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NO.5 |
ハワイの8メートル望遠鏡で宇宙を見る
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講師 国立天文台 教授 家 正則先生
私たちは今、21世紀に向けてハワイ島のマウナケア山頂(4200メートル)に、世界一の望遠鏡の建設を進めています。いよいよ来年から観測が始まりますが、この望遠鏡は8メートルの鏡を持ち、愛称[すばる望遠鏡」と呼んでいます。
コンピューター制御で鏡の形をいつも理想的に整えることができ、星の誕生や宇宙の誕生と進化の様子を探るのが目的です。
星の一生は、次のように考えられています。銀河系の中にはガスが漂っていますが、そのガスの濃いところが重力的にあつまってくると、その中の芯(しん)のところに星が生まれます。これが星の誕生です。
ところがうんと軽い星は、自分自身で光れない。太陽がなぜ光っているかというと、真ん中が約2000万度で核融合反応が起こっていて光っているのです。
軽い星は中の温度が原子核反応を起こすまで上がらない、それで光れないのです。
軽くうまれた星は、ちょろちょろと光って長生きします。しかし、重い星だと、明るく輝いて目立つ。でもあっという間に一生を終えてしまいます。最後は重い星だと爆発しますし、軽い星−太陽なんかだと中年太りが進んで表面からガスが逃げ、やがて芯が残る。
宇宙の最初には水素原子しかありませんでした。私たちの体をつくっているタンパク質は、炭素、窒素、酸素、水素といった原子が分子となって組み合わされてできています。髪の毛一本の中にも炭素、窒素、酸素原子が含まれています。実は水素以外の全ての元素は、いつのころか分かりませんが、どこかの星の中の核融合反応で水素からつくられたものなのです。分子、原子レベルでいって、私たちは宇宙起源の存在なのです。
私たちの銀河系には2000億個の太陽があるといわれています。宇宙には私たちの銀河系のような銀河がいくつあるか分かりませんが、宇宙全体の質量などから推定すると1000億個から1兆個以上の銀河があると考えられています。それだけの広さをもった宇宙には、われわれと同じような惑星を持った星も必ずあるはずです。ひょっとすると私たちだけが宇宙のなかの知的生命、文明であると考えるのは思い上がりなのではないかと思います。
ところで、望遠鏡をつくって初めて宇宙を見たのは、イタリアのガリレオです。1610年ごろですが、木星に4つの衛星があり、天の川はたくさんの星から成っていることなどを、観測して初めて明らかにしました。
イギリスのW・ハーシェルは、直径1メートルぐらいの望遠鏡で観測の結果、「天の川の星の分布は薄い板のような構造で、私たちはその真ん中にいるらしい。だから板の面の方向にそって見ると星がたくさん見え、板に垂直に見あげると数が少ないのだろう」と初めて考えたのです。
もう一人アメリカの天文学者ハッブルは、アンドロメダ大星雲の観測に力を注ぎ、この大星雲が私たちの銀河系と同じくらいの大規模な天体で、宇宙にはこのような天体が何億、何百億とあることを明らかにしました。このことによって人類の宇宙観は一挙に広がりました。彼のもう一つの大きな発見は、遠くの銀河ほど速いスピードでわれわれから遠去かっていることを明らかにしました。これは宇宙が膨張していることを表しているのです。
銀河までの距離は、どれもとてつもなく長く、私たちが見ているのは銀河の過去のすがたなのです。遠くをみるほど昔を見ていることになり、宇宙の果てを見ることは、宇宙の始まりを見ることになるのです。宇宙は膨張を続けるのか、収縮に転じるのか、観測で明らかにできそうな時代になってきたのです。(文責・稲葉)

