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NO.27 |
健康講座「動脈硬化はどうすれば分かるか」
「動脈硬化を推定できる内科的検査はあるか」
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手稲渓仁会病院循環器内科部長 村上 弘則先生
「動脈硬化は内科的にどうすれば分かるか」という演題でお話せよ、とのことでありましたが、非常に難しいテーマです。最初はお断りした経緯があります。
誰にでも訪れる老化
皆さん、歳をとるということを考えてみてください。歳をとると、若い時には想像もつかなかったことが起きます。まず目にきます。私も今は老眼ですが、老眼になると、駅で切符を買うのがこんなにも面倒臭いものか、と初めて分かります。ちょっとした段差を越すのに、どうしようと考えるようになる、筋力が弱る、耳も少し遠くなる、知らず知らずのうちに頭も薄くなる、皺も増える、昔はもう少しいい男だと思っていたのに…。このように、少しずつ皆さんは老化していきます。
人間、生まれたからには必ず死にます。老化は皆さんに等しくやってきます。人の寿命は、遺伝的にある程度決まっているそうですが、それをどうやって削っていくかが勝負で、削り方が少ない人は比較的長生きします。ただ、現代医療はいろいろなことが可能になり、その部分をもう少し延ばすことが段々できるようになってきました。
病気とのグレーゾーン
歳をとるということは、ある意味で病気とのグレーゾーンを作ることです。何でもないのですがやがて死ぬ―そこが問題なのです。ここからここまで病気で、ここからはそうではない、というのではなく、歳をとってからの病気は少し違います。実は、動脈硬化は年齢が増えるにつれ、皆さん必ず出てきます。全く病気がない方でも、頭やいろいろな所の血管が少しずつ硬くなって、動脈硬化が起こってきます。どこにも病気がなくても、脳梗塞や心筋梗塞になる人がいます。「ずっと、病気なんかないと医者に言われてきたのに、どうして、私だけがこんな目に遭うの」とおっしゃる方もいますが、歳をとるということはいろいろな臓器が硬くなって老化していくことなのです。
一番早く表面に現れるのが皮膚や髪の毛です。臓器は比較的長持ちしますが、腎臓だけは早目に悪くなり、80代ですと若い時の約4割の機能しかありません。正常な人でもこの程度になります。歳をとるということは、実は動脈硬化を起こすことです。ですから、動脈硬化があるイコール病気がある、ではありません。「私、動脈硬化があるでしょうか」と外来で訊ねる方がたくさんいますが、あります。しょうがないことです。私ももう既にあります。大分記憶力が悪くなり、五つ質問されても四つは覚えていなくて、一つしか答えられないようなことが普通になってきました。そのぐらい衰えてきています。
外来でよく経験しますが、特に男性の方は、耳が聞こえ難くなると自分に都合が良いように解釈し、家に帰るとほとんど病院のことを言いませんので、家族は何も知りません。突然悪くなって、「どうだったのですか。我々が何時も言っていることなのに」と聞くと「何にも知りませんでした」ということがよくあります。ご本人は自分のいいように解釈し、我々と全然違うことを考えていて、家族に話を聞くと、実はこんな病気があると2つ、3つ出てくることもしょっちゅうです。
動脈硬化の二つのタイプ
動脈硬化が起こってくると、いろいろな所で少しずつ変わってきます。内科で動脈硬化と言うのは、皆さんが歳をとって出てくる動脈硬化のことです。動脈が硬くなって、それで脳梗塞や心筋梗塞を起こすことがあります。ここを分かってほしいのです。それとは別に、最近分かってきたのですが、欧米化した食生活になってから出てきた突然発症する脳梗塞や心筋梗塞があります。この二つのタイプがあり、時には併存することもあります。訊かれる方は動脈硬化は一つだと思っていますけれど、実は違う、ということを分かっていただきたいのです。
それでは、動脈硬化を評価できる検査方法はあるのでしょうか。動脈硬化という現象面を見ることは大分できるようになりましたが、将来予測となると話は別です。ここが、きょうのポイントです。現象面を見るということは、例えば手相で「生命線が長いですね」とは言えますが、本当に長生きするかどうかは分からないのと同じです。
病院に行くと、レントゲン写真と心電図だけとられた時代がありました。(スライド省略、以下同じ)このレントゲン写真を見ると、心臓から大動脈を出たところに血管が輪切りになっている部分があり、ここを拡大すると白い筋が見えます。これは大動脈が動脈硬化を起こし、そこにカルシウムが溜まっていることを表しています。カルシウムが白い筋となって血管の壁に溜まっているところです。レントゲン写真しかない時代には、こういう白い筋があると「大動脈という所に動脈硬化が出てきましたね」と、注意を喚起していました。せいぜいこのぐらいだったのですね。この時代には、動脈硬化が起きると狭心症や心筋梗塞になる危険度が男女とも1.2倍になり、女性では脳梗塞が出る危険度が1.5倍になる、と言われていました。
エコーで動脈硬化度を診る
このような動脈硬化は、歳をとってくると皆さんにあります。80代の人はほぼ全員あると思っていただいて結構です。そのぐらいあるものです。これではどうも内容がわからないということで、いろいろな検査方法が考案されました。実際に動脈硬化度を診るには、最近はエコーを使います。ちょっと時間がかかりますが、痛くない検査方法です。首のエコーを撮ると、血管の壁の厚さをIMTと言いますが、この厚さが年齢とともに増加します。動脈硬化は年齢とともに起きるということですね。これが病気かと言われると、病気ではないかも知れません。病気ではなくて、歳とともに出てくるものなのかも知れません。
一番上の血圧と一番下の血圧の差が増大するに従って血管の壁が厚くなり、厚くなるにつれて脳血管や心臓の血管の病気と関係があるようだ、ということが分かっています。首のところに拍動が触れますが、そこにエコーを当てて厚みを測るだけで大体分かります。ただし、これは先程も申し上げたように現象面であって、生命線が長いとかきょうの星占いでは運勢が良いというのと、実はあまり変わらないかも知れません。
現状把握と将来予測
首の動脈にはいろいろなものがあります。正常であれば頚動脈の一番拍動している場所がちょっと太くなっていますが、この人は少し細くなっています。それからこの人はかなり細く、半分位になっています。先程のIMTがこのぐらいで、そこに動脈硬化の部分が乗っかっているのがわかります。カルシウムが溜まっています。こちらの白いもやもやとしたものが血液の流れで、一部分では白いものがなくて詰まっていて閉塞しているのが分かります。閉塞すると脳梗塞になる確率が非常に高くなります。それから狭窄が高度になればなるほど脳梗塞との関連性が大きくなります。
一般的にこの程度の狭窄、軽度の狭窄と脳梗塞が関連するかどうかは、実はまだよく分かっていません。「ある程度狭くなっていますね」と言えても、脳梗塞になるかどうかは予測がつきません。でも動脈硬化があることは分かります。何度も言いますが、動脈硬化があるかないかは今の検査で結構分かります。しかし将来どうなるかは、ちょっと難しい問題です。
そうすると、一番知りたいのは、どのようなものが危ないのか、あるいはそんなに危なくないのかということでしょう。いろいろ研究されていますが、エコーで撮って硬く白っぽいものは、細くてもあまり悪くならないが、もやもやとしたものは梗塞を起こす可能性が高そうだ、ということまで分かっています。こういうのをプラークといいます。非常に柔らかくてソフトなので「ソフトプラーク」といいます。


