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No37 |
しなやか血管、いきいき生活 〜コレステロールが高いといわれたら〜
(3/4)
まさに「胸がこわい」
心筋梗塞を何度も起こして心臓の働きが悪くなると、心臓自体が非常に大きくなっていきます。心筋梗塞からさらに病気が進んだ状態で、心不全といいます。心不全になると出てくるのが呼吸困難です。多くの患者さんが、息苦しい、息が切れるといわれます。じっとしている時はいいのですが、階段を上る、坂道を登る、雪かきをする、といった時に症状が出てきます。そのうちに、ちょっと動いても症状が出てくるようになります。私は昨年9月にこちらに参りましたが、北海道の人は「胸がこわい」とよくいわれます。辞書をみましたら「しんどい」という意味で、この言葉のもつ語感は、心臓の機能が悪くなってきた時の胸の苦しさを非常によく表現していると思います。胸がしんどい、苦しいだけではなく、きつい感じを伴うのが心不全の時の呼吸困難です。
こういう症状が段々強くなり、以前なら地下鉄の階段を休まずに一気に上がれたのに、途中で何回も休まないと行けなくなったということになると、心不全の可能性があります。しかし、こういう呼吸困難の症状があればすべて心不全かといいますと、なかなかそう簡単にはいきません。貧血があると、動いた時に息切れがします。肺気腫や慢性気管支炎といった肺の病気があると、動いた時に息切れがしやすくなります。心臓が悪いために呼吸が苦しいのか、肺が悪いために苦しいのか、診断をする必要があります。病院で診断を受ける必要があります。
コレステロールが高いから始まって、段々と血管そして心臓の病気が進むというお話をしました。こうならないようにするには、どうしたらよいか。それぞれの段階で診断し、治療をするわけですが、大元が「コレステロールが高い」ですから、そこから治療するのが一番だと皆様方にもおわかりいただけるでしょう。そうであれば、問題はコレステロールをどれ位にしておけばいいかということです。先程、コレステロールの基準として総コレステロール220とお話しましたが、実際にそれをどの程度にしておいたらいいかは、患者さんが他にどれくらい病気をもっているかによって、細かく決められています。
心筋梗塞や狭心症が既にあって、治療を受けている患者さんが一番厳しくコレステロールを下げたほうがいい、ということが知られております。高血圧、糖尿病、それから加齢も加味します。例えば、年齢が70歳で高血圧も糖尿病もあると、危険因子は三つですので、総コレステロールは200、LDLコレステロールは120にしたほうがよい、となります。コレステロールを治療でどこまで下げないといけないかは、それぞれ患者さんが一緒にもっている病気で決まるのだと理解いただければよろしいと思います。
基本は食事と運動療法
コレステロールが高いとわかった時、何をすればいいか。基本は食事と運動療法による生活習慣の是正です。これは「言うは易く…」で、相当な自己管理が必要です。これが充分でない場合には薬を飲むことになります。食事と運動と薬、この三つが重要です。薬を飲んでいても食事療法は非常に大事です。コレステロールが食物中に多いからコレステロールが上がります。コレステロールをできるだけ下げ、コレステロールをあまり含まない食事にしようということです。しかし、これだけでは十分でないので、コレステロールが体の外に出やすいように食物繊維を多く含んだ食べ物を食べることが重要です。体の中でもコレステロールができます。それにはカロリー、つまり脂肪が関与します。コレステロールを含む食品、カロリーを多く含む食品を避け、同時に、コレステロールを下げる食べ物を食べる、大きくはこの二つがポイントです。
どういうものが脂肪の摂り過ぎになるのかといいますと、動物性の脂肪、飽和脂肪酸です。肉の脂身、牛乳、バター、チーズ、いわゆる乳製品です。牛乳自体にはいいこともありますが、摂り過ぎると飽和脂肪酸が多くなってきます。量は少なくても、コレステロールをたくさん含んだ食べ物があります。卵の黄身の部分です。それから、タラコ、筋子、イクラ。北海道では美味しいものばかりで、どうしても食べたくなります。牛ロース、サーロイン。これは肉の脂身です。焼き鳥の内臓、レバー、モツ、肝などは、量が少なくても、コレステロールの割合が非常に高い食品です。こういうものを摂り過ぎないことが非常に重要です。
