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No64 |
心疾患と運動
(7/9)

絹川真太郎氏
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学講師
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最後になりますが、心臓突然死の話をします。2009年の第3回東京マラソンで、タレントの松村邦洋さんが15キロ地点の手前で急性心筋梗塞を起こして心肺停止状態に陥りました。最近は、フルマラソンのときには、ドクターランナーがいて、自動体外式除細動器(AED)を使って蘇生に成功したというニュースがありました。(図7)
サッカー元日本代表の松田選手が練習中に急性心筋梗塞を起こし、心肺停止状態で病院に運ばれましたが、亡くなりました。
少し古い話ですが、高円宮様がスカッシュという運動中に心肺停止になり慶應義塾大学病院に搬送され、亡くなったというニュースが2002年にありました。実は、この事件は非常に大きなインパクトを各方面に与え、心室細動という不整脈への対応が厚生労働省や消防庁で取り上げられ、2年後の2004年に一般人による除細動のためAEDの使用が認められ、広く普及するきっかけになりました。最近は、いろいろな施設でAEDを見かけるようになりました。
1990年にNCAAのバスケットのスーパースターが心臓発作を起こして亡くなったということが全米にテレビ中継で放送されました。これは、肥大型心筋症による不整脈と言われています。実は、この試合の前に既に不整脈の診断がされていましたが本人は、薬を飲んだり治療を受けると、この大事な試合に出られなくなるので、治療を受けていませんでした。
1984年のロサンゼルス五輪銀メダリストのフローラ・ハイマンというバレーボール選手がいました。レフトアタッカー(現在のウイングスパイカー)でスパイクのスピードは時速180キロあったと言われています。身長は196センチです。非常に背が高く、手も長く、マルファン症候群という病気の体型です。日本のチーム、当時のダイエーにいたときに、大動脈が裂けて、この人もテレビ中継中に亡くなるという事件がありました。
突然死というのは、心室細動という不整脈で起こります。この不整脈は心臓がけいれんを起こしたように無秩序に動き出し、有効な血液を拍出できない、つまりポンプとしての役割を果たせなくなってしまいます。そして、多くの場合、基礎に大きな心臓病が隠れています。例えば、心筋梗塞なんかの虚血性心疾患あるいは肥大型心筋症という病気がある場合、不整脈を起こしてしまいます。
心臓突然死からの救命率はどれぐらいかというと、倒れてから1分ごとに蘇生する率が10%ずつ低下します。119番通報から救急隊が治療を行うまでに平均9分かかると言われています。救急車の到着時間は、平均6分で、到着後いろいろな準備をして不整脈の治療を行うまでに3分、治療開始まで合計9分かかります。そうすると、蘇生率は10%しかありません。救急車が到着するまでにいかに対応するかが極めて大事です。最近は、AEDが街の中あるいは施設などに置かれるようになりました。使ったことがないと難しそうに見えますが、とても単純な仕組みで音声の案内があり、一般の人でも使いやすくできています。
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