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No51 |
心臓病患者さんの健康旅行術
〜安全・安心のための基礎知識〜
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ペースメーカーなどは事前にチェックを
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薬の話をずっとしてきましたけれども、皆さんの中にもペースメーカーという機械を入れておられる患者さんがおられるかもしれません。薬での治療と同時に、色々な機械を使って心臓の病気を治療するということがよく行われています。皆さんがよくお聞きになるのは、ペースメーカーという心臓の脈が少なくならないようにするための機械で、鎖骨という胸の上の骨の下のところに金属のバッテリーを入れ、細い電線を心臓の中に入れて、心臓の脈が減り過ぎないようにするという機械です。最近このペースメーカーという機械以外に、心臓の不整脈の中で脈が増えてしまうという病気に対して植込み型除細動器という、ペースメーカーより一回り大きいくらいのもので、やっぱり鎖骨の下に入れます。胸の写真を撮ると(図2)、機械が入っていて、心臓に行っている電線が白く見えています。
さらに心臓の働きがどうしても十分ではないという、心不全という病気があります。その中で比較的重症で、薬だけではなかなか心不全のコントロールができないという患者さんに、やはり同じようにペースメーカーのような機械を入れて、心臓の脈を整えます。心臓再同期療法と言われているこのような機械を使った治療があります。
いずれもここの鎖骨のところに電池が入っているわけです。外からはどの機械をその患者さんが使われているかはわかりませんが、ペースメーカー、植込み型除細動器、心臓再同期療法と、このような機械を使った治療というのがよく行われるようになってきています。当然このような患者さんでは、薬を飲んでいる患者さん以上に旅行にあたっては注意が必要になります。★
こういう機械を入れている患者さんは、日頃から機械のチェックは受けておられますが、やはり旅行に行かれる前に、機械のチェックを受けていただくことが大事です。もともと定期的にチェックを受けているということがまず前提です。定期的にチェックを受けていないという方は、事前に必ず受けてください。もし1週間くらいの旅行ということであれば、定期的なチェックを受けていればまず問題はないだろうと思いますが、それよりも長い旅行、先ほどもお話ししたような、1ヶ月とか2ヶ月とか海外に滞在なさるという場合には、出発の1ヶ月くらい前までに、やはり一度機械のチェックを受けてください。といいますのは、ペースメーカーの電池は少しずつなくなっていくんですね。これはどれくらい作動するかによって、電池の寿命も全く違ってきます。あまり作動しない場合は、7年とか10年近くもつこともありますが、その作動の状況によっては、非常に短い期間で電池がなくなってしまうという方もいます。この電池の消耗が起こると脈を出せなくなってしまいますから非常に困るわけです。
ペースメーカーには色々な安全機能がついていて、実際に電池が減ってきても完全に止まってしまうということがないように、電池が少なくなると、できるだけ電池を使わないモードに機械自体が切り替わるという機能もついています。ただそうなるとペースメーカーについている色々な機能が活かせなくなってしまいます。必要最小限度の機能だけになってしまうので、やはりそういう状況はよろしくないわけです。★
手帳と英文診断書を忘れずに
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さらに、ペースメーカーなど機械を入れておられる方は手帳を必ず一緒に持っていってください。その手帳は後からお見せしますが、こういう機械を植えているということが、日本語だけではなく、外国語でちゃんと書いてあります。さらに主治医の先生と相談していただいて、英文の診断書とともにどういうメーカーのどういう機械が入っているんだということを診断書に書いていただく。それから、最終チェックを受けたときにどういう機械の設定になって、できればどういう心電図になっているんだというようなことまでつけていただくといいですね。特に海外に長く滞在することをお考えのときは、こういうことを主治医の先生と相談していただくということが必要になります。
それから、空港に行きますと、搭乗口に行く前に金属探知機のゲートをくぐりますが、そのまま通りますと、ペースメーカーは金属ですので、探知機にひっかかるということになります。ひっかかること自体はあまり問題はないと言われていますが、事前に申告していただくと、多くの場合はそこを通らずに、別の形で調べる方法を多くの空港ではとっています。
ペースメーカーの手帳ですが、先ほどご紹介した植込み型除細動器や心臓再同期療法など、それぞれの機械や種類によって手帳の色も大きさも違いますが、基本的には患者さんは皆さん同じような手帳をお持ちになっています。ここに何が書いてあるかといいますと、「空港やお店では体内植込み型医療機器ICDを装着している旨、警備担当者に申し出てください。空港の金属探知機やお店の盗難防止システムがICDに悪影響を与えることがあります。これらの機械に寄りかかったり、近くに長くとどまったりしないでください」。それから、「私は金属探知機に反応する可能性のある体内植込み型除細動器を装着しています」と日本語で書いてあります(図3)。さらに、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語の7カ国語で同じ内容が、手帳をあけた最初のページに書いてありますので、これを見せていただくとよろしいです。★
今まで何度か英文の診断書ということをお話ししてきましたが、皆さん病院で先生に診断書を書いてもらうことがあると思います。通常は当然日本語で書くわけですが、海外旅行の場合で、長い旅行であったり、病気が非常に重症な場合には、やはり英文の診断書を準備したほうがいいということになります。
滞在先で万が一病院の診察や投薬を受けるというときには当然必要になります。これがないとなかなか難しいことになります。現地の言葉で書いたほうがいいということもあるかもしれませんが、どこの国に行かれるとしても、英文の診断書であれば、ほとんどの医療機関は対応可能だと思います。診断名や薬剤名、既往歴、今までの病気、現在の病状などを簡潔に書いてもらいます。心筋梗塞、狭心症などの場合にもそのことも記載していただく。冠動脈インターベンションとかバイパスの手術を受けた患者さんでは、そういう治療の内容も書いていただく。ただ、主治医の先生も英文診断書をすぐ書いてくださいと言われるとなかなか厳しいですから、時間に余裕を持って1ヶ月くらい前にお願いして下さい。
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