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No64 |
心疾患と運動
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絹川真太郎氏
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学講師
私は、自分が運動したりすることはほとんどありませんが、縁があって心臓病患者のリハビリテーションの分野を中心に運動の研究をずっとやっています。
今日は、余り聞きなれない言葉だと思いますが、心臓リハビリテーションの話をします。
まず、心臓のことから説明します。心臓は血液を腎臓、肝臓、脳、皮膚、そして筋肉等全身に送り出す大事なポンプの役割を果たしています。
さて、人間の心拍は1分間に70回程度です。そこで、心臓が1日にポンプとして収縮したり広がったりしているかを計算すると、1日で10万回、そして、80歳までには約30億回の収縮と弛緩を繰り返しています。心臓は知らないうちに非常に大変な仕事をしているので、大事にしないと、毎回毎回の負担は大したことがなくても、少しずつ負担が増えているのです。
それでは、1日でどれぐらいの血液を全身に送り出しているかと言うと、多くの人が1分間に約5リットルの血液を全身に送り出しています。そうすると、1日で約7,200リットルの血液を全身に送って、そしてまた戻ってくるということを繰り返していることになります。これを石油を運ぶタンクローリーにたとえるとタンクの半分ぐらいの量を毎日全身に送り出す働きをしています。心臓がかなり大事な仕事をやってくれていることがおわかりになったと思います。
心臓病は多くの種類があり、全部を話す時間はありませんので、代表的なものを紹介します。
一つ目は心筋症という病気です。まず拡張型心筋症と呼ばれる、心臓がどんどん大きくなる病気ですが、正常な心臓に比べて内腔が非常に大きくなります。このようにどんどん大きくなるだけではなく、心臓の収縮する力が弱まる病気です。つぎに肥大型心筋症と呼ばれる心臓の壁が厚くなる病気ですが、こちらは心臓の内腔は余り大きくなりません。世界中の研究者が研究を進めていますが、どちらも原因が明らかにされておらず、難病指定されている病気です。
二つ目は虚血性心疾患です。心筋梗塞や狭心症とか聞いたことがある病気だと思います。心臓の筋肉が収縮するためには、血液から酸素や栄養分を得なければなりませんので冠動脈という血管が心臓の筋肉の周りに張りめぐらされ、ここから酸素、栄養分を得ています。しかし血管の中に動脈硬化ができると、血液の流れが悪くなり、筋肉に血液が十分届かなくなり、胸がぐっと締めつけられるような痛みを感じます。これが狭心症です。つぎに冠動脈が完全に詰まった場合です。こうなると心臓の筋肉に血液が全く届かなくなり、筋肉が急速に動かなくなります。これが心筋梗塞です。狭心症は治療のための準備をすることができますが、心筋梗塞は、急いで治療しないと、命にかかわる病気です。
狭心症と心筋梗塞を起こす原因はどちらも動脈硬化です。ではなぜ動脈硬化になるかというと、高血圧、糖尿病、コレステロールが高い、たばこを吸っている、家族歴があるなどが危険因子として知られています。
家族歴は、気をつけようにもどうにもなりませんが高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙等は自分で管理できます。できるだけ予防を心がけて、動脈硬化を起こさない、そして心臓病を予防していくことが非常に大事なことです。
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