![]() |
NO.6 |
生活習慣病としての心臓・血管病とその予防(下)
(1−1)
講師 旭川医大第一内科教授 菊池健次郎先生
医療機関を訪れる患者さんの病気で最も多いものは、男女とも高血圧が1番で、2番目が心臓病、3番目が糖尿病、4番目が脳卒中で、この上位四つは全て生活習慣病であり、心臓・血管病であります。
近年、急増しています糖尿病と心臓・血管病の関係をお話しします。糖尿病における血管障害は、太い血管と細い血管に分けることができます。
さまざまな血管障害を起こす
太い血管では、心臓から出ていく大動脈、脳に血液を送る頸動脈、心臓に栄養を送る冠状動脈、腎臓に血液を供給する腎動脈、下肢に血液を送る大腿動脈などに動脈硬化性の血管障害が起きてきます。これは脳梗塞、狭心症・心筋梗塞、高血圧・腎不全、下肢の壊疽(えそ)などを引き起こします。こうした血管障害は、糖尿病のない人に比べ2〜4倍多いといわれています。
細い血管では、網膜、眼底の血管に糖尿病性の変化が生じ、失明の原因になります。心臓の極めて細い血管にも障害が起きて、糖尿病性の心筋障害といった心臓機能障害が生じます。腎臓では糖尿病性腎症という、高血圧やネフローゼ症候群を伴いやすい腎機能障害が発症、これが進行し、腎不全になり透析をしなければいけなくなります。最近は糖尿病性腎症による透析患者さんが急増しており、大きな問題になっております。
動脈硬化は10代から
動脈硬化は、既に10代の若いころから始まることが、最近の研究で分かってきています。しかし、血管の内腔の4分の3以上がコレステロールなどで詰まらないと症状は出ません。したがって症状がないから大文夫ということには必ずしもなりません。症状が出るのは相当動脈硬化が進んでしまっていることを意味します。
脳にいく太い血管、頚動脈の動脈硬化は、むかし日本人には少なく欧米人に多い病気でしたが、最近は日本人でも増えています。特に肥満体で糖尿病や血液中のコレステロールが高く、高血圧を合併している人に多くみられます。これには、生活習慣が大きく関係していると考えられています。
食塩摂取は控え目に
一番大切なのは、血管に脂肪が沈着する動脈硬化を予防することです。そのためには食生活やライフスタイルの思い切った改善、健康診断や住民検診の励行が極めて重要です。
平成7年度の食塩摂取量の全国平均は13.2グラムですが、北海道は13.9グラムです。目標の10グラム以下、できれば一日7〜8グラムに遠く及ばず摂り過ぎです。
食塩摂取量を減らすには、醤油をつかうときは減塩醤油にする。生野菜に含まれるカリウムは食塩を尿の中に追い出す作用がありますから、生野菜をたくさん食べる。その際に食塩やマヨネーズをかけない。代わりにレモンやスダチなどをかけるといったことを子供のころから習慣づけることも大切です。
アルコールは適量ならよいのですが、とりすぎると心臓・血管病の原因になりますし、尿酸値を高めて痛風を悪化させます。また、アルコール多飲者と糖尿病の人では、尿中にマグネシウムが出過ぎてマグネシウム欠乏を起こします。
多様な食材をバランスよく
マグネシウムが足りなくなると高血圧や狭心症、動脈硬化、糖尿病などを悪くします。お酒をのむ人はマグネシウムを多く含んだ海藻類、穀類、ナッツ類をカロリーオーバーにならないように補うことが大切です。
カルシウムも大事で、所要量は一日600ミリグラムといわれていますが、日本では、まだそこまで達していません。牛乳、乳製品のほかカルシウム補給食品が宣伝されていますが、カルシウムのみを多くとるのではなくマグネシウムとバランスよくとることが狭心症や心筋梗塞の予防上大切とされています。
運動も大切です。歩く歩数が多いほど、動脈硬化を予防するHDLコレステロールが増えます。一日30分は急ぎ足で、ちょっと汗ばむくらいのスピードで歩くことです。
