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NO.28 |
とかち健康フェア2003
肥満と生活習慣病 -肥満を科学する-
(4/8)
*正常な脂肪細胞は調整役ですが…
ここで問題になるのは、細胞が大きくなるという状況です。脂肪細胞が大きくなるとどうなるのかをここで示しています(図3)。脂肪細胞は血管の周りを取り囲んだ形で存在しています。血液には糖や脂肪が流れ、必要な所に行っていますが、大体は筋肉に取り込まれてエネルギーとなり、手足を動かしたり運動したりするのに使われます。食事を少し摂り過ぎると余った糖や脂肪が血液の中で増えますが、そういう状況になると脂肪細胞がこれらの糖や脂肪を取り込んでしまいます。その結果、血液中の糖や脂肪は一定に保たれます。多少食事を摂り過ぎても血糖値もコレステロールもそれほど上がらない仕組みになっているわけです。
ところが、食べ過ぎの状況が長く続くと、血液の中の糖や脂肪が余った状況が続くため、脂肪細胞がどんどん取り込みを続け、結果的に脂肪細胞は大きくなってきます。肥満の人の脂肪細胞が大きいのはそういう理由です。問題なのは脂肪細胞がそういう具合に大きくなってしまうと、人と同じで、脂肪細胞もお腹一杯になってしまって、糖や脂肪の取り込みが少なくなってしまうことです。そうなると、血液の中の糖や脂肪が余った状態になっても脂肪細胞の取り込みが少ないので、高血糖になったり、コレステロールが高くなったりします。その結果、糖尿病や高コレステロール血症になりやすくなるのです。繰り返しますが、肥満になるということは脂肪細胞を大きくすることです。脂肪細胞が大きくなればなるほど正常な働きをしなくなり、糖尿病や高コレステロール血症を招くような状況になります。
脂肪細胞は単に脂肪を取り込むだけでなく、いろいろなものを作ってくれます。そのなかで、代表的なものを紹介すると、アンドロゲン、エストロゲンというものがあります。それぞれ男性ホルモンと女性ホルモンです。これは男性や女性という、性を形作るホルモンです。それからアンジオテンシンUというものも脂肪細胞で作られ、これは血圧に関係すると言われています(注:これらのものは脂肪細胞以外の場所でも作られています)。
*食べ過ぎ防止機構に赤信号
最近、肥満と関係あるということで注目されているのが「レプチン」と「アディポネクチン」ですが、それについて少しお話します(図4)。普段、糖や脂肪分がどのように使われているかをここに示します。膵臓からインスリンが出て筋肉に作用すると、糖や脂肪をどんどん使ってくれます。糖や脂肪を血管から取り込んで筋肉で燃やし、運動をするわけです。このインスリンが肝臓に働くと、肝臓が余分な糖や脂肪を蓄えてくれるので、糖尿病や高コレステロール血症にならなくて済みます。正常な脂肪細胞はレプチン、アディポネクチンというものを出し、これがインスリンと一緒に働くと、インスリンの作用が非常に強くなると言われています。ところが、肥満になって脂肪細胞が大きくなると、この細胞が作るレプチン、アディポネクチンが少なくなるので、インスリンの作用が弱くなってくるわけです。これも糖尿病や高コレステロール血症になりやすい一因と言われています。
レプチンは満腹感にも作用します。レプチンは血液に乗って脳に行き、満腹中枢を刺激し「もう僕はお腹いっぱいだよ」という信号を送ります。それによって、私たちはお腹がいっぱいになったということを感じて、食べることを止める結果、食べ過ぎが防止されるわけです。肥満になってレプチンがあまり出なくなると、満腹感がなくなるのでどんどん食べ、食べてしまうことでまた肥満になってレプチンの作られる量が減ってきて、この悪循環がどんどん繰り返されます。
まとめますと、肥満になると脂肪細胞が余分な糖や脂肪を取り込み過ぎたために大きくなってしまい、その結果、糖や脂肪を蓄えられなくなって血液の中の糖やコレステロールが増えてしまい、最終的に、糖尿病や高コレステロール血症になりやすいと言われています。また脂肪細胞がレプチンやアディポネクチンを作らなくなってしまうために、インスリンの働きが悪くなって、これもまた糖尿病になりやすい状況になります。また満腹感が少なくなるので余計に食べてしまう結果を招きます。日本人の特性として、日本人の50%の方はアディポネクチンを作りにくい体質と言われています。これは先程述べた、日本人が欧米人に比べて軽い肥満であっても、糖尿病とか高コレステロール血症になりやすい原因のひとつかもしれません。
*肥満を治すことは脂肪細胞の働きを元に戻すこと
肥満症になるのは脂肪細胞の働きが異常になることであって、逆に肥満を治すことは単に痩せてスタイルが良くなることだけではなく、脂肪細胞の働きが元に戻るということです。働きが元に戻ることによって、食べ過ぎ時の糖やコレステロールの取り込みを正常にします。あるいは、レプチン、アディポネクチンの働きも元に戻ります。
ここでひとつ申し上げたいのは、一日でとる食事は数回に分けた方が良いといわれますが、これは今の理屈でよく説明できます。脂肪細胞が処理できるカロリーの量は決まっていて、これを超えると脂肪細胞はどんどん大きくなってきます。同じ一日の総カロリーで食事を分けて食べると、脂肪細胞は食べた時に一瞬大きくなり、食事と食事の間にお腹が空くので脂肪細胞から糖やコレステロールが出て、また小さくなります。次の食事の時もまた一瞬大きくなり食間に小さくなる、ということを繰り返しますので、脂肪細胞の働きは悪くならないで済むわけです。少ない回数で同じカロリーを摂ろうとすると、一回の食事で脂肪細胞が取り込む糖や脂肪の量がとても多くなるため、脂肪細胞がとても大きくなってしまい、結果として、脂肪細胞の働きが悪くなります。
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