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健康特別講座「不整脈でお困りですか」
内科医の目で見た不整脈
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市立札幌病院循環器科部長 加藤 法喜先生
【はじめに】
「不整脈でお困りですか」というタイトルですが、私は循環器内科医として日常的に患者さんを診察しておりますので、その観点から不整脈のお話をします。
不整脈とは脈の不整、つまり不規則な脈です。脈は脈拍と表現したり、心臓の拍動ですから心拍と表現したりします。脈拍は、心臓から送り出された血液の流れによって動脈内で生じる圧力の変化で、動脈の拍動として触知(触診)することができます。多くは簡単に手首で脈を診ますが、その他に肘の内側、首、こめかみや股の所など、割と浅い所にある動脈で脈を診ることができます。これに対して、心拍は実際の心臓の拍動のことです。胸部でドッキンドッキンと感じているのが心拍ですが、空気と同じで、私たちは心臓が動いているのをほとんど意識しないで生活しています。私たち医者が「脈拍」と言ったり「心拍」と言ったりする時も、正確に脈拍だ、心拍だと考えないで話していることがあります。心臓の拍動を簡単に検出できるようになったのは最近のことで(1901年にオランダ人のEinthoven により初めて心電計が作られました)、現在でも実際には脈をとって心臓が動いている、動いていないを確かめたりしますし、脈拍を診て不整脈を知ることが多いわけです。
【不整脈でお困りですか?】
さて、メインタイトルは「不整脈でお困りですか」ですが、私は、ここにお集まりの皆様が全員不整脈でお困りになっているとは思っておりません。困っていない人の方が多いと思います。それでは、困っていない人には不整脈が全く無いのか、困っている人は本当に大変なことなのか、ということが問題なのですが、不整脈の有無でいいますと、皆さんが気づくか気づかないかは別にして、不整脈は決して稀な現象ではないのです。
実は、統計の取り方によって不整脈の頻度は大きく変わってきます。つまり、ちょっと触って脈が乱れているか乱れていないかを診ると、ほとんどの時間帯で脈が乱れていない人が多いのですから、不整脈の頻度は非常に少ないことになります。ところが連続的に24時間監視すると、結構見つかります。そういう状態を一週間も続けたら、もっともっと見つかります。単に乱れるか乱れないかという視点で見ますと、不整脈はそれほど稀な現象ではなく、実は、2/3以上とか、3/4以上の方々に見られる現象です。全ての人の、ですよ。子供や若い人からお年寄りまで含めて3/4以上の人に不整脈があります。もしかしたら100%に近いかも知れません。長期に観察すればするほど頻度が増えます。
それでは、不整脈があるから心臓の病気を抱えているかというと、実際は心臓病を持っていない人が大部分です。不整脈については、それがあるから非常に困る、ないから安心だという問題ではないのです。
実は、私も医学生のころ脈の乱れを感じ、実習の時に心電図をとりましたら、確かに不整脈がありました。それ以後、時々、不整脈が起きているのを感じますし、駐車場で車から降りる時に、ひどい乱れを感じたこともあります。だからといって、私は心臓病ではありませんし、不整脈の薬を服用したこともありません。それでも、不整脈に気づいてから30年以上、何事もなく生きております。
ということで、不整脈イコール大変な病気、不整脈イコール生きるか死ぬか、とはなりません。むしろ、大部分の不整脈は薬を服用する必要がないし、そのことで健康を損なうこともない、生活に支障をきたすこともない、命を失うこともない、とお考えいただきたいのです。
