登山家で医師の神尾先生に送られる。ドクターコールで今すぐ帰らないと死ぬという。ワニがうじゃうじゃ泳いでいる中へ飛び込んでいるようなものだ、何時ぱっくりいくかわからない、という。ベースキャンプで既に帰れコールだったのですが、まあ俺は不整脈のプロだ、不整脈には慣れているんだ、とばかなことを考えてふらふらしながら7,000mまで登りましたが、もうこれ以上無理したら死んじゃうかもしれないし、2年後のエベレストがだめになったらつまらない。口惜しいから、ここからスキーで滑って帰りました。
カテーテルアブレーション手術受け、再度の挑戦
その無理もたたって普段の生活でも苦しむようになりました。階段を上ってもすぐ心臓がおかしくなる。薬では抑えがきかないので、思い切って、去年の12月22日に心臓のカテーテルアブレーションという手術を受けました。6時間の大手術ということでしたが、私はほとんど眠っていましたので、手術が終わったやれやれという感じでした。先生たちが苦労されたと思います。ところが、やっぱり1ヶ月くらいたって無理をしてしまいました。心臓の調子が良くなり、不整脈があまり出なくなったので、よせばいいのに20sくらい背負って足首に5sつけて2時間くらい歩いたら、またひどくなる。膝も痛める。再度、先生に診てもらうということの繰り返しです。焦ってはいけない、無理をしてはいけないという当たり前のことを守れないで、相変わらず失敗を繰り返しています。
今やっと、もう1回ゼロからやり直して75歳の普通の健康体に戻って、それからまた…、といっても、もう時間が1年ちょっとです。今年は4月25日に出発して、メラピークというすごくいい山に向います。目の前にエベレストが見え、その向かい側にスキーのためにあつらえたような延々と15Kmくらいの斜面が続いています。標高は6,470m。そのメラピークに行って、まず肝心な心臓の具合を調べてみます。それから山に登る力がどのくらいあるかということも。
自然食、粗食、鼻呼吸、舌出し運動 ― 亡父の健康法に納得
人間は予定通りうまくいくわけがないんだということを、痛切に感じます。小学校、中学校の頃から、あるいは学生時代でも、特に歳をとればとるほどいろんな不都合、不具合が出てきます。そのような中で、一番私にとって励みになったのは父親の生き様、健康法でした。テレビ朝日の番組「徹子の部屋」に私の父が引っ張り出されたことがあります。95歳を超えてヨーロッパで滑ったり、国内では手稲山は勿論、八甲田、日本アルプスと滑りまくる元気な爺さんがいるというので黒柳徹子さんの番組に呼ばれたのです。実はこの番組に私は3回も出ました。1回目は植村直己さんがアラスカのマッキンレーで遭難した時でした。直己さんとベースキャンプで一緒だったり、北極での縁があったりで、植村直己さんを偲ぶ徹子の部屋。2回目は長谷川恒夫さんがヒマラヤで遭難した時で、山の仲間、友達として長谷川恒夫さんを偲ぶ徹子の部屋。3回目は三浦雄一郎を偲ぶ徹子の部屋かなと思っていましたが、エベレストから生きて帰っての出演になりました。その時、徹子さんは5年前に私の父から教わった三つのことを今でも実行している、といわれました。
一つはスペシャルドリンクです。父は公務員で、子沢山で、貧乏でしたので、碌なものを食べさせられませんでした。子供の頃は玄米のご飯、安い鰯をすり鉢ですってつみれを作り、山菜やきのこを採りに行くのが普通でした。今考えると、貧乏なお陰で親父はずっと自然食でしたし、このような食事ではよく噛むことも欠かせません。ステーキや刺身というものがあることが分かったのは、大学に入って北海道に来てからです。ステーキなんて人間が食べるものじゃないなと思っていたくらいです。私の父親は非常に粗食でありました。これが高齢になって良かったのではないかと思います。この反動で私は獣医学部に入りました。獣医学部だと実験が終わった後に焼肉で焼酎が飲める。