![]() |
No.77 |
血管の老化(動脈硬化)を予防する生活習慣
(1/2)
札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
教授 古橋 眞人氏
本日は血管の老化、動脈硬化の5大原因である肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病、そして喫煙を紹介し、それを絶つ『秘訣』をお話したいと思います(図1)。
![]()
まず肥満です。肥満に伴って内臓脂肪が蓄積すると、インスリンの効きが悪くなり、そのインスリン抵抗性が糖尿病や高血圧、脂質異常症を引き起こし、さらにそれらが原因となって様々な合併症を引き起こします。糖尿病腎症で透析となったり、糖尿病網膜症で失明したり、足の血管が詰まって足を切断することになったり、脳卒中や心不全になったりするわけです。これらの予防のため、体重を減らすと本当にいいのかが調査されました。体重が増加、変化なし、3%未満の低下、3〜5%の低下、5%以上の低下の順序で血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸の数値の変化をしらべると3%以上減った場合はすべての項目で良い結果がでました。体重を減らすだけでメタボの項目がよくなりますので、ぜひ心に留めておいてください。
次は高血圧です。まず血圧についてですが、よく上の血圧、下の血圧と言います。上の血圧とは心臓が収縮したときの血圧で、収縮期血圧と言います。下の血圧は心臓が膨らんで全身から血液が戻ってくるときの血圧で、拡張期血圧と言います。高血圧とは、診察室で測る場合は、上が140oHg、下が90oHg、どちらかを満たすと高血圧となり、家で測る場合は設定が低くなり、135/85oHg以上が高血圧とされます。では、血圧が高いとなぜ悪いかというと、心臓は通常1日約10万回拍動しますが、血圧が高いと毎回全身の血管に大変な圧力がかかり続けます。血管に10万回高圧のストレスが毎日続いたら、ダメージが大きいことは容易に想像できます。
日本では毎年10万人以上、高血圧が原因で亡くなっています。では、予防のためになにが大事かというと症状はなくても、まず家庭血圧をしっかり毎日測ることが重要です。血圧の測り方ですが、座位の状態で腕の力を抜いて、テーブルに手のひらを上向きにして置き、足を組まず、両足を床につけてリラックスした状態で測定します。基本的には朝と夜の1日2回、1〜2分の安静後に座位で2回ずつ測定して平均をとってください。朝の血圧は、起きてから1時間以内に排尿をして安静にした状態で、ご飯を食べる前に、お薬を飲んでいる人は薬を飲む前に、血圧を測定してください。そして夜は寝る前に測ってください。
高血圧の9割は明らかな原因が特定できず、これを本態性高血圧といいます。残りの10%は何らかの原因があって血圧が高くなるもので、二次性高血圧と呼びます。約9割を占める本態性高血圧は、中年以降、親が高血圧の場合、起こりやすくなります。その他、塩分の取りすぎと体重の増加が誘因となります。食生活を含む生活習慣の是正が非常に重要です。
一方、二次性高血圧で一番多いのは睡眠時無呼吸症候群です。いびきをかき、夜間に息が止まっていることを指摘されたことがある人は血圧を測ることが重要です。また、原発性アルドステロン症も二次性高血圧になります。腎臓の上にある副腎は様々なホルモンを出していますが、その中のアルドステロンというホルモンが原因となります。また、腎性高血圧というのもあり、腎機能が低下するだけでも血圧が高くなります。それ以外に甲状腺疾患、有名なものとしてバセドウ病や橋本病も高血圧になることがあります。その他にはクッシング症候群なども挙げられ、副腎からでるコルチゾールというホルモンが原因となります。
高血圧治療における目標値は、75歳未満の成人では、高血圧の診断基準となる140/90oHgマイナス10oHgで、診察血圧では130/80oHg未満、家で測る場合にはそのマイナス5oHgなので、125/75oHg未満となります。一方75歳以上、または重度の脳血管障害がある場合には診断基準と同じ140/90oHg未満となります。ただし75歳以上であっても、忍容性があって、強いふらつきなどがなければ130/80oHg未満を目指します。
高血圧の治療に関しては、効果のある各種降圧薬を使うことができますが、何より減塩が有効です。6g/日未満の減塩食が血圧改善をもたらすことが証明されています。ただし、日本人の平均塩分摂取量(令和元年)は、男性では10.9g/日、女性では9.3g/日です。6g/日に比べると1.5倍ぐらい多く摂取しています。減塩の工夫として、酢を使う、昆布や鰹節などの出汁をうまく使う、七味、ハーブ、ブラックペーパーなどのスパイスを使う、味噌を使うにしても減塩味噌を使うなどがおすすめです。もう一つ有効な方法として、カリウムを摂ると塩分であるナトリウムを排泄してくれるので、カリウムの多い野菜やイモ類、類豆類、海藻類をしっかり摂ることも有効です。
![]() |

