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No58 |
ノーベル賞と私の健康法
(4/8)
鈴木 章氏
北海道大学名誉教授
先ほど言いましたが、私は血圧がちょっと高いので、筒井先生から薬をいただいております。アメリカのメルクという大きな製薬会社のニューロタンという血圧の薬を飲んでいますが、鈴木カップリングでした。つまり、私たちが見つけた有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物で炭素と炭素をくっつける反応でつくられております。そのほか、ノバルティスというスイスの大きな化学会社でもつくっておりますし、武田製薬でもつくっていると聞きました。いずれも鈴木カップリングでつくられております。そのほか、抗がん剤やエイズに効く薬や抗生物質などでも鈴木カップリングが使われていることがわかってまいりました。また、農薬あるいは液晶です。テレビや携帯電話などにたくさん使われていますが、そういう液晶をつくる反応として鈴木カップリングが使われております。さらに、発光ダイオードがありますね。あれは、電気エネルギーを光エネルギーにかえる効率が高いとか寿命が長いなどのいろいろな長所がありますが非常に高かったのです。ところが、最近は、有機発光ダイオードが鈴木カップリングでつくられるようになって、だんだん安くなってきました。
そういうことで、世界中の人が使ってくださっております。そのことが評価のもとになったのだと思いますが、ノーベル委員会が2010年に私に化学賞を下さることになりました。それまで、私自身は、ノーベル賞をもらうなんてことは全く考えていなかったのですが、そのことについて少しお話しいたします。
2002年に、私のアメリカの先生でありますハーバート・C・ブラウン先生が90歳になられました。ブラウン先生は、1979年にハイドロボレーションの発見でノーベル賞を受賞されており、パデュー大学では非常に有名な先生ですから、ブラウン先生の90歳の誕生日を記念して、お祝いの祝賀会と特別講演会の開催が計画されました。私も招待されましたので、家内とアメリカに参りました。その祝賀会前日にブラウン先生とブラウン先生の奥さんのサラさんから、私たちに夕食会の招待がありました。ブラウン先生も夫人も日本食がお好きで、先生は日本に何回も来て、札幌にも3回ぐらい来ていると思います。化学の話をディスカッションすることもありますが、日本に来て日本食を食べるのが楽しみだとおっしゃっていました。
さて、食事をしておりましたら、先生がアキラをノーベル賞に推薦しようと思うと言われたわけです。先生がそれまで一度も言ったことがなかったことなので私はびっくりしました。そのときは、家内もおりましたので、ホテルに帰ってから、日本に帰っても、ブラウン先生からそんな話があったことは絶対に他言したらだめだぞ、ちょっと恥ずかしいことになるからと念を押しました。恐らく、家内はその後、誰にも話していなかったと思います。そんなことがあった年の12月中旬に、ブラウン先生から分厚い書類が私の大麻の家に送られてきました。それを開いたら、ノーベル賞の推薦状でした。ノーベル賞はノーベル委員会が決定するのですが、候補は、ノーベル委員会が勝手に決めるのではなく、世界中の大学の先生や研究所で研究している人などに推薦依頼状を出すのです。私が北大にいましたときも、ノーベル化学賞の推薦状を3度ほど出した記憶があります。世界中から推薦され、ノーベル委員会がそれを精査して、最終的にノーベル賞を決めるのです。私は推薦状を1ページか2ページぐらいしか書きませんでしたが、ブラウン先生は非常に分厚い推薦状を書いてくださいました。
その年ブラウン先生が私を推薦してくださったのですが、もちろん、ストックホルムのノーベル委員会からは何の連絡もありませんでした。その次の年の2003年も、同じように12月中旬にブラウン先生からコピーが送られてまいりました。なぜ12月中旬に送られてくるかというと、ノーベル賞の推薦期限が1月31日なのです。ですから、その前までに推薦しないといけないのですが、ブラウン先生は非常に几帳面な方で、1カ月半前の12月中旬に送ってくださっていたわけです。そういうことで、2002年、2003年とブラウン先生は私を推薦してくださったのですが、次の年の2004年に、残念ながら、ブラウン先生は92歳でお亡くなりになりました。したがって、その年に推薦されたかどうかは私にはわかりませんが、私はノーベル賞をもらうことは全く考えておりませんでした。
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