![]() |
No51 |
心臓病患者さんの健康旅行術
〜安全・安心のための基礎知識〜
(4/4)
旅行保険の特約を確認しましょう
![]()
海外旅行保険というのがあります。海外旅行に行かれるとき、多くの方は入られるのではないでしょうか。旅行会社の人もできれば入ったほうがいいですよと言います。掛け捨ての保険ですが、基本的には旅行中に発病した病気に対する保障になっています。従って、例えば今心臓の病気があって、それが海外旅行中に悪くなるかもしれないというものに対しては、通常保険は適用されないということが多いわけです。ただ、今色々な保険があって、特約で条件によっては、旅行中に悪化した応急の治療に対しては、保険が適用できるものもあると聞いています。ただ、旅行の期間が限られていたり、その病気が悪くなったときの救急、応急の治療はその保険で賄われても、その病気そのものを海外で治療するということには使えないことが多いようです。
皆さんもよくご存じと思いますが、日本は保健医療システムが非常に行き届いています。海外へ行くと、とんでもない高額の医療費を請求されます。日本の10倍なんていうのはざらにあるということから、海外旅行保険に入ったほうがいいと旅行会社の人は言っているわけです。もし病気をお持ちで、それが悪くなってしまうと大変ですから、海外旅行保険に加入されるときには、そこの部分はぜひ確認していただく必要があります。★
飛行機に乗るときに診断書を求められるということがあります。妊婦さんは搭乗の際に求められますが、その場合以外に病気として求められるということがあります。ただし、そんなに多くはありません。酸素ボンベや色々なポンプなどの医療機器、そういったものを使わなければいけない場合や、患者さんをベッドに寝た状態で搬送する場合、赤ちゃんで保育器を使わなければいけない場合、医療行為を必要とする場合などです。かなり限られた場合ですけれども、そういう時には航空会社に出す診断書が必要になります。
これはMEDIFという名前で言われています。飛行機に乗れるかどうかというのが一番のポイントで、「症状は安定しており、旅行期間5/15〜5/25まで、往復便ともに航空機の搭乗は可能である」と、先生の意見として書いてあります。基本的にはこれが書いてあって、あと酸素が必要かどうか、そのようなことが書いてあれば良いということになります。★
不幸にして、飛行機に乗って旅行したことによって起こってくるという病気が幾つかありますので、それをご紹介したいと思います。一つはエコノミークラス症候群です。これは皆さん、病名としてはお聞きになったことがあるかもしれませんが、別に飛行機のエコノミークラスに乗ったからなるわけじゃないんですね。深部静脈血栓症という、足の静脈に血の固まりができて、それが肺に詰まってしまうという病気のことをエコノミークラス症候群といいます。
血液は静脈から心臓に戻ってきて、この血液を肺できれいにします。そのきれいにするところの肺の血管にこの血の固まりが詰まってしまうという病気です。長時間同じ姿勢ですわっているとどうしても足の静脈のうっ滞が起こるんですね。血流がうっ滞をするとか、血液の凝固が高まってくる。飛行機の場合、どうしても長い時間すわったままで足をあまり動かさなくなってしまいます。こういったことで静脈に血栓ができやすくなるわけです。当然長い時間乗っていると起こりやすくなると言われています。
ただ、肺血栓塞栓症というのは、呼吸困難とか胸痛といった症状で起こってくるのですが、あまり症状自体は特異的ではないということも知られています。従って、診断がなかなかつかないということもあります。それで体のCTというのを撮りますと、肺の血管に血の固まりが詰まっていることがわかって診断としてつきます。飛行機に備え付けてある雑誌にも書いています。飛行機の中ではできるだけゆったりして、飲み物をできるだけ多くとって、足の曲げ伸ばしをして、全体を回して、ふくらはぎをたたいたりして足をできるだけ動かしましょう。こういうようなことが非常に重要です。水分をできるだけとっていただくことも大切です。日本からですと、ハワイ、シンガポール、ヨーロッパ、アメリカに行くともう8時間以上になってしまいます。ですから、このような場合には、肺の血栓症を予防するようなことを気をつけていただく必要があります。★
楽しい旅で豊かな人生を
今日は、特に心臓の病気をお持ちの方が海外に行かれるという時に気をつけていただきたいことを中心にお話しさせていただきました。色々なほかの病気の方もおられます。そういう方のための参考図書として「50歳からの旅行医学」という本が出版されています。これは講談社のプラスアルファ新書というところから出ています。少し医学的ですが、「海外旅行ハンドブック」という本も出ています。今日のお話の中で、ほかの病気だったらどうだろうと思われた方もおられるかと思います。そういう方にはこういう本も読んでいただいて参考にしていただければと思います。
★
何といっても旅行は自然に触れることができますし、歴史にも触れることができます。旅行の楽しみは文化と食べ物かもしれませんが、あまり食べ過ぎてしまうと、効果がちょっとなくなってしまうかもしれません。覚えておいていただきたいことは、医師に相談をする。余裕を持って計画を立てる。薬を十分に持参する。ペースメーカーなどの患者さんは手帳を持参する。最後に、深部静脈血栓症を避けるために、通路側の座席に座って、アルコールを避け、水分を十分にとる。こういったことを今日紹介させていただきました。海外旅行に行かれる際には、ぜひ今日の私のお話を参考にしていただければと思います。豊かな人生のために楽しい旅にしていただければと思います。ありがとうございました。
座長・島本和明先生(札幌医科大学学長)
日常的な、また身近な旅行を健康的に行うためにというコツをお話しいただきました。特に心臓血管系の病気のある方の海外旅行、何となく気になって行きにくいと思っていることが多かったと思いますが、大変わかりやすく、また詳しくお話しをいただきました。今回の筒井先生のお話をお聞きになって、安心・安全で楽しい旅行をすることができるのではないかと、心強く思われたと思います。国内旅行にも参考になるお話がたくさんありましたので、皆様、楽しいご旅行をなさってください。
![]() |

