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NO.24 |
健康特別講座「不整脈でお困りですか」
内科医の目で見た不整脈
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【不整脈と心電図について】
不整脈の診断についてもう一度お話します。人間の長い歴史の中で、心電図はたかだか100年前に世に出てきましたので、それまでは脈に頼って不整脈を診断していました。現代は不整脈を「脈拍の異常」というよりも「心拍の異常」と捉えます。それには何といっても心電図です。心電図とは、心臓が拍動する時に生じる電位を記録したものです。脳波は脳が活動する時に生じる電位を記録したものですが、今では目の動きとか、網膜の活動とか、いろいろな部位の小さな電気現象による電位を記録することができるようになりました。
皆さんが健康診断とか病院で受ける心電図は12誘導心電図です。入院して状態を観察するために、電波で心電図を送って詰所などで監視するのがモニター心電図、そして長時間連続して記録できる携帯型の心電図をホルター心電図といいますが、どちらも広く普及していて不整脈がよく見つかるようになりました。見つけることは非常に大事なのですが、多くは性質が悪くない良性不整脈であるにも拘わらず、単に「不整脈がありますよ」といわれると、その時から患者さんの悩みが非常に深刻になってしまう場合もあるわけです。性質の良いものかどうか、薬が必要かどうかなど正確な診断と説明を聞いて下さい。性質の良い不整脈であれば仲良くして、普段は忘れて生活して欲しいと思います。
それでは心電図と心電図を記録するいろいろな方法についてお話しします。
これが心電図(省略)です。縦軸が心臓の拍動によって生じる電位で、横軸が時間です。記録される波形には名前が付いていて、心房の収縮を示す小さなP波、心室の収縮を示す尖がっていて大きなQRS波、そして心室が拡張するときに生じるT波とU波、これらがワンセットになって、心臓がドッキンと拍動し全身に血液を送り出しているわけです。
通常の心電図を記録するときの実例(省略)です。電極を手足に4個、胸に6個つけて心電図を記録します。
これはモニター心電図(省略)です。病室からナースステーションに患者さんの心電図や、時には呼吸とか血圧なども電波で飛ばしたり、有線でつないだりして集中管理します。これはホルター心電図(省略)です。服の下に一式全部が収まるような形ですが、記録方法がテープからデジタルに代わるなどして大変小型になり軽くなりました。通常は胸に5つの電極をつけ、24時間分の全心拍を連続的に心電図として記録し、それを解析装置で解析して不整脈の種類や頻度、狭心症の所見の有無などを診断します。
心臓に負担をかけて記録する心電図を運動負荷心電図といい、そのための代表的な診断装置がトレッドミル(省略)と自転車エルゴメーター(省略)です。トレッドミルの原理はルームランナーと同様で、角度とスピードを段階的に変えられるベルトの上を歩くことにより心臓に負荷をかけます。自転車エルゴメーターは、段階的に抵抗を変えられるペダルを漕ぐことにより心臓に負担をかけます。運動負荷心電図は、運動により狭心症や悪性の不整脈を生じないかどうかを診断する上でとても有用な方法です。
【不整脈と心臓の働きについて】
不整脈と心臓についてもう少し考えてみましょう。
不整脈が問題になるとすれば、それは心臓の働きにとって問題だということです。心臓の働きに悪い影響を与えるから問題なので、不整脈自体を問題にするというよりも、その不整脈によって心臓の働きが損なわれないかどうか、ということなのです。そこで心臓の働きについて簡単におさらいしておきます。心臓の働きは、よくポンプに例えられます。心臓の働きが悪くなって心不全になることを、ポンプ失調と言います。歴史的に古い表現で、いまだに用いられます。ポンプとは、昔の井戸ポンプですね。今の電動ポンプとは違います。
ポンプですと、水を汲み上げて、そしてガッチャンとやって水をノズルみたいなところからバケツに誘導し、そこに溜めるわけです。心臓の場合は、全身に廻っている血液がもう一度心臓に戻ってくる。つまり、血液を心臓に1回溜め、溜めた血液をまた送り出す。閉鎖回路です。地下から際限なく水が供給される井戸とはそこが違います。閉鎖回路を一定量の血液が循環しています。血液を溜め、溜めた血液を送り出すことがポイントです。
心臓を中心とした血液の循環は大きく二つに分けて考えます。ひとつは体循環(または大循環)といい、主に左心室から全身に赤い血液、酸素の多い動脈血を送ります。全身の臓器や組織では、その動脈血から酸素や栄養などを受け取り、二酸化炭素や老廃物等を排出します。そういうことを行っている場が毛細血管です。酸素を離して二酸化炭素を受け取り、青く黒っぽくなった静脈血が右心房に戻ってきます。
右心房に戻ってきた血液は、肺循環(または小循環)といいますが、右心室から肺に送られます。肺でガス交換、つまり二酸化炭素と酸素を交換して、また赤い血になって心臓に戻ってきます。その赤い血が全身に行って、その酸素が消費されて再び心臓に戻ってきます。
