自分に適した予防方法こそ
生活習慣病の起こり方には個人差もあるので、予防を考える場合も個人差のあることを念頭に置かねばなりません。各人が自分に適した生活環境で生活するように、食事や運動、その他生活のリズムといったものを考えながら、病気がなるべく起きない配慮が大切です。近年、遺伝子の研究が進んできましたので、遺伝要因が病気にどう関係しているか、これから詳しくわかってくると思います。そうすると、また新しいガイドラインができることにもなるでしょう。まだここでは遺伝と一括りにしていますが、大まかにこのようにお考えいただくと、生活習慣病に対する理解が深くなると思います。
同じ薬を使っても非常によく効く人と、そうでない人がいます。10年、20年飲んでも大した異常が起こらず都合よくいっている人がいますが、かといって、その薬が万人にいいとは限らず、この人にはこの薬、あの人には別の薬、ということもおこるわけです。それを予め見分けられる方向に医学研究は進みつつあります。非常によく効く降圧薬でも、8割程度の人には効くが、効かない人もなかにはいるわけです。使ってみないとわからないのです。病気の成り立ちが人によって必ずしも一様でないから、同じように作用するとは限らないのです。ですから、都合の悪いことがあれば、かかりつけの医師や健康管理をしている人によく状況を伝えることが大切です。副作用が起こる人と起こらない人がいますので、遠慮なく健康管理をしてくれる医師や看護師さんに情報を伝えましょう。そのコミュニケーション、意思の疎通、信頼関係等々が非常に大切なのは、これらのことに関係するからです。
日本高血圧学会からのお勧め
生活習慣の修正についてお話しますが、これは日本高血圧学会が昨年まとめたばかりの「JSH2004」で、非常に厳しいことをいっています。食塩の制限は一日に6g未満。今、日本人の平均の食塩摂取量は12g位です。それを半分にするのが理想的で、世界中で大体こうなっております。食塩6g、これで十分に生きていけるはず、工夫しなさいというわけです。今までは10gとか7g、8gといろいろなことをいっていましたが、今度は一番厳しくて6g未満にしなさい、となりました。
野菜や果物を積極的に摂り、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控えることが推奨されます。飽和脂肪酸とは、一口にいえば、冷えたら白く固まる脂肪です。野菜の油は固まりません。動物性食品の肉の脂は固まります。固まるのが飽和脂肪酸です。
適正な体重を維持することも非常に大切です。BMI〔体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったもの〕が25を超えないようにしましょう。以前は身長から100を引いてそれに0.9を掛けたのが理想体重といっていましたが、それでは身長によって基準がかわってくるのでBMIの方がいいということになりました。これは国際的に通用する基準です。
運動療法は心血管病のない高血圧患者が対象で、有酸素運動です。有酸素運動とは血液中に乳酸がたまらない程度の運動で、脈拍が100とか110程度にとどめた運動です。30分以上を目標に定期的に毎日行います。歩くなら早足。走る場合でも、走りながら会話が出来る程度の、息がそんなに切れないほどのペースを守りましょう。これは続けないと意味がありません。
アルコールの制限はエタノールで20〜30ml、お酒でいえば大体1合、ビールでいえば大瓶1本です。女性はそれより少ないほうがいいでしょう。禁煙も必要です。
野菜や果物は腎障害や糖尿病がある場合には推奨されないことがあります。甘みのあまり強いものはいけないとか、野菜のカリウム成分が多いものは腎障害にあまりよくないということがありますので、腎障害や糖尿病がある場合には、それぞれのガイドラインに従うことが大事です。そういう障害が無い場合には野菜、果物はなるべく摂るようにしましょう。日本の食べ物はアメリカの食べ物の影響をずいぶん受けるようになりましたけれど、従来の日本の食べ物のほうがずっといいのです。コレステロールに対しても、糖尿病に対しても、絶対に日本の従来からの食べ物がいいのです。昔、糖尿病は今のように多くありませんでした。今は、日本人の糖尿病の患者さんは予備軍を入れると約1500万人いるということで、非常に増えてきています。生活が良くなり、楽になり過ぎているからといってよいでしょう。塩分は制限して、昔の日本人の生活に戻すような工夫が望ましいと思います。
長寿県・沖縄は…
沖縄は日本一の長寿県といわれてきましたが、一昨年の統計では、沖縄の男性は日本の都道府県中で26番目に落ち、長命ではなくなっています。車が普及し、アメリカの食べ物がずいぶん入ってきました。沖縄の男性は、女性に比べて楽をしている傾向があるそうです。車に乗って、お酒をよく飲んで、運動不足で、肥っている人が増えてきたといわれています。沖縄の大学の教授をしていた私の後輩が「その内に寿命が短くなるのではないか」と心配していましたが、どうもそれが確実になってきているようです。年齢を分けてみると、60歳以上の平均余命はそれほど短くなっていません。沖縄の生活をずっと続けているからですね。ところが青壮年の平均余命が短くなっています。殆んど日本の最低位のレベル近くになっているそうです。生活環境が良くないからでしょう。生活の仕方が変わり、それが影響しているということでしょう。日本で一番長命なのは長野県です。
アメリカでは日本の食事や魚を食べたほうがいいとか、野菜を食べたらいいとか、お寿司がいいとか、いろいろなことをいっています。日本がアメリカの影響を受けていい点もありますけれど、生活習慣の面ではよくない点があることが、データとして出てきているように思います。血圧の管理についても、そういうことを念頭において食事のことも十分配慮するのがいいと思います。
心血管病の危険因子としては(1)高血圧(2)喫煙(3)糖尿病(4)高コレステロール血症(5)低HDLコレステロール血症(6)肥満(7)尿中微量アルブミン(8)高齢(男性60歳以上、女性65歳以上)(9)若年発症の心血管病の家族歴が挙げられています。喫煙は非常によくないことで、とりわけ心臓病、脳卒中、ガンによくありません。肥満は、特に内臓の肥満が問題です。高齢、家族歴などは是正できませんが、比較的容易に是正できるものがそのなかにありますので、そうすることで血管病の予防に努めることが非常に大切です。昔からアメリカでは、高血圧はサイレントキラー(沈黙の殺人者)と呼ばれています。症状が無いため、知らない内に高血圧に関係して動脈硬化が進み、心臓血管病で倒れる―サイレントキラーの所以です。今や糖尿病もサイレントキラーと考えるべき状況になっています。
血圧値の基準を紹介します。至適血圧は上が120で下が80、まあまあ正常というのは130/85です。上も下も両方満足しないといけません。正常の高値血圧は130〜139、85〜89。軽症の高血圧は140〜159、90〜99で、昔ボーダーラインと呼んでいた値です。下は95までがボーダーラインでした。120/80を至適血圧とすると、60歳以上で120/80以下という人は非常に少なくなります。低過ぎはしないかと心配しかねないくらいの血圧です。それを至適血圧としているわけです。血圧の基準は時代によって変わってきており、160までは正常としていいだろうということをWHOなどでも昔いっていたことがあります。今昔の感に堪えないわけです。
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