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NO.27 |
「あなたの健康を守る特別講座」
「動脈硬化のふたつの形―拡張病変と狭窄病変―に対する診断と治療」
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北海道大学病院循環器外科 国原 孝先生
現われる場所はさまざま
拡張病変というのは、いわゆる動脈瘤です。狭窄病変にはいろいろ種類がありますが、きょうは話を簡単にするために閉塞性動脈硬化症に限ります。英語でarteriosclerosis obliteransと言い、ASOと略します。ASOのほうが皆さんになじみが深いと思いますので、狭窄病変からお話します。ASOは要するに手足、抹消の血流が悪くなる病気で、いろいろな場所に現われます。お臍の下から両足に分かれた骨盤の中の腸骨動脈、太腿の大腿動脈、膝の血管、足の関節辺りなどさまざまです。どうして起こるかと言うと、正常な血管では内部に血が通る道が充分に確保されていますが、そこに脂肪やコレステロールの塊などいろんなものが段々溜まり、粥状硬化と称して、本当にお粥のようなぐちゃぐちゃしたものが溜まって、血の通り道が細くなり、ついには詰まってしまい、ASOの症状が出てくるのです。
55歳過ぎたら要注意
日本にどれ位のASOの患者さんがいるのか、実は、きちんとした統計がありません。外国のデータによりますと、歩いたら痛くなる間歇性の動脈硬化が年齢と共に多くなり、55歳以上では大体人口の4.5%の方にASOの症状があります。ですから皆さん、55歳以上になったら、このようなことに気をつけて、自分の体をチェックしていただきたいと思います。
私は今春までドイツにいましたが、やはり、食生活が明らかに違います。食生活を反映してか日本のASOの患者さんは、あくまで推定ですが、外国の1/2〜1/10と言われています。国内のデータが僅かにあったのですが、重症虚血肢、要するに潰瘍ができたりするような患者さんの割合は、大阪府調べによると100万人に43.4人で、それほど多くないようです。
症状V度以上は手術も
ASOの症状ですが、重症度に応じた分類があります。一番ポピュラーなのがFontaineという人が考えたFontaine分類で、全世界で使われています。まず軽いほうからT度は症状がないか、あっても、足の先が冷たいとか、しびれる程度。U度が先程言いました、歩くとふくらはぎがつったり、太腿がつったりするが、休むとまた歩ける、いわゆる間歇性跛行。V度になるとだまっていても痛い。休んでいても足の先が痛くなる安静時疼痛。W度になると潰瘍、壊死です。V度〜W度を重症虚血肢と呼んでおり、V度以上は手術をする適用が充分にあります。U度に関しては、患者さんの満足度に応じて対応します。「私はこれで全然困らないからいい」ならそのまま、「私は仕事で歩くから何とかしてほしい」なら治療の対象となります。
手足のチェックが大切
(スライド省略、以下同様)ASOの方にサーモグラフを当てると、例えば、右側が赤いが左側は赤味が少なく、冷たくなっているのがわかります。足を上げてみると、ASOの患者さんは足の血圧が低いのでつま先まで血を送れなくなり、足が白くなってしまいます。足を下げても、色の戻りかたがすごく遅い。こういった簡単なテストでも分かります。手足のチェックが非常に大切です―変色しているかどうか、それが悪化して潰瘍になるかならないか、壊死にならないか。少なくとも、足の色をチェックするだけでも、もしかしたら早目にASOを発見できるかもしれません。
間歇性跛行の一番の特徴は歩くとだるくなり、少し休むとまた歩けるようになることです。この繰り返しで、歩けなくなってきます。ご婦人方はよくウインドウショッピングをされますね。行っては止まり、また行っては次の店で止まる。その様子がよく似ていることから、ドイツでは間歇性跛行をウインドウショッピング病とも呼んでいるようです。だるくなるのは、一番多いのはふくらはぎですが、太腿のこともあるし、中には全体に出る人、足首に出る人もいてさまざまです。
腰の骨の病気でも同じような症状
同じような症状で見分けなければならないのは、腰の骨の病気です。腰の骨の中は脊髄が通っていて、脊髄が通る道は骨で囲まれています。お年を召して骨が変型してくると、その通り道が狭くなってきます。そうすると脊髄が骨に当って、間歇性跛行と同じような症状が出ることがあります。ASOは歩くのを止めて休憩すると痛みが消え、また歩けるようになりますが、脊髄の通り道が狭くなる病気、脊柱管狭窄症では歩くのを止めても痛みは消えませんが、かがむと楽になります。かがむと骨が曲がって脊髄が圧迫から解放されて楽になり、また歩けます。その他にも脊柱管狭窄症には元々の腰痛がある場合や、かがめば楽なので自転車では全然症状が出ません。そうなると、もしかしたら背骨の病気かもしれないので、整形外科の先生に診てもらったほうがいいかもしれません。
その他にも気をつけなければならないのは、糖尿病でも同じような潰瘍がでることです。この場合に怖いのは、糖尿病では知覚異常があるので、潰瘍になかなか気付かないことです。糖尿病の方は、こまめに足のチェックをすることが非常に大事です。他に静脈疾患でもそういった症状がでますが、これについては話が長くなってしまうので省きます。足の潰瘍は、患者さんの痛みは相当なものです。できる箇所は心臓から離れた所、要するにポンプ機能が及ばない端のほうという特徴があります。