不整脈は自覚症状が有るものでしょうか。実は、「感じる(自覚する)不整脈」と「感じない(自覚しない)不整脈」があります。動悸やめまいなど自覚症状があるのが全て悪い不整脈で、何も感じない、苦しくない、めまいも無いし動悸も無いのが良性の不整脈かというと、そうとは限りません。悪性の腫瘍が、全く自覚症状がないために知らない内に進行している、ということがままあります。早期から症状の出る癌もあるのですが、症状として全く感じないということもあります。これは癌に限らず病気一般に当てはまることです。不整脈を自覚するかどうかは不整脈の種類にもよりますし、個人差も大きな要因となります。また同じ人、同じ不整脈でも、動いている時には全然気がつかないで、夜、床に入って静かにしている時にドキッとして、「変だな、ひょっとして」と不安になる場合もあります。しかし、一日中不整脈が出ていても、動いた時、安静時に関係なく感じない人もいます。
不整脈に気づくきっかけはさまざまです。自覚症状があれば病院で診てもらう機会が多くなりますし、テレビで脈の話をしていたので自分で触ってみて気がついた、ということもあるでしょう。最近は自動血圧計が普及してきましたので、家庭で血圧を測る、そうすると脈拍も表示され、ピッピッとランプがついたりします。それが一定の間隔でなく、時々抜けたりすることで気がつくこともあるでしょう。健康診断または人間ドッグで、たまたま見つかることもあります。
不整脈は脈の不整、心拍の不整、これが一般的な考え方ですが、脈拍の間隔が不規則とは限りません。徐脈は異常に遅い脈のことで、通常は60/分以下と定義していますが、実際に症状として出てくるのは50/分以下です。頻脈は運動している時ではなく、安静にしている時に異常に速い脈のことで、通常は100/分以上です。また、脈拍数が正常で、しかも規則正しく、血圧を測っても特に異常でない、という不整脈もありますし、心電図では心臓の拍動が規則正しく記録されているのに、正常でない、つまり不整脈と診断される場合もあります。
【良性の不整脈と悪性の不整脈】
一番の問題は、脈の乱れがあることがイコール命に関わる問題かどうかにあります。つまり、著しく生活レベルを制限したまま、こぢんまりと生きなければならないのか?心臓に負担をかけないで、静かに半分死んだようにして生きなければならないのか?そういう不整脈もありますし、命に関わる不整脈もあります。性質の良いものを仮に「良性の不整脈」、命に関わるようなものを仮に「悪性の不整脈」と表現します。
良性の不整脈についてお話しします。心臓の働きは全身に血液を送ることですが、脳や肝臓、腎臓といった臓器とその組織の血液の循環に与える影響が小さく、臨床経過が良好で命の危険がほとんど無いか全く無い不整脈、これが性質の良い不整脈です。往々にして心臓の働きが正常で、心臓自体に目立った病気がないということが多いのです。従って、脈の乱れを自覚していても自覚していなくても、ほとんど薬などを必要としません。私たち医者は「性質の良い不整脈なので早く慣れてね。忘れるようにしてね」と患者さんに話をします。それでも悩みが深刻でノイローゼのようになって、こぢんまりとした生活しか送れない人もいます。そのような時には「あなたは普通に動いていて大丈夫なのですよ」と一生懸命説明しますが、やむを得ず抗不安薬を処方することもあります。
悪性の不整脈は良性不整脈とは全く逆で、脳循環や腎臓や肝臓への血液循環に悪影響を与え、そのままでは以後の臨床経過が危惧され、時には命の危険性も大きい不整脈であり、知らないでそのまま過したら、命に関わることもあります。一般的に、不整脈の原因となるような重い心臓病を持っていることが多いのです。
えば高血圧で心臓が肥大しているとか、最近は非常に少なくなってきたのですが弁膜症、そして近年増加傾向を示している狭心症、心筋梗塞などの動脈硬化系の病気です。突然死の報道などで話題になることがある心筋症も悪性不整脈の原因となることがあります。このような例では、不整脈の治療もさることながら、その原因となっている心臓病(基礎心疾患と言います)の治療が大変重要なポイントになります。
一方、稀ではありますが、心臓には全く異常がない、いろいろ検査をしても確かな心臓病はないのですが、突然死などを招く非常に危険な性質の悪い不整脈が見られることもあります。
何れにしても悪性不整脈に対しては薬による厳重な治療、循環器内科専門医による治療、または心臓外科の先生による専門的な治療が必要になります。