目的の半分はそんなもので、碌なことを考えていませんでした。学生時代から飲み放題、焼肉食べ放題。そのつけが今になってたくさん回ってきております。その父親の健康法の一つ、スペシャルドリンクというのは、大きめのコップに牛乳、ヨーグルト、胡麻の粉、きな粉を入れ、砂糖でも蜂蜜でもいいのですが味をつけます。さらに、卵を酢に漬けておきますと1週間で殻までぶよぶよに柔らかくなりますので、これを丸ごと入れてジューサーにかける。これを朝起きてお茶の合間に一杯。余ったのは冷蔵庫に入れてその日のうちに飲む。このスペシャルドリンクが、今、芸能界のおばさんたちの間ですごく流行っているそうです。この頃芸能界のおばさんたちが元気なのはこのせいかなと思います。先日も、うつみ宮土理さんが健康法を聞かれて同じことをいっていました。徹子さんがおっしゃるには「私がみんな広めたのよ」。
その次に何をやるかと思いましたら、徹子さんは片方の鼻と口をふさいで深呼吸を一回、二回、三回、四回。右が終わったら今度は左です。これは朝起きたらテレビを見たり新聞を読んだりしながら出来ることです。何回ということもありませんので、ゆっくり繰り返すのがいいと思います。私たちは風邪の時、あるいは虫歯や無呼吸症候群やいびきをかいたりして、うっかりすると口で呼吸をしていることがあります。昔から、口は災いの元、といわれていますが、まさに口呼吸は災いの元です。空気中はきれいなようでいて、結構、埃や黴菌やウイルスがありますので、口で呼吸しますと、これらがいきなり喉や器官の中へ入ります。睡眠中に口で呼吸していますと部屋中のほこりが入り、口が渇き、これが歯周病や虫歯の原因にもなります。人間の唾液には殺菌作用がありますので、まず徹底して鼻呼吸をしましょう。鼻は非常にすばらしいフィルターであり、温度調節器でもあるわけです。南極の最高峰ビンソン・マッシフに登りましたが、この時は外の気温が−50℃から−60℃、テントの中で−40℃です。寝袋がそのまま棺桶になる世界です。うっかり口で呼吸をしようものなら、あっという間に喉がしもやけになります。フェイスマスクをして鼻呼吸をしない限り、気管がいかれてしまいます。ヒマラヤでもそうです。超乾燥、超低温の中では徹底した鼻呼吸です。呼吸をすることは、ものすごい体力が必要なことなんだそうです。呼吸をするための筋肉、横隔膜の力は鼻呼吸によって増えます。
次は力いっぱい口を開けて、舌を思いっきり出す。出した舌を右、真っ直ぐ、左へと動かします。私の父は朝起きたらこれを最低150回やっています。どうしてやるのかと聞いたら、90歳近くになって、鏡を見たら顔にしみとしわが増えてみっともない。何とかしたいとあれこれ調べたら、ヨガの本に舌を出すことが書いてあった。これはきっと健康にいいはずだと150回、200回と繰り返しやり、1年くらい経って鏡を見たら、しみもしわもほとんど無くなっていたそうです。私も真似をしたら30回で頭がくらくらしました。普段こんなに舌を出すことはないのですが、やっているうちに、なるほどと思いました。舌というのは結構大きな筋肉で、お風呂の中で舌出しをやっているとバスタブがちゃぷちゃぷ揺れます。お腹の筋肉、横隔膜とかが全部動いているからです。舌の動きは喉の辺りにもおよんで甲状腺ホルモン、唾液ホルモンを間接的に刺激し、代謝、若返りを促します。97歳の父が脳の血流を測ったら、40代の後半だという結果が出ました。全身の血の巡りを良くし若さを保ち、特に頭の血の流れを良くして呆けないようにするには、舌出しが効果的です。ぜひやってみてください。人前でしょっちゅう舌を出していると、病院へ行ったほうがいいんじゃないかといわれそうですけど、誰もいない、暇なときにどうぞ。私はぬるいお風呂に入って、ゆっくり50回舌出し、10回鼻呼吸をやろう、と心がけています。
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