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「あなたの健康を守る特別講座」
「動脈硬化のふたつの形―拡張病変と狭窄病変―に対する診断と治療」
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左右差があるかどうかに気をつけて
次は検査の話ですが、一番簡単なのは先程言った、足を上げてみることです。もっと確実なのは、足の脈を触れてみること。それをきちんと数値に表わすには足の血圧を測る。それで怪しいと思ったら、大きな病院でMRIや血管造影をやってみてください。
自分ではなかなかできませんが、ご家族に足の甲を触れてもらうのがいいでしょう。しばらく待つとだんだん脈が触れてくるのがわかります。踝の内側にも大きな血管があるので、ここも触るとよくわかります。親指の付け根もわかりやすいところです。また、手でも足でも片側だけ痩せているとか、色が白っぽいとか、体毛が薄いとか左右差があったら、もしかしたら、片側の栄養が少ないのかもしれません。このようなこともASOを見つける要素になります。
足の血圧と手の血圧の差に着目
血圧は、足の関節の血圧と手の関節の血圧を測ってその比をとると、普通の方は手より足のほうが少し高くなっていて、1倍〜1.2倍あります。それがASOになると0.9位で、脈を触れることの次にやるべき確実な方法です。昔は手で測ってすごい時間がかかっていましたが、最近は日本のメーカーが便利な機械を作って両手、両足に巻くだけで自動的に測ってくれます。
血圧が低いことがわかったら、次は血管造影です。血管造影は、昔は結構大変で、入院してやらなければならなかったのですが、最近はMRIで心臓までの血管が非常に簡単にしかもきれいに出ます。患者さんは細い注射を打つだけです。それで見ると、この方はこの分かれたところからちょっとしてから閉塞しているのがわかります。それからこれは太腿の付け根のあたりです。ここにも本当は太い血管があるはずですがこのようにまったく閉塞してしまっているのがわかります。
手術一辺倒ではありません
次は治療の話です。もしASOだと言われたらどうしたらいいか。病院に行ってASOだと分かったら、手術されるのではないか、とためらう方もいるかと思います。でも今はいろいろ治療が発達し、手術一辺倒ではありません。軽度から中程度のASOの患者さんは、薬物治療と運動療法でかなりの割合で良くなります。1.5ヶ月、3ヶ月、半年までたつと、偽の薬を飲んでも運動療法をしただけで、歩く距離が、最初は130mだったのが倍近くまで歩けるようになっています。それにプラスお薬も飲んだら、更に倍以上歩けるようになっています。このような結果もありますので、治療は手術だけではありません。それから「足が痛いから私はあまり歩かない」という消極的な考え方ではなくて、足が痛いけど騙し騙しどんどん歩いていけば、次第に歩けるようになってくるという治療方法もあります。その原理は何かというと、こういった詰まっているところの回りに側副血行路といって、要するに、国道が詰まっても道道とか市道が脇に延びていくわけです。
カテーテルだけでの対応も
でもやはり進行したらどうしても手術しなければいけない患者さんもいます。その中でも、手術までしなくても、最近はこういったカテーテルだけで直すということもよく行われています。細い2、3mmの管を太腿の付け根から入れ、バルーンで膨らませてそこに金属の筒上のものを入れると、狭いところがずっと広いままでいられる。それでもだめな長い距離がずっと詰まっている患者さんは、仕方ありませんのでバイパスを入れることになります。バイパスに使うものは自分の静脈ですとか、すごく発達しておりますので、人工血管も多いです。
重症の方では、腎臓の付け根から太腿の付け根まで、膝までというように長いバイパスを使うこともありますし、太腿の付け根から下だけでバイパスを使うこともあります。中には、右側は完全に詰まっているからバイパスをし、左側は細いだけなのでバルーンで膨らませる、といったハイブリットあるいはコンビネーション治療も最近ではよく行われます。この例では、下の方はバイパス、上の方は膨らませる治療をしています。
ASOの有無で寿命に差異
ASOはなぜそんなに一生懸命治療しなければいけないか。これは国立循環器病センターから出た我が国のデータです。ASO患者さんはそうでない人より寿命が短く、それで治療の重要性が言われています。60歳以下でもASOなし、ありでこれだけ差があって、66歳以上でもこんなに差があります。
これは外国のすごく多い人数で調べた結果ですが、間歇性跛行の患者さんの30%は5年以内で死んでしまう。そういうショッキングなデータが出ています。なぜかと言いますと、ASOは結局この演題にもある通りやっぱり動脈硬化なのです。手とか足の血管だけではなくて、脳や心臓の血管でも動脈硬化が進んでいるからです。これも外国で調べた結果ですが、ASOと脳と心臓とこんなにオーバーラップする部分があるということで治療が大事だと言われています。
合併症発症の予防が肝要
ASOの患者さんの死因も心筋梗塞、脳卒中などです。大体40%の方はASOで亡くなるのではなくて、合併症としての心臓や脳の病気で亡くなります。動脈硬化はやはり現代人の敵と言えると思います。どうしたらいいか、というとこれも内科の話になって申し分けないのですが、食事や運動不足を節制して合併症の発症を予防するとともに、もしあったとしても治療をきちんとしていくということが大事です。
ちょっと話がずれますが、ASOで手術をした患者さんが退院する時「これから何に気をつければいいでしょうか」という質問がよくします。まず、たばこは絶対止めて下さい。でも、アルコールは増悪因子ではなくて予防因子になります。何故かと言うと、たばこは血管を縮める役目をしますが、アルコールは血管を広げる役目をするからです。ですから、あくまで多少のアルコールはいい、と何時も言っています。勘違いして深酒をし、それにプラスしておつまみをいっぱい食べて、反って悪くなってしまう人もいますが、あくまでも適度なアルコールは、たばこを吸うよりは絶対いいという結果が出ています。同じ理屈ですが、間歇性跛行になる割合はたばこを吸う人と吸わない人で、血圧、コレステロール等いろんな条件で、常にたばこを吸う人のほうがASOになりやすいという結果が出ています。
最後にまとめですが、治療の基本原則は禁煙、生活習慣病の高血圧や脳の病気の予防と治療です。それから軽度の人は薬物療法と運動療法があります。重症でもバルーンやステントを留置する手術があります。手術だけではありません、細かいことですが予防のためには手や足を冷やさないとか、爪なども巻き爪になっているとそれが元で潰瘍ができることもありますから気をつけるとか、小さな傷も必ず治療しておく、といったことが大切です。
このようなチェックリストもありますので、ここに当てはまるようなことが一つでもありましたら普段通っている先生に相談してみてください。