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NO.17 |
心臓血管病と薬の正しい知識を得るために
(7−5)
高血圧の薬には多くの種類があります。「塩分をたくさんとって高血圧になるなら、塩分を体から出してやれば下がるだろう」という極めて単純な発想で、利尿薬(体内の余分な塩分、水分を尿として排泄する)がよく使われます。それからベータ遮断薬というのは、心臓はポンプと一緒ですから、ポンプはぎゅっと押せば水はぼんと上がりますね。弱く押せば少ししか上がらない。このように、心臓を少しおとなしくさせて、血圧を下げる薬です。アルファ遮断薬というのは手足などの抹消の血管を広げてやります。血管がひろがれば、中の圧力(血圧)は下がります。カルシウム拮抗薬やACE阻害薬も、作用機序は異なりますが、ほぼ同じ作用を持っています。このように、高血圧の薬には色々な種類の薬があり、重症度がどれくらいか、ほかの危険因子はないか、心臓病を合併しているのか、心機能は、高齢者か、腎障害はないか・腎機能はいいか、前立腺肥大がないか、肺は悪くないか、などなど色々なことを考えながらその患者さんに最も適した薬を選んでいきます。つまり、同じ病気でも人それぞれでみな最適な薬は異なります。どの病気もそうですが、一種類のみで万人に効く薬は存在しません。よく聞く誤解に、"ある人に効いたから私にも同じものを使ってくれ"というのがあり、これはいかに意味が無く、時に危険ですらあるか、理解できると思います。よく健康食品でもありますね、"隣の奥さんが効いたから私も…"というのはかなり注意が必要です。
糖尿病の話に移ります。成人期に発症するほとんどの糖尿病は、インスリンという血糖をさげるホルモンが"相対的に"欠乏することが原因です。では、糖尿病になって直ぐインスリンを打つかというと、それは緊急時など例外的で、通常の治療ではそういうことはありません。ただし、子供の糖尿病で、糖尿病1型と言われているものは、"絶対的"にインスリンが欠乏しているため、最初からインスリン治療を開始します。生活習慣病として発生してくる、圧倒的多数は糖尿病の2型と言われているものです。いきなり2型の糖尿病になるわけではなく、またいきなりインスリンが必要になるわけではありません。最初健康であった人が、遺伝的因子のうえに、不適切な生活習慣が加わり、徐々に境界型(血糖状態が少しずつ高くなっている、糖尿病の予備軍)になります。ここで生活習慣を改善したりして、適切な指導があるといいのですが、そうでなければいずれ糖尿病になってしまいます。糖尿病のなりやすさは、遺伝的にも知られていますが、必ず発症するというものではなく、あくまでも背景として存在します。それに分泌可能なインスリンをこえる高カロリー(糖負荷)が加わったり(例えば−過食、運動不足、ストレス、肥満などの生活習慣・環境因子)、インスリンを分泌するすい臓の細胞が疲弊してくると、相対的にインスリン不足となって糖尿病になります。
糖尿病も軽いうちは食事・カロリー制限、運動療法などで良くなります。インスリンの分泌量が少なくなり、またその効果が低下してくると、経口薬(糖の吸収を阻害する薬やインスリンの分泌を促す薬)を使用することになります。しかし、いかなる経口薬も不十分な場合は、最終的には糖尿病の1型と同じようにインスリンを補充しなければならなくなります。したがって、ある日突然糖尿病になるのではなくて、長年にわたる日々の生活習慣や環境因子が大きく関与します。逆にいうと自分で努力できる部分がたくさんあるわけです。ですから、それを理解できれば、自分で病気を予防する、治療できる、ということにつながります。「親が糖尿病だから俺も糖尿病になる運命だ」というふうには決して思わないで下さい。
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