このようなライフスタイルを一生懸命やっていても、たばこを吸っていると、心筋梗塞を予防できないともいわれています。日本全体の喫煙率は最近下がってきていますが、若い女性の喫煙率はむしろ高くなっているのは問題です。
アメリカのダイエット法
最後にアメリカで推奨されている食餌、ダッシュダイエット(表1,2,3参照)を紹介しましょう。一日2,000キロカロリーとして、どういうものをとったらよいか、単位数で書いてありますが、わかりやすく示しています。穀類で何単位、野菜・フルーツで何単位、乳製品は低脂肪のものを3単位とか。甘いものが欲しいときは、ゼリーなどの低脂肪、低カロリーのものにするなど具体的に書かれています。
日本では、お米をもうすこし食べる、肉類でなく魚を中心にする、大豆製品や野菜をたくさん食べることです。ダイエットは短期間に過度に行うのは危険です。毎日少しずつ食習慣と運動を組み合わせて継続させることが大切です。
表1 DASHダイエット (Dietary Approaches to Stop HT 1997)DASHダイエットを利用したサンプルメニューを参照。
食品群 1日の
食事単位数1単位の食事量 例 と 注 意 DASHダイエット法に
おける各食品群の意味穀物と穀物食品 7〜8 パン1切れ
ドライシリアル2/1C
調理ライス、パスタ、
またはシリアル1/2C全粒パン、イングリッシュマフィン、ピタパン、ベーグル、シリアル、グリッツ、オートミール エネルギーと繊維の主要な供給源 野菜 4〜5 葉の多い生野菜1C
調理野菜1/2
野菜ジュース6オンストマト、ポテト、ニンジン、エンドウ、カボチャ、ブロッコリ、カブの葉、コラード、キャベツ、ホウレンソウ、アーティチョーク、インゲン豆、サツマイモ カリウム、マグネシウム、繊維の重要な供給源 フルーツ 4〜5 フルーツジュース6オンス
中位のフルーツ1
乾燥フルーツ1/4C
生・冷凍または缶入りフルーツ1/4Cアプリコット、バナナ、ナツメヤシ、ブドウ、オレンジ、オレンジジュース、グレープフルーツ、グレープフルーツジュース、マンゴー、メロン、ピーチ、パイナップル、プルーン、干しブドウ、イチゴ、タンジェリン カリウム、マグネシウム、繊維の重要な供給源 低脂肪または無脂肪乳製品 2〜3 牛乳8オンス
ヨーグルト1C
チーズ1.5オンス脱脂乳または1%乳、脱脂または低脂肪バターミルク、脱脂・低脂肪ヨーグルト、部分脱脂モッツァレラチーズ、脱脂チーズ カルシウムと蛋白質の主要な供給源 肉、鶏肉、魚 2以下 調理した肉、鶏肉、または魚3オンス 赤身のみ選び、脂は取り除く。フライにせず、あぶり・蒸し焼き・ボイルする。鶏肉の皮は取り除く 蛋白質とマグネシウムの豊富な供給源 ナッツ、種子、豆果 週に4〜5 ナッツ1.5オンスまたは1/3C 種子1/2オンスまたは2さじ 調理豆果1/2C アーモンド、ハシバミ、ミックスナッツ、ピーナッツ、クルミ、ヒマワリの種、インゲン豆、ヒラ豆 エネルギー、マグネシウム、カリウム、蛋白質、繊維の豊富な供給源
(注:1単位は、特定カロリーを指すものではない。C;カップ オンス;約30mlまたは28g)
表2 DASHダイエット サンプルメニュー (1997)
1日2,000カロリー食における食事単位
食 品 群 単位数 穀 物 8 野 菜 4 フルーツ 5 乳製品 3 肉、鶏肉、魚 2 ナッツ、種子、豆果 1 脂肪と油 2.5
表3 DASHダイエット食のヒント (1997)
●少しずつ始める。食事習慣に合わせて徐々に変えていく。 ●パスタ、ライス、豆、野菜などの炭水化物を中心にする。 ●肉類を中心にせず、食事全体の一部と捉える。 ●デザートやスナックには、フルーツやシュガーレスゼリーなどの低脂肪、低カロリー食品を摂る。