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No.70 |
心不全ってなんですか?
(2/5)
安斉 俊久氏
北海道大学 大学院 医学研究院 循環病態内科学教室 教授
まず最初に胸痛が起こり、心臓に栄養を送る冠動脈が閉塞すると、心筋の一部がダメージを受け、ある程度の部分は壊死を起こします。心臓というのは壊死を起こした後でも決して休むことはできないので、常に収縮を繰り返します。そうすると、内側から強い圧力が壊死に陥って傷んだ心筋に加わります。その結果、壊死に陥った組織が伸展されてしまう梗塞部伸展という現象が起こります。この場合、生き残っている元気な心筋がこの機能の部分を代償しようとして一生懸命働きます。ただ、それも限界があり、やがて心臓全体が大きく広がり、機能が低下してしまいます(図4)。
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このような状態で、塩分、水分を過量に摂取したり、過労やストレスがかかると、心臓の筋肉がこれ以上は耐えられないので息切れや動悸といった症状を起こすのが心不全の病態です。
では、そもそも心不全を起こさないためにはどうしたらよいかというと、心臓にかかる負担を減らす、具体的には塩分を控え、過労やストレスを控え、肥満を防ぐ、適度に運動し、禁煙することです(表1)。![]()
では、なぜ減塩するかというと、もともと心不全の患者は、血圧や体液を調整するホルモンが活性化していて、塩分、水分を体にためる方向に働き、摂取したものが体にどんどんたまっていきます。
また、塩分をたくさんとると、体の中の体液量が増えて、結果として血圧が上昇し、これが心臓の負担を増やす結果になります。
塩分は一日6グラム未満が理想ですが、具体的には明日から汁物を1日1回までにする。朝、お味噌汁を飲んだら、お昼や夜には飲まない。また、おそば、ラーメンなどのつゆは飲まない。漬物は控える。これだけでかなりの減塩効果があります。
過労、ストレスはどうして心不全の原因になるのでしょうか。精神的なストレスがあると、交感神経やホルモンを介して血圧が上昇し、心拍数が上がります。心拍数が上がると、それだけ血管に大きな負担が加わり動脈硬化が進む直接の要因になります。
では、精神的ストレスにはどんなものがあるかというと、一番大きいのは配偶者の死です。また、離婚、別居もそれに次いでおり、けがや病気、結婚、配偶者の就職・失業など、ストレスの原因は、全て生活そのものが関わり、何か変化があれば全てストレスに繋がります。しかし、精神的なストレスに対しては、何よりも家族のサポート、周囲の同僚や先輩、後輩のサポートが大事です。それでもどうしようもないときには、医療機関に相談するという方法もあります。
肥満は心不全にとっても大敵です。
肥満で、体重が1キロ増えるというのは、内臓脂肪が1キロ増加することです。内臓脂肪の組織は、毛細血管が非常に豊富なため、それによって、体液が増加し、また血圧が上昇して、心臓への負担が増えます。
また、内臓脂肪からは、さまざまなホルモンあるいは生理活性物質が産生され、それらが交感神経を活性化させます。すると、心不全が進む悪循環を助長させます。
その肥満を避ける具体的な方法は、毎日、体重をはかって、1日で1キロ以上増えないように注意すればかなり効果があります。
適度な運動は心不全予防に効果があります。水泳や散歩など何でも構わないのですが、運動をすると、筋肉の萎縮を防ぐことができて、運動後の平時の状態では交感神経の活性を抑制できます。心不全の患者さんに心臓リハビリテーションという処方をして運動を続けると、再入院を防ぎ、生命予後を改善する効果があります。
禁煙、禁煙だけは絶対に守ってください。
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