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No58 |
ノーベル賞と私の健康法
(2/8)
鈴木 章氏
北海道大学名誉教授
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私は化学の領域に入ったのは偶然でしたが、この2冊が私を化学者にさせた大きな関係のある本でございます。
1冊目は、下のグリーンの本です。アメリカのハーバード大学教授のフィーザーという先生が書かれた『テキストブック・オブ・オーガニック・ケミストリー』という有機化学の本です(写真1右)。
中学校のころ数学が好きで大学では理学部に入り数学を勉強したいと考えておりました。旧制中学、高等学校を経て、北大に入りました。そのころ、北大はほかの大学と違った教育方針を持っており、当時、普通の大学は、例えば、電気、建築、農業など専門を分けていたのですが、北大では二つの類に分けていました。その一つは、理類というもので、理科系に進む人たちはみんなそこに入りました。その当時の北大には、農学部、工学部、理学部、医学部があり、この四つの学部が理科系です。そして、文科系の場合は、文学部、法学部、経済学部、教育学部があり、文類としておりました。
1年半たってから、再度、試験を受けました。というのは、その当時に北大の先生が考えたのは、初めは専門を分けず、理類と文類でとって、1年半がたってから自分はどの道に進んだらいいかを決めて、再度試験をして、専門を決めておりました。
当時、このような制度をとっていたのは北大と東大だけです。
そのとき、私は、数学はもちろんですが、物理、化学、生物、地学という理科系の基礎を全部学びました。化学ももちろん習ったのですが、有機化学を習ったときに先生が選ばれたのがこのグリーンの本です。その著者のフィーザー先生が東京の書店の丸善に手紙を出しこの本はアメリカの学生に非常に評判がいいけれどしかし、高いので、この本の廉価版を出して日本だけではなく、韓国、台湾、そのほかの東南アジアやインド、ヨーロッパも含めて、勉強させてはどうかと提案されてできたのがこの本です。
その当時、日本でもいろいろな大学の先生が有機化学の本を書いていましたがそれらに比べて、この本は非常におもしろいと感じました。
そのことから、有機化学が非常に好きになりました。化学の中にも、数学に非常に関係深い領域があります。例えば、理論化学や物理化学がありますが、ここでは数学を非常に使います。ただ、私がその後に専攻することになった有機化学や生物化学は、数学と全く関係がないわけではありませんが、ほかの学部に比べて数学の重要性が低いわけです。そういう領域に入っていきました。ですから、現在、私が有機化学者として一生を送ってきた第一の原因はこの本を読んだことであったと言えると思います。
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