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No51 |
心臓病患者さんの健康旅行術
〜安全・安心のための基礎知識〜
(2/4)
薬は二つの名前を持っている
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それではこれからは、心臓の病気をもっておられて現在治療を受けておられる、血圧の薬を飲んでいるとか、心臓病の薬を飲んでいるという方が、いよいよ海外旅行に行くことになったときに、どういうことを気をつけていただくかについてお話をさせていただきます。
薬を忘れるなんていうことは普通はないだろうと思われるでしょうけど、実際にはよくあるんですね。薬を家に忘れてきて、「今成田から出発するのだけどどうしたらいいでしょうか」。病院に慌てて電話がかかってくるということがあります。どうしたらいいでしょうかと言われても、本当に困ってしまいますね。治療のためいつも飲んでいる薬を忘れてしまうなんてありえないだろうと思うようなことがやっぱりうっかりして起こり得るのですね。ですから、治療薬を持参することを忘れないようにする。もう当たり前のことが書いてあります(表2)。
1週間のヨーロッパ旅行だから、飲み薬は7日間分持っていけばいいとなりますと、これは困ったことになることがあります。旅行の日数プラス1週間分の予備を持っていくようにしてください。ちょっと多いなと思われるかもしれませんが、多くないという実例をお話しします。不測の事態で帰国が遅れるということがあり得るんですね。また、飛行機に乗るときに機内に持ち込む荷物と、大きなスーツケースなどの預ける荷物がありますが、薬は機内に持ち込む荷物のほうに入れてください。飛行機の中で必要な飲み薬は、2、3回分でいいからということで、残りを全部スーツケースの中に入れてしまいますと、皆さんあまりは経験されないかもしれませんが、特に海外では荷物が行方不明になってしまうことや、2、3日遅れて届くということがあります。治療薬は非常に大切なものですから、必ず身につけて、機内の持ち込みの荷物として持っていってください。
海外旅行では、時差のあるところに行くことも多いわけですが、血圧の薬を朝夕に飲んでいるという場合には、きちんと間隔を考えていただいて、その間隔があまりずれないように服用時間を調整する必要があります。アメリカやヨーロッパなど時差のあるところに行かれる場合には、朝飲む薬を、場合によっては夕方に飲んでいただくこともあります。これはそれぞれの薬で違いますので、かかりつけの先生に相談していただくのがよろしいと思います。★
心臓病の方は10種類とか、たくさん薬を処方されている場合があります。そういう場合はその10種類の薬とさらにその予備を持っていくと、これは結構な荷物になるんですね。薬をたくさん持っていくことになると税関などで問題になることがあります。それを説明することが必要になることもありますので、できれば先生にお願いしてどういう薬を飲んでいるという簡単なリストをつくっていただいて、病名と薬の名前、一日どれくらい薬を飲んでいるというようなことを書いた、いわゆる処方薬のリストを一緒に持っていくと、良いと思います。
ただ、日本の薬の名前がそのまま海外では通用しないということも往々にしてあります。薬は日本で売られている名前いわゆる商品名と、全世界共通の薬の成分を表す名前である一般名の2つの名前を持っているんですね。ですから、商品名と全世界で通用する一般名の両方書いて持っていっていただくのが良いと思います。薬を忘れていっても、いわゆる発展途上国ではなく先進国なら、日本の薬くらいはあるだろうと思われるかもしれませんが、実際に日本で処方されている薬を海外でそのまま入手しようというのは非常に困難なことがあります。実際に手元に実物の薬があるから、同じ薬を出してくれと薬局に言っても、日本で使われている薬と海外で使われている薬、中身は全く同じでも、名前も外見も違うということがあります。実物があるから大丈夫だということにはならないのですね。
ですから、やはり英語で書いてもらったお薬のリストを持っていっていただくことが良いと思います。ただ、先生に明日から海外に行くので今日これをすぐにくださいと言っても、なかなか難しいですから、早めに主治医の先生にご相談していただくと良いと思います。★
先ほど薬は1週間分くらい予備を持っていったほうが良いとお話ししました。皆さんまだご記憶にあるんじゃないかと思いますが、アイスランドで火山が爆発して、ヨーロッパと日本の飛行機がほとんど止まってしまうということが起こりました。このときも1週間近く皆さんは足止めを食って、薬がなくなってしまうので大変だということが新聞に書いてありました。こういうことはそんなにしょっちゅうある話ではもちろんありませんが、1週間近く全く日本に帰れないということはやっぱり起こり得るのですね。それから、アメリカでもテロがありましたが、あのときもアメリカからの飛行機が止まりました。そのようなテロとか自然の災害で足止めになってしまうことはやはりあるということで、予備の薬を持っていっていただくということが非常に大切です。
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日本で飲んでいる薬と海外では、同じ薬なのですけど違うという実例です。日本でもよく使われている血圧を下げる薬でブロプレスという薬があります(表3)。白い錠剤で「ブロプレス」と書いてありますし、「8」と書いてある。これは8ミリグラムというこの薬の量を表しています。このブロプレスという薬の名前は、日本とかアジア、それからヨーロッパの一部ではこの名前で使われていますが、アメリカに行って、先生や薬局にこの薬を見せても何の薬か全くわかりません。といいますのは、アメリカ、北米、南米、オーストラリアなどではアタカンドという名前で売られています。それから、イギリスではアミアス、フランスではケンゼン、アルゼンチンではティアジルと、もう全く何のつながりも想像できないくらい、各国で違う名前になっています。ただ、この薬は、一般名ではカンデサルタンという名前で全世界で通用します。従って、ブロプレス、それから括弧して(カンデサルタン)と先生に書いてもらうと、その薬がどういう薬かというのは、世界中の病院でわかるわけです。
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薬が税関で問題になることは、ほとんどないのですが、たくさん持ちこもうとすると、「これは何ですか」と聞かれることもあり得ます。特に今は多くの国でテロや麻薬に対して非常に厳しくなっていますので、入国をするときに色々なことを聞かれたり、荷物を調べられたりというような経験のある方がいるかもしれません。特に白い粉薬をお持ちになる場合に何も書いていないと、これは麻薬ではないかと。そういうものをたくさん持っていると、麻薬の運び屋じゃないかということになってしまいますので、やはりたくさんお持ちになるときには、薬のリストを一緒にお持ちになったほうが良いわけです。
それから、滞在に必要な量と予備1週間くらいを余分に持っていきましょうというお話をしましたが、例えば娘さんがヨーロッパに住んでいるなどの場合には2ヶ月あるいは3ヶ月の長い滞在になることがあります。そのような旅行の場合には、当然3ヶ月分くらいの薬をお持ちになるわけです。従って薬の量が非常に多くなります。そうした場合には、主治医の先生の書類が一緒にあったほうが良いですし、特にたくさん薬をお持ちになる場合には、ご自分のほうから申告していただくほうが良いだろうと思います。
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