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健康講座「動脈硬化はどうすれば分かるか」
「動脈硬化を推定できる内科的検査はあるか」
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分かる部分と分からない部分
これはCTです。CTを撮ると簡単に動脈硬化がわかります。こちらは左の冠状動脈が白く見えます。心臓の血管が動脈硬化を起こし、そこにカルシウムが溜まっている状態です。先程のレントゲン写真でも見えましたが、あれと同じです。このように見えると動脈硬化があることが分かりますが、この血管が将来心筋梗塞になるかどうかは分からないのです。
動脈瘤も、血管に白くカルシウムが溜まるのも、動脈硬化の結果であり、エコー、レントゲン、CTでよく分かります。CTも最近は非常に早くいろいろなことが分かるようになってきました。心臓の血管がずっと見えるCTもあり、それを見ると硬い場所がよく分かります。これが心臓の血液が流れている場所で、ここに少し黒い所がありますが、こういうものを持っている人が本当に危ないのであって、硬い状態の人はあまり危なくないのではないか、と心臓については言われています。
予防できるのか、できないのか
私たちの病院に心筋梗塞で入院される方は、80歳以上が約20〜25%です。80歳まで生きられる方は、根は丈夫で、動脈硬化を起こす危険因子が全くないか、あっても1個程度です。男性ですと、タバコぐらいです。女性の方ですと、糖尿病があったり、あるいは高血圧がちょっとあったりという程度です。同じく若い人、40代、30代の人は約15%いますが、その方たちは血管に悪い要素、危険因子を平均で四つ持っています。
もう一度振り返りますと、歳をとると動脈硬化が起こるというお話をしましたが、動脈硬化が起きて硬くなった血管がゆっくり詰まっていって、最終的に血を流さなくなって心筋梗塞になることがあります。これはなかなか予防し切れません。ところが柔らかい動脈硬化がある場合には、若い人でも、突然、心筋梗塞や脳梗塞を起こすことがあります。こういうケースが本当に危ないのだ、ということが段々分かってきました。欧米型のこういうものを何とか見つけようと、我々循環器の医者は必死でやっているわけです。
先のことはあまり分からない
この他にもいろいろな内科の検査が行われています。上腕動脈の血管は、血管がどのくらい広がるかという能力、つまり反応性が心臓の血管と非常によく似ているので代用品として使います。心臓の血管に限らず、我々の血管は、血管の一番内側に内皮という薄い皮状のものがついていて、この働きが悪くなると動脈硬化が出てきます。薄い皮から血管を広げる物質が出ている、と発表した人がノーベル賞をとりました。それだけでノーベル賞がとれるというすごい発見で、それから、世の中ずいぶん変わりました。激変したと言ってもいいくらいの変わりようです。この内皮がしっかりしているかどうかを診る方法として、腕の動脈を血圧計で約5分間締めっぱなしにし、ぱっと緩めると血管が広がって血液が流れますが、この程度がよければ動脈硬化が少ないことがわかるようになりました。
今までのお話で、皆さん、動脈硬化になると脳梗塞で麻痺が残ったり、心筋梗塞で死んだりするのではないかと非常に不安に思ってらっしゃることでしょう。動脈の様子は、ある程度は現在の検査で評価できそうですが、将来、脳梗塞や心筋梗塞になるかどうか分かるのだろうか―これがやっぱり一番知りたいところですね。あなたは動脈硬化があります、と宣告されると、将来、自分は心筋梗塞や脳梗塞で死ぬのだろうかと不安になります。将来どうなるのか。残念ながら、まだ先のことはよく分からないのが現状です。
いろいろな人のデーターを集め、危険度を確率で予測できますが、ある意味では馬券みたいなもので、この馬の勝率がこうだから次はこうだろう、と同じようなことです。直すことは大変進歩したのですが、予測はまだまだです。若い方を除いて、皆さん既に動脈硬化を持っていて、それがどの程度安全かを知りたいのですが、そこまではまだ分からないのです。ですから、「動脈硬化がありますか」という質問には「あります」と答えますが、「安全ですか」には「分からない」と答えるのが、医学の現状だと思ってください。
時間が味方、長生きはしたいもの
ただ、いろいろな研究が行われておりますので、いい方法が出てくるまで長生きをしたいものです。先程、国原先生のお話にもありましように、足の血管のカテーテル治療も一泊二日くらいでできるようになりました。昔は手術しかありませんでしたが、直ぐできるようになりました。そういう点でもずいぶん楽になりました。長生きするといろいろな面で楽になることが多いですね。
話を戻しますが、残念ながら将来予想が今のところまだ困難です。ですから皆さんがどうなっていくか、将来どんなふうに老いて、どんな病気に罹るかまでは分かりません。これについては何とも言えません。
アテローム型動脈硬化が曲者