戻ってきた血液を再び送り出す、その戻ってくるということも非常に大事なのです。送り出すだけではありません。血液は一定量だけ循環しているのですから、送り出した血液はその分だけ戻ってこないと、また送り出すことが出来なくなります。また、心臓に溜める時間が必要です。その溜める時間のことを拡張期と言います。心臓が拡張して肺や全身に行っていた血液が心臓に戻って来る時間が必要です。収縮ばかりでは血液は循環しません。溜めて送って、また溜めて送るということを繰り返す。それが心電図ではP波、QRS波、T波として記録されています。
体循環というのは(図は省略)、この赤い色のついたところで、動脈血が左心室から大動脈・動脈を通って全身の臓器に行き、そして臓器から静脈・大静脈を通って静脈血が心臓に戻って来る系のことです。
私の心臓と向き合っていると思って下さい。右の肺と左の肺に囲まれた真中の所に心臓があります(図は省略)。これは、右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋が分かるように縦に切って広げてあります。後で大堀先生が、脈拍がどう出来上がっていくかということをお話するとは思いますが、心臓は筋肉で出来ておりまして、この筋肉がギュット収縮して、右心室と左心室に溜まった血液を送り出します。ですから、心臓が心臓としての働きをするためには、脈拍が正常に打っていること、つまり、ちゃんと血液を送るだけの力を発揮できる拍動であることと、送り出す力の源になっている心臓の筋肉が弱っていないことが大事です。
整理しますと、血液を送り出す力は心臓の大部分を占める筋肉の収縮によって作られます。心臓に溜めた血液を効率よく駆出するためには、心臓が全体として順序良く、しかもほぼ同時に収縮する必要があります。心臓の各部分が互いに連関しないでニョロニョロと動くのではなく、全体としてドッキンと短時間に強い収縮をしなければ血液を送り出せません。
【心臓の拍動と刺激伝導系】
心臓は自分自身を動かすために、自分で電気的な刺激を出します。日本では症例が少ないのですが、心臓移植のために体から切り離された心臓を考えると分かりやすいでしょう。移植された心臓には神経が繋がっていないのですが、それでもドッキンドッキンと動くわけです。すなわち、心臓には本来自分自身で拍動する能力があります。これを自動能といいます。
自動能は体の必要に応じて調整されます。交感神経、副交感神経などの自律神経、それからノルアドレナリンなどのホルモンによって、体がどのくらい血液を必要としているかによって調整されます。10の血液が必要であれば、10の血液が必要なように心臓は拍動し、収縮する強さと回数がうまく調節されます。
素早く心臓全体が拍動するために、心臓には自分自身が出した電気的な刺激を伝える特殊なルートを備えています。刺激伝導系です。
電気を発生する大元の洞(房)結節、ここが病気になりますと刺激の発生回数が少なくなり、脈が大変遅くなったりします。洞結節からの刺激は、右心房と左心房の心筋に伝わり、さらに房室結節、右脚、左脚などの組織を経由して右心室と左心室の心筋全体に非常に速いスピードで伝えられます。そうすると、心臓はドッキンという強い収縮で血液を送り出します。その時に出来る波がそれぞれ、P波だったりQRS波だったりして先程の心電図のような波形が生まれます。
不整脈は刺激伝導系の異常、刺激を発生して伝える経路の異常で、心臓が目的に反して調節されずに勝手に拍動してしまう、または、必要な拍動を保てない状態です。例えば毎分60回拍動して欲しいのに30回しか拍動しないと、血液を送り出す心臓のポンプとしての働きが損なわれることになります。
それじゃやっぱり不整脈は大変なことではないか、と思われるかもしれませんが、実は私たちの心臓は何時もぎりぎりの状態で働いているわけではなく、特に健常な心臓は、充分に余裕を持って働いています。この「余裕」を予備能といいますが、このことにより、例え効率が多少悪くなっても、それで生活できないほどの寝込む状態になることはありません。逆に、もともと効率が悪くて、ぎりぎりで働いている人の心臓にとっては、ちょっとした不整脈でも非常に大きな影響が出てしまう場合もあります。
ですから、心臓がしっかりした心臓かどうか、余力のある心臓かどうか、ぎりぎりで働いている心臓かどうか、ということによっても不整脈による影響の度合いが違ってきます。
もう一度心電図をよく見てください。電気的な刺激の伝わる順序を示しておりま。洞結節で発生した電気的刺激が心房に伝わり、これを受けて心房が収縮する際に発生するのがP波、次に心房から心室に刺激が伝わり、心室全体が収縮して大きな電気を発生するのがこの尖がったQRS波、心室の電流が消失していく時に発生するのがT波です。これに続く平坦な部分は心臓が全体として拡張して血液を貯めこむ時間で、貯めた血液をまた心房、心室の順番で収縮して全身または肺に送り出します。
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