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NO.24 |
健康特別講座「不整脈でお困りですか」
内科医の目で見た不整脈
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【不整脈の実例】
1.徐脈性不整脈
心拍が異常に遅かったり、突然心臓が止まったりする徐脈性不整脈についてお話しします。
(1)洞不全症候群
トントンと打った後ちょっと休んでいますが、これ位では倒れることは普通ないです。2〜3秒位ですから。しかし、ここでは6秒位全く心臓が動いていません。洞結節が心臓を動かすための刺激を出していないから、その間心臓が拍動しません。こういう状態を洞不全症候群と言いますが、心臓が止まっている間は脳に血液が行かないため倒れてしまいます。6.5秒後には心拍が再開していますから、この人は亡くなってはいません。しかし、いつ、どこで突然倒れるか分かりませんから、安心して生活は送れません。今は、良いペースメーカーがありますので、ペースメーカーの治療を受けると、正常な人とほとんど変わらない生活ができます。
この例では数10秒間も心臓が動いていません。それでもその後また心臓が拍動していますので、この方も死んではいませんが、多分気を失っています。極端な例をご覧いただいているのですが、私が医者になった30年位前の大学の循環器病棟には、このような方がおりました。30年も前ですから、循環器科の進歩もまだという時代であり、この例のように意識を失って、生きるか死ぬかの状態まで行って、ようやく診断されるというような状況がありました。
今は、健康診断を受ける機会も多いし、早くから不整脈を見つけるホルター心電図などの診断手段が発達していますので、このような極端な例を見かけることは非常に少なくなりました。
(2)房室ブロック
洞房結節から刺激が出ているのですが、その刺激が心房から心室へ伝わって行かない状態を房室ブロックと言います。
この例では2回に1回の割合で刺激が心室に伝わっておりません。そのために脈拍数が半分になっています。
この例では心房から心室に刺激が全く伝わっていません。刺激が心室に伝わって行かないと、心臓が止まってしまうことになりますが、実は、心臓はそれをうまくカバーする仕組みを持っています。刺激を伝える経路(刺激伝導系)は、普段はただ刺激を伝えるだけですが、このような異常事態になりますと自分が代わりに刺激を出すという潜在能力を持っているのです。この代わりに出した刺激で心臓が拍動することを補充収縮といいます。もともと心臓の働きがよい人では、こういう状態でも症状がないこともありますが、めまいや失神、息切れや呼吸困難の原因になることがしばしばで、通常はペースメーカーで治療します。刺激が出ていない場合でも、出た刺激が伝わらない場合でも、ペースメーカーを用いれば心臓は止まることもなく、もともとの心臓と100%同じというわけにはいきませんが、ほとんど支障なく生活出来るようになります。
2.頻脈性不整脈
必要がないのに刺激が出て心臓が過剰に拍動してしまう頻脈性不整脈についてお話しします。
(1)心室性の頻脈性不整脈
これは心室性の期外収縮です。正常な拍動の後に、短い間隔で幅の広い、顔つきの悪い波形が見られます。刺激が正常に伝わって来ているのに、心室のある部位から刺激が出てしまうことによる不整脈です。これは非常に頻度が多く、私の不整脈もこれでした。何でもないとは言っても、感じる人には気持ちの悪いものです。全く感じていない人も、また日常生活に支障がない人も大勢います。おそらく、全国民を調べたら2/3位の方からこういう不整脈が、一日に一万個以上か、一日に数個か、一週間に数個か、一年に数個かもしれませんが見つかります。有るか無いか、多いか少ないかよりも、原因となる特別な心臓病が有るのか無いのかということが大事です。目立った心臓病が全くない場合から重い心臓病を持っている場合まで、背景は実に多彩です。取りあえずは病院に行って、原因となる心臓病が有るかどうか、そして治療が必要かどうかを診断してもらうことをお勧めします。
