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NO.17 |
心臓血管病と薬の正しい知識を得るために
(7−2)
患者数では上位三つが循環器疾患
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先ほどは死亡原因の比率でしたが、生きている患者さんの病気として実際何が多いかというと、実は癌よりは脳血管障害や心臓病の原因となる病気を患っている方が圧倒的に多い (図2)。つまり高血圧です。癌は精神分裂病とほぼ同じですね。脳血管疾患、心疾患の罹患率(すでに発症して患っている率)は癌より多いわけです。こういった病気を起こす高血圧はさらにその2倍以上の罹患率ですね。これは後からもお話しますが、高血圧、糖尿病、高脂血症の患者さんは脳血管障害や心臓病の予備軍です。したがって、きちんと治療しないといけない。放っておけば脳血管障害や心臓病を発症させますので、高血圧、糖尿病、高脂血症を治療することが、このような病気の発症を予防できるわけです。患者さんの絶対数からいくと、この上位3つ全部がいわゆる循環器疾患、癌を除く生活習慣病なわけです。このことの重大性が分かってもらえると思います。
厚生省の国民栄養調査の資料からですが、日本人の健康状態、栄養状態を調べる研究が毎年発表されています。先程いった危険因子というのを調べた結果です。そうすると、日本人50〜59歳の平均塩分摂取量が、1日なんと男性16.5g、女性が14gです。ピンと来ないと思いますけど、欧米人の約2倍です。つまりアメリカやヨーロッパの先進国で我々と似た文化的な生活をしている人が、日本人の塩分の半分しか食べていません。塩分は摂れば摂るほど高血圧になります。だから日本人には脳卒中がとても多いわけです。塩分対策によって、日本人の脳卒中による死亡が大幅に減った理由の1つはここにあります。ところが、最近また増えてきており、問題になってきています。推測ですが、コンビニ弁当、ファスト・フード、冷凍食品や調理済食品などが普及してきたためで、気をつけなければなりません。厚生労働省は、せめて塩分を1日13gにしようと目標を設定していますけれど、3g(約20%)減らすということです。皆さんは今の食生活の塩分を半分に減らしたとしても、まだ欧米人の普通食と同じです。病院に入院したら「塩分を制限しますよ」と言われますが、塩分制限した食事は大体7gか8gです。いつも患者さんに言いますが、7〜8gというのは日本人にとっては塩分半分で、味気ない感じがしますが、欧米人にとっては普通食なのです。つまり、アメリカやヨーロッパでは同じ病気で入院して塩分制限されたら2〜4gです。ものすごく厳しいわけです。逆に、日本の塩分対策がいかに"甘い"かということを認識して頑張ってもらいたいものです。
60歳以上69歳までの年代では、6割位の人が高血圧です。血圧を下げる薬を飲んでいる人は約20〜25%、肥満のある方は20%。運動習慣がある、つまり健康のために散歩、水泳など、毎日なんらかの運動をしている人は20%(5人に1人)です。高血糖は、糖尿病と思ってよいですが、15%位。コレステロールが高い、これも男性なら4人に1人、女性なら約半分弱います。この年齢の女性は生理が終わっていますから、コレステロールがぐっと高くなります。1日の平均歩数は7,900歩。ですから、患者さんに"運動療法として、健康のための散歩を勧める" 時は、「1日1万歩」とか「1万5千歩、毎日歩きましょう」と指導します。
それから朝食を食べない人、これは若い人に当然多いですが、20〜30%います。朝食を食べないというのは、当然日中−午前中−働いている時にエネルギーが少ないということ以外に、このことで体のリズム・バランスも崩れてしまいます。朝食をとることは、単にエネルギーの補充だけでなくて、体の中のリズム、交感神経とかホルモンバランスを平常に保つために極めて重要です。単に食べたくないから食べない、エネルギーが必要ない、ということとは全然次元が違った意味ですから、そういう方がいたらやはり注意しなければいけません。
若い年代の高喫煙率は将来の大きな危惧
生活習慣病と密接に関連する喫煙ですが、日本人はまだ全年齢で半分以上もタバコを吸っています。とくに女性をふくめた若い年齢で喫煙率が高いことは将来の大きな危惧です。喫煙率は先進国で減ってきており、これは近代国家、国民教育のバロメ−ターになります。文化程度と逆比例しますから、タバコを吸っているということは文化度・時代の進歩と逆行していると認識して下さい。それから飲酒に関して。アルコールが脳血管疾患や心臓病を増やす、絶対的に悪い、という証拠はありません(アルコールが悪いのは肝臓疾患の場合です)。これはあまり強調したくはないですが、むしろ適量なら、少し飲んだ方が良いくらいです。適度なアルコールはHDLコレステロールと言う善いコレステロールを増やしますから、健康に良いわけです。しかし、二日酔いになる程飲んで良い、2次会に行っても良い、毎日飲んでも良い、ということにはなりません。アルコールの好きな方には自分の都合の良いように理解しないように注意してもらいたいと思います。
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