![]() |
NO.4 |
生活習慣病としての心臓・血管病とその予防(上)
(1−1)
講師 旭川医大第一内科 教授 菊池 健次郎先生
財団法人・北海道心臓協会、北海道新聞社主催の「講演と健康相談」が、3月7日札幌・道新ホールで開かれました。 300人を超す聴衆が集まり、旭川医大第一内科教授菊池健次郎先生の「生活習慣病としての心臓・血管病とその予防」、国立天文台教授家正則先生の「ハワイの8メートル望遠鏡で宇宙を見る」と題した講演に耳を傾けました。 両先生の講演要旨を紹介します。 |
がんより多い心臓・血管病
増え始めた食塩摂取量
わが国における死亡原因の第1位が、がんであることは、皆さんよく御承知のことと思います。第2位は、脳卒中で、心臓病が第3位になっています。しかし、脳卒中、つまり脳血管の障害で起こる血管病と心筋梗塞、あるいは心不全といった心臓病の両方を合わせた心臓・血管病は、がんよりも多いということになります。
それでは、欧米と日本で死亡する原因に差があるかといいますと、アメリカでは心臓病が第1位でがんが第2位です。フランスを除きますと、ほかの欧米先進諸国では第1位は心臓病であります。欧米の人々が、心臓・血管病になりやすい原因に、食生活でのライフスタイルが大きく関わっていると考えられています。
日本は医療機関を訪れる患者さんの中では、心臓・血管病やその原因となります高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満が最も多く、その原因として私たちのライフスタイルの欧米化があげられます。
特に若い方たちや子供さんのライフスタイルが問題でして、小学生の血液中のコレステロール値は、アメリカよりも日本人の方が高いという報告もあり、問題視されております。
このような日本と欧米の違いがありますが、戦後の経済発展とともに、日本人のライフスタイルが随分変わってきております。
食生活が欧米化してきて、日本食を食べない人、米飯を食べない若い人が多くなっています。朝、ご飯を食べないで洋食をとる方が非常に多くなってきております。
それから、後でも国民栄養調査の成績を示しますけれども、脂肪のとり方、特に動物性の脂肪、これは肉をたくさん食べるということですが、これが非常にふえてきている。脂肪はカロリーが高いですから、これをとり過ぎますと肥満の原因になります。それから蛋白質も、たくさんとるようになり、その結果、子供さんたちの体格は随分よくなりました。
従来、日本人は蛋白質は魚や、お豆腐などの大豆製品、豆類、穀類など植物性の蛋白質をかなりとっていました。しかし、動物性蛋白、魚よりも肉の摂取量が非常に多くなってきている。この二つが問題でして、これが、後で申し上げます高血圧や糖尿病など動脈硬化の危険因子を助長し、心臓・血管病の発症に大きくかかわってきます。
先ほど死因のところで、脳血管障害が随分減ってきたこともお話しました。その大きな要因としては食塩の摂取量を随分減らしたことが挙げられます。
特に東北地方では、昔は食塩の摂取量が1日20ないし30グラムと非常に多い地域もありました。それを随分減らしてきました。それが高血圧の重症化、あるいは高血圧の発症頻度を減らしまして、脳血管障害によって亡くなられる患者さんの数が減ったわけです。
しかし、最近は外食の習慣が広がり、あるいはレトルト食品といいますか、保存食、冷凍食品の摂取量が増えています。これらの食品では、保存を効かせるために、食塩の含有量が多くなっています。このような背景もあり、昭和62年以降は食塩の摂取量は増加に転じ、今もむしろ増加傾向にあります。非常に問題です。これは高血圧の大きな原因になりますし、脳血管障害の大きな危険因子になります。
加えて、運動不足と動物性脂肪の多い食事をとりますと当然肥満になります。
子供さん達は、塾に通ったりゲームをしたりというふうなことで運動不足にもなって肥満の頻度が非常に増えている。同時に、先ほど申し上げました血液中のコレステロールのレベルが高くなってきている。これは、動脈硬化に非常につながるということになります。
そこで、生活習慣、つまりライフスタイルによって引き起こされる高血圧、糖尿病、肥満などが絡むような心臓・血管病を生活習慣病というふうに呼んでいるわけです。
今申し上げたことをデータで示しますと、平成7年までの国民栄養調査の成績ですけれども、これは昭和50年を100といたしますと、動物性の蛋白と脂肪の摂取量がどんどん増えてきております。栄養素別、つまり蛋白質、脂肪、糖質に分けて昭和50年から平成7年まで見ますと、糖質は炭水化物、穀類の摂取量が減っておりまして、脂肪のとり方がだんだんと多くなってきております。
摂取全エネルギーに占める脂肪の比率が25%を超えたら、脂肪のとりすぎになります。平成2年には25%を超えております。そしてどんどんその比率が多くなってきている。つまり、日本人は脂肪の取り過ぎ状態が続いているといえます。
食品別ではお米の摂取量が昭和50年から平成7年まででは10%くらい減っています。増えているのは動物性の食品でして、昭和50年では19.3だったものが25になっている。トータルのカロリーとしてはそんなに増えていないのですが、動物性の食品、肉ですね、今は学校給食でも牛肉を使っています。その頻度や量および脂身の少ないものを使うなどいろいろ検討する必要があるのではないかと思います。
それから、脂肪の取り方がどのように変わってきているかといいますと、肉による脂肪のとり方がだんだんふえてきて、魚が少し減る傾向がある。それから豆類とか穀類、こういう物がちょっと減ってきているというふうな経過です。
脂肪の取り過ぎで肥満に
このように脂肪をたくさんとって運動を余りしなくて、特に動物性の脂肪をとっていますと、当然のことながら、過体重とか肥満の頻度が増えてまいります。
男性の場合には、20歳代でも大体10%ぐらいの方が過体重ないしは肥満で、この傾向は40代から50代にかけてがやはりピークで、これは奥様たちにもいろいろ気をつけていただかなければいけないと思います。そして男性の場合には、60代、70代と年齢を経るに従ってその肥満の頻度は減ってまいります。
しかし、女性は10〜20代の若い女性は、最近むしろやせ願望が強くて、大学の1年生、医学部の大学の1年生の学生さんを見てましても、やせ過ぎで、生理までなくなってしまうというふうな学生さんが珍しくありません。これも一つ問題だろうと思います。
しかし女性は家庭を持たれて安定してまいりますと、体重が増えてまいりまして、肥満の頻度が60歳代がピークでして、大体5人に1人の方は肥満である。70歳代以上になられても、余り肥満が減らないというところがやはり女性の問題点でして、女性は50代以降になりますと、生理がなくなって更年期になりますと心臓・血管病にかかりやすい、この危険性が男性よりも急激に上昇してまいります。
アイスクリームですとかケーキですとか、そういうものには脂肪もかなり含まれております。その脂肪の多いものをたくさんとって、運動をしないで、肥満になったときにふえるのが糖尿病でして、糖尿病までいかなくても、耐糖能の異常という病態がこざいます。
これは肥満とか、それから体質が関係いたします。御両親、お爺ちゃん、お婆ちゃんに糖尿病ですとか高血圧があった方は、糖尿病や高血圧になりやすい体質は、100%ではこざいませんけれども遺伝いたしますので、そういうつもりで太らないように、運動を一生懸命するように、脂肪の多いものをとり過ぎないようにというふうなライフスタイルが本当は必要なわけです。(以下次号)