動脈硬化には大きく二種類あります。一つは線維性の動脈硬化で、これには年齢が関係していて、年齢とともに動脈が硬くなります。我々の体にはさまざまなストレスがかかります。紫外線を浴びる、風邪を引く、いろいろな攻撃因子がくる、血圧が高くなる等々。年齢がこういうことに抵抗して、カルシウムが溜まって血管が硬くなっていきます。これは年齢が原因ですので、残念ながらまだ予防はできません。
もう一つ、これは欧米型で、アテローム型動脈硬化。心臓の病気とかそういうものの危険因子と言われているものと関連しています。こういう因子が多ければ多いほどなりやすいと言われています。実は、このアテローム型動脈硬化が曲者です。首の動脈で淡いもやもやとしたもの、心臓の血管で少し色が薄いもの、こういった血管の壁についたものを動脈硬化斑と言いますが、これはコレステロールの塊です。これがあると良くないということがわかります。
血管の傷の修復過程で動脈硬化
長い一生の間、我々の動脈にはいろいろな攻撃因子が加わり、血管に傷もつきます。それをどれだけ修復できるかは個人差がありますが、修復過程で動脈硬化ができます。ですから、必ず、皆さんには動脈硬化がある程度できますが、高血圧があったりすると慢性的にこういう傷ができやすくて、傷ができては直し、傷ができては直し、ということを繰り返しています。と、やがて細くなっていったり、柔らかい動脈硬化になったりします。糖尿病もそうです。たばこも傷を作ります。コレステロールが高い、高脂血症、中性脂肪、肥満、遺伝的にも起きます。
女性は生理がなくなると、急激に動脈硬化が進みます。女性ホルモンが動脈硬化を予防してくれるので、女性にとって、女性ホルモンはすごく大事です。女性ホルモンが無くなると同時に、動脈硬化は一気に進みます。話はずれますが、女性ホルモンを打ったら動脈硬化にならないのではないかということで、実は、欧米でそういう試験がありました。欧米では、動脈硬化予防の為にではなく、自分がきれいになりたくて女性ホルモンを打っているのです。それで、どうも動脈硬化が少ないようだという話があって、昨年、一昨年、大規模な試験が行われました。結果は、残念ながら、あまりよくなかったです。がんが増え、動脈硬化の予防にはなりませんでした。
ある日突然…
アテローム型動脈硬化の構造をみてみましょう。血管の内部に柔らかいコレステロールの塊があって、これは柔らかくて、じゅくじゅくしていて炎症を起こします。イメージとしては、血管の中にできたにきびのようなものと考えてください。炎症が起こると、皮が弱くなって裂けてしまいます。裂けると、突然この中身が血管に出るので、それが引き金となって血管の中に血の塊ができます。ここを修復するために血の塊ができるのです。血の塊ができて血管を完全に塞いでしまうと急性心筋梗塞、ちょっと流れていると不安定狭心症になります。破れるということが重要です。それまで全然何でもなかったものが、ある日突然起きます。こういうタイプが非常に怖いのです。
急性心筋梗塞になる人の約75%は、細い血管からではなく、一見まともに流れている血管からなります。普段から細いところが心筋梗塞の原因になる方は、大体25%しかいません。細いから危ない、というわけではありません。ところが、このアテロームの破裂する時期が予想できません。予兆もありません。だから将来予想ができないのです。治療法としてはいろいろなことが分かってきました。血中コレステロールを下げると、ゆるゆるの動脈硬化がもう一度硬くなって元に戻って、少し良くなってくるということが分かってきました。治療法としては、コレステロールを下げるのが良さそうです。100%ではありませんが、防いでくれる可能性があります。
フラミンガム住民のデーターが物語るもの
アメリカは心筋梗塞や脳梗塞が非常に多いところです。特に心筋梗塞が多いのですが、フラミンガムという小さな町で、昔から住民のデーターをとっている大学があり、そこが今後10年間で狭心症、心筋梗塞が発症する確率を出しました。まず年齢で言えば、女性は60代、70代から急激に増え、点数が高くなっています。これは、50代くらいまでは女性ホルモンがあるのであまり起きないのですが、それを過ぎると急激に確率が高くなっています。年齢は動脈硬化の大きな要素です。こういう点数を合わせていって、最終的にどうなるか。
それからコレステロール。これは裏返せばこういうことに気をつけてくださいということですが、男性は、若い方で280以上と高い値です。今、日本人のコレステロールは非常に高くなっていて、欧米とほぼ同じです。特に若い方が顕著です。皆さんのお孫さん、もしくはひ孫さんぐらいの子供のコレステロールの値が既に欧米と同じです。将来どうなるかというと、動脈硬化が早くて心筋梗塞が多いだろうとの予測です。余談になりますが、広島県は移民の多い所でしたが、昔、ハワイに渡り、その後ハワイから更に米国本土に行くというケースが多々ありました。そこで、ずっと広島県に住んでいる人、ハワイに行った移民、それからアメリカ本土に行った移民のコレステロールの値を調べると、アメリカ本土への移民の値がぐっと高くなって、心筋梗塞の人が増えています。いかに食事が大事かということが分かります。