![]() |
No.35 |
高齢者の体と心〜元気に老(ふ)けたい〜 (2/6 )
とかち健康フェア2004の講演から(平成16年11月21日・帯広市とかちプラザ)
転倒は施設でも在宅でも起こっている。
いろいろな老人施設に入所している人の転倒発生率を紹介します。米国、カナダ、日本の高齢者の施設での転倒の割合を比較してみますと日本国内のでは15%〜35%で、米国、カナダの施設では15〜50%近い高齢者が転倒を経験しています。また日本国内の在宅の方の転倒発生率をみると地域によって多少差がありますが、だいたい10〜20%の転倒発生率です。このように高齢者の方は施設にいようと在宅であろうと、転倒される機会が多いことがわかります。
十勝の杜病院には療養型病床があり、高齢の方がたくさん入所しています。今年の4月から10月までの半年間に52人が転倒しました(図2)。病室内64%、廊下15%、デイルーム11%です。病室内転倒が多いのは、恐らく病室内で過ごす時間が一番長いせいだと思います。時間帯では朝の8時から夕方4時半までのいわゆる日勤帯で35%、夕方4時半から翌朝8時までのいわゆる深夜帯で65%です。日勤帯は患者さんの入浴や食事の介助あるいはリハビリなどいろいろなケアをする必要があるので看護スタッフあるいは介護スタッフの数が多くなっています。そのため目が届きやすいので、患者さんの転倒が少ないと考えられます。夜勤帯では昼間に比べてスタッフの数が減りますので、その結果、目が届かなくて転倒する率が高まると思われます。これらの結果、夜間帯に病室内での転倒が多い状況がわかりますが、その原因として痴呆やせん妄で時間を認識していない方が夜中に目を覚ましてベッドから起き上がり、暗い中で転倒するためと思われます。
転倒と骨折
転倒が何故そんなに問題になるのかというと、転倒した方の15〜25%に重い障害が生じるからです。多いのが大腿骨頚部骨折です。股関節の骨が折れてしまいます。逆に大腿骨頚部骨折の起きた原因を調べてみると、大部分は転倒か転落です。ですから、転倒を防ぐことで大腿骨頚部骨折の殆どを防ぐことができます。年齢別で大腿骨頚部骨折の発症率を比べてみると、やはり高齢になって足腰が弱くなる方ほど転倒が増えています。
改めて転倒予防が何故必要かといいますと、転倒して骨折し、歩行障害となる方が多いからです。骨折の治療のあとのリハビリがうまくいくと歩けるようになりますが、あまりうまくいかないと歩くのが不自由になります。転倒後症候群といって一度転ぶと恐怖心が芽生え、また転んだらどうしようといった気持ちになる場合もあります。その結果、あまり出歩かなくなり、家に引きこもりがちになります。あまり動かなくなると、筋肉を使わないので、筋肉も段々細くなり、最終的に寝たきりになってしまう場合があります。こういった経過をたどる方が多いため、寝たきりを予防するという目的でも、転倒を予防することが必要になります。
いろいろな転倒予防方法がありますが、歩く筋肉の力が衰えないようにする必要があります。トレーニングセンターに行って機械を使って鍛えなくても、意外に簡単な方法できたえられます。今回紹介するのは大腿四頭筋セッティング(図3)です。膝の下にバスタオルを丸めたものを置いて、膝を曲げた状態を作ります。それから膝をまっすぐ伸ばした状態を10秒間保ちます。その際膝の周囲に力が集中するように意識します。その結果、大腿四頭筋に力が入ることになります。その後足の力を抜いて膝を曲げた状態にもどり、10秒間おきます。それから再び膝を伸ばした状態を10秒間保ちます。これを大体20回から30回繰り返します。これが1セットです。これを1日に2から3セットやる。これを続けることによって大腿四頭筋は非常に強くなります。特に膝が痛くてあまり歩けない人に特に試してほしいのですが、これを1週間続けると膝の痛みが随分楽になるということがよく知られています。
データによると、このような筋力トレーニングを週2回ずっと1年間続けると脚の筋肉が以前よりも増え、週1回だけのグループは筋肉量は変わらなかったそうですが、少なくとも減ってはいません。しかし全くしなかった人たちはかえって筋肉量が減ったそうです。このお話でもわかるように、筋肉というものは年をとるごとに減っていきますが、トレーニングを続けることで、少なくとも減っていく筋肉を減らないようにすることができます。もう少し頑張ると逆に筋肉を増やすことができます。このようなトレーニングで足の筋肉を保つことは転倒しにくい状況を保つことになると考えられます。
転倒を防ぐには
これまで転倒を予防するお話をしましたが、それでも高齢者の転倒する確率は高いですから、転んだ時の骨折防止プロテクターというものが最近使われています。特殊な素材でできたヒッププロテクターで、これを股関節の部位につけると、転倒しても素材が衝撃を分散してくれますから、骨まで到達する衝撃をかなり減らすことができます。その結果転倒で骨折する確率を減らすことができます。特に高齢者がたくさん入居している施設では、こういったものを使う必要性が高いと考えています。
以上をまとめます。転倒予防には、まず筋肉の衰えを防ぎます。そのためには歩行を心がけますが、歩くだけだと逆に膝をこわすことがあるので、歩行に必要な筋肉のトレーニングをします。大腿四頭筋セッティングなどが非常に効果的です。転倒しやすい環境を改善することも大切です。簡単なことでは、廊下に物を置かない。つまり、あえて転ぶような状況を作らないことです。最近よく言われますバリアフリーの家を作る。これは経済的な問題があるので難しいかもしれませんが、今後、家を新築する計画のある方はぜひ検討していただきたいものです。それから高齢の方は目が悪い方が多いので、転びやすいと思われる所に照明を増やすなどして、視覚的に危なくない状況を作ることで転倒をある程度防ぐことができます。それから、これは転倒予防ではないのですが、万が一の転倒に備えて骨折予防パッドを使う。これを用いることにより転んでしまっても骨折する確率を減らすことができます。
![]() |
![]() |