心室性期外収縮の場合、間に必ず正常に拍動をしている部分があれば、大抵は大丈夫なのですが、連続していると問題です。この例では、心室性期外収縮が三つ繋がって出ていますが、繋がって出てくることが問題なのです。どこにも正常な拍動がなく、心室性期外収縮の波形が連続している状態を心室頻拍といいます。心臓が血液を送り出す効率は極端に落ちてしまいます。時には脈を触れられない位に血圧が低下し、心不全やショック状態に陥り、さらに長く続くと心臓麻痺という最悪の状態になるかもしれません。これに気がつかない人はほとんどいません。なるべく速やかに救急車で病院に搬送することが最善の選択になります。
この図では正常な拍動の次に心室性期外収縮が起き、その後は心臓がニョロニョロとしか動いていません。まとまって一度にドッキンと拍動していないので血液は送られず、実質的には心臓が止まっているのと同じ状態です。こういうのを心細動といいます。これは稀な不整脈ですけれど、心筋梗塞等の重症の病気になった時にこの不整脈で命を失うことがあります。
(2)心房性の頻脈性不整脈
これは心房性の不整脈で、心房粗動といいます。心房がやたらと沢山収縮しているため心臓の効率が悪くなるのですが、心室頻拍と違ってその程度は比較的小さいのが普通です。心房粗動とか心房細動という心房のレベルでの不整脈では、いきなり重篤な状態になることはないのですが、長く続くと脈が異常に速かったり遅かったりして、心不全や失神の原因になったり脳塞栓の原因になったりすることがありますから、なるべく早く病院で治療を受けるべきです。
【おわりに】
内科の医者として、不整脈の問題とは何かということをまとめてみます。
不整脈を感じている人にとっては、良性で治療の必要がない不整脈であっても、変な拍動をすると不安になります。死んでしまうのでないだろうか、意識がなくなってしまうのではないか、倒れてしまうのではないか、そういう不安を抱いて病院に来られます。このような方には、一生懸命説明して不安やノイローゼを取り除いていただきます。反対に、不整脈によって血液の循環が悪くなってめまいを起こしたり、呼吸困難になったり、最後の特殊な心電図(心室細動)のように突然死に至ることもあります。非常に稀ではありますが、ジョギングなどをしていて亡くなっているのは、おそらくこのような例ではないかと推測されます。このように普段自覚していない不整脈が危険性の大きい不整脈に変化することもありますので、特別な病気がない方でも定期的に健康診断を受けることを、また心臓に病気を持っている方は定期的に受診して治療を受けることをお勧めします。
<質問>
不整脈で通院していて4種類の薬を飲んでいる。病院からは続けて飲めといれているが、ある程度薬で心臓を制御してしまった後、続けて一生飲み続けたほうが良いのか。
<加藤先生>
血圧の薬を飲む目的は、動脈硬化性の病気、例えば脳梗塞や心筋梗塞、腎不全などの臓器合併症を予防することにあります。そいう意味では長く飲むことが多いのですが、一生同じ4種類の薬をのみ続けるかと言ったらそれは違うと思います。生活習慣を改善して血圧が下がって来るかもしれないし、逆に歳をとって更に血圧が高くなる場合もありますから、定期的に受診して血圧を測った上で薬を処方してもらうのが良いと思います。それは不整脈においても同じです。その時々で、薬が効くか効かないかという問題があります。
不整脈の薬がある時に効いたからといって一生効いているとは限りません。逆に悪化させる場合もあります。ですから定期的に通院して今必要かどうか、治療効果があがっているかどうかを確認してもらうのが正しいと思います。
また、原因によっては一生その不整脈と付き合わなければならないことがしばしばあります。例えば、心房細動という不整脈は、多分60歳以上の1%位、70歳を超えると5%位と非常に頻度の多い不整脈ですが、これは一生付き合わなければなりません。その時々で必要に応じてなんらかの薬を飲む、ということになります。
一方、若い頃は交感神経の活動が不安定で、不整脈が起きやすい要因となっていることがあります。特にストレスが重なっている時や、過労に近い状態では不整脈が増え、そういう要因が無くなった時には薬を飲まなくても良いほど不整脈が見られなくなる、ということを実際に経験します。
それからもう一つ、弁膜症や高血圧症の心疾患、狭心症などの心臓病があり、それが主な原因となって不整脈が非常に多く出ていることがあります。元々ある心臓病をよくすると不整脈がほとんど出なくなる場合があります。その場合も不整脈の薬は飲まなくて良いですね。そういう意味でも、高血圧症や心臓病を持っている人は、その病気をしっかり治療することが非常に大事です。
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