逆に、コレステロールをどんどん身体の外に出す働きをする食物があります。食物繊維を多く含んでいるもので、海藻、きのこ、豆、緑黄色野菜です。昆布、わかめ、ひじき、きのこの類、大豆、豆腐等々。豆腐はアメリカで人気があります。コレステロールを下げる作用があるということで、患者さん向けのパンフレットに、豆腐を使った食事がよく紹介されています。人参、ほうれん草などの緑黄色野菜。これらのものがコレステロールを下げる働きがあるとよく知られております。肉と一緒にこのような野菜、海藻類を摂るのが勧められています。わかり切ったことですが、バランスの良い食事が、コレステロールにとっても非常に良い食事です。
子供たちの健康に強い危機感
最近、問題になっているのが子供のコレステロールの上昇と肥満です。30年後、40年後には非常に大きな問題になると、強い危機感を持っております。マクドナルドとケンタッキーフライドチキンを目の敵にしているわけではありませんが、私たちが小学生の時には、まったく食べなかったものを、今の子は殆ど毎週のように食べています。フライドポテトには塩分が、動物性の脂肪にはコレステロールがたくさん含まれています。肥満も深刻です。1980年から2000年までの20年位の間に、いわゆる肥満傾向児が約2倍に増えています。ご自身の健康はもちろん考えないといけませんが、次の世代、さらにその次の時代を担う子供たちの健康にとって、いかに食事が大事か、今こそ食事のことを真剣にとらえておかないと、若い世代の健康を将来蝕む危険性があるということを、よくお考えいただきたいと思います。
次は運動療法ですが、コレステロールが高い場合にはいろいろな運動をするのが非常に効果的です。適した運動として、単純ですけれど、歩くのがお勧めです。サイクリング、ラジオ体操も結構です。最近は60代、70代の方の社交ダンスが盛んだそうで、私の母は77歳になりますけれども、ほぼ毎日のようにダンスに行っております。いい運動になるようですが、いろんな方と知り合いになれるといった、運動以外の効用もあるようです。ただ、誰かに負けたとか勝負にこだわらないように、ですからあまり大会などには出ないほうがいいのかもしれません。それから水泳、特に水中ウオーキングが非常にいい運動です。一方、アスレチックジムでバーベルを挙げるような、力む運動はお勧めできません。血圧が高い方は、特に血圧が上がりやすい運動ですので、避けていただきます。ボーリングのように重いものを持つのも、あまりいい運動ではありません。かかりつけの先生がおられれば、どのくらいの運動をしていいかということは、いろんな他の病気との関係もありますので、ご相談いただいたほうがよろしいです。運動療法としては、やはり、歩くのが最も簡単で、どなたにとってもいいと思います。
きょうは薬についての詳しいお話はしませんが、いろいろな薬があります。コレステロールができて血中コレステロールが上がりますので、コレステロールの合成を抑えて、下げるのが今一番よく使われている薬です。HMG-COA還元酵素阻害薬・スタチンという薬があります。コレステロールが高くて治療を受けている人がここにいらっしゃるとすれば、殆どの方がこの種類の薬を飲んでおられると思います。いい薬がたくさんありますので、薬を飲むことでかなりコレステロールが下がりますが、先程から申し上げておりますように、運動と食事、特に食事が重要であることをお忘れにならないようにしてください。また、症状がありませんので、定期的に検診を受けていただく、かかりつけの先生に自分のコレステロールが今いいかどうか、もしいろんな病気があるなら、コレステロールをどれくらいにしておけばいいのか、ということをご相談いただくことが大事です。
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