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No50 |
知って減らそう心臓病
ここまで進んだ診断と治療
(4/4)
どんどん進歩する診断と治療
さて、このように心臓血管系の病気に対して新しい診断法と治療法は、10年ごと、場合によってはもっと短い期間で進歩しています。今後ということになりますと、心臓病の治療、心不全も本当に進んでいくとなかなか治療法が難しいことがありますけれども、心臓移植がもっとうまく進むかどうか。人工心臓もようやく今日本でも使われるようになってきましたが、これもまだ機種、その他の制約がありますし、この進歩も望まれています。
それから、今注目されているものには、再生医療という自分の骨髄の細胞を培養して使っていくと、自分の細胞だから免疫的にも問題なく安全に使える。こういう再生医療ということも今行われています。こういったものにもっともっと期待をして、10年後にまた新しい大きな治療法が出てくるのではないでしょうか。脳卒中も、脳の再生医療ということで自分の骨髄細胞を培養して入れると、脳梗塞の方がそこの脳の組織とか血流が回復してくるというのも、この間道新の一面に出ていました。私、患者さんによく言っているのは、こういう新しい治療法が今検討されて進んできていますから、今病気の方も、本当に5年といわず待っていてくれれば新しい治療法が必ず出てくる。だから、まず今の最善と思われる方法で頑張りましょうと。必ず治療法は出てきますよということでいつも申し上げています。本当にこういう5年、10年というスパンで新しい治療法がどんどんできてきていますから、今病気があっても、やっぱり次の治療法ができるまで頑張っていくということが非常に重要ではないかなと思います。
それから、こういった病気で最後になってくると、やっぱり先程の心房、心室細動という非常に危険な不整脈があるんですね。この心臓突然死ということで亡くなる方はそれなりにいます。日本で年間5万人と言われています。札幌医大の病院の屋上にヘリポートがありますので、しょっちゅうヘリコプターで患者さんが運ばれてまいります。それで、患者さんはこのまますぐ救急部におりていって治療するわけですけど、病院に来る前に心臓が原因で心臓が停止している方、これは1年で約900人診ています。確定診断がついた方は300人位ですね。そのうち、150人の方が亡くなっています。しかし、昔ですと全員亡くなっている病気ですから、高度な障害が残っている方も43人おられますが、64人の方が社会復帰している点が大切です。少しでも社会復帰できる人を多くしていくということが我々の使命でもありますし、このような高度救命救急センターの役割にもなるわけです。ここで皆様にお願いしたいのは救命の連鎖と言われておりますが、まず患者さんを見つけたら早く通報する。とにかくどなたにでもいいから声をかけて、そして電気ショックの機械AED、今デパートでも飛行場でも色々なところにありますが、それをまず持ってきてください。それから救急車を呼んでください。早く通報すること。それから次に、AEDとか救急車が来るまでの間、心臓マッサージをとにかくしてください。以前は人工呼吸と心臓マッサージを一緒にしよう、しなければいけないと言われていたのですが、最近は心臓マッサージだけでもいいから、これをとにかくやって人を呼ぶ。そして、AEDを持ってきてもらって除細動をかける。そして、心拍をなるべく再開させて、速やかに治療にもっていく。この四つが非常に重要です。こういったことでこの連鎖をなるべく早めにスピーディーにもっていく。それによって先程のように60数人の方が助かる、社会復帰できる。もっともっと我々この数字を上げていかなければいけませんけれども、心臓マッサージをしているかどうか、病院に入ってくる前に心臓がまた動き出したかどうか、この二つがあると、実は社会復帰率はそういう危険な方たちでも77%という数字が出ているんですね。いかに連鎖で救うということが重要であるかということがおわかりいただけるかと思います(図3)。
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このように「知って減らそう心臓病」、今心臓病の検査も治療もこれだけ進んできています。だから心臓病になってもいいというわけでは決してなくて、一番重要なことは、まずならないようにしよう。心臓・血管病を予防するために食事と運動に気をつけましょう。生活習慣に気をつけましょう。これがまず第一です。もちろん日本の古来の食事、これになるべくこだわって、肉など欧米のものはたまにはいいのでしょうけど、できるだけ避けていく。そして適切な運動をしていく。この食事と運動は皆さんが全部ご自身でできることです。それでも病気になったら、心臓血管系の病気をなるべく早く見つける。なるべく早く治療する。特に早く見つけるために、先程北海道は全国的にも低いと言いましたけど、特定健診を多くの方に受けていただき、必要に応じて保健指導を受けていただく。あるいはドック検査でももちろんいいですね。ただ、心臓血管系の病気にもうなってしまったら、信頼できる医師を、医療機関を選んで受診する。コンコーダンスというのですけど、医者と患者さんの間で、あるいは医療関係者と患者さんの間で意思の疎通がスムーズにできるよう、今は医者を選ぶことも病院を選ぶことも寿命のうちなんですね。自分たちの健康を守るためにはいい医者を選ぶ。これはもちろんレベルの問題もありますけれども、いいコミュニケーションをとれる、そういう医者、そういう施設が最も重要だと思います。言いたいことも言えないようではやっぱり困ると思うんです。こういう形で診療を進めていくということが重要だと思います(表6)。
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最後になりますけれども、ついこの間道新に出ていたものです。生活が楽しい男性は長生きする。しかも循環器系の病気が少ない。先程の輪嶋先生のお話とも本当に一致しています。笑いましょうと言っていましたけれども、本当に生活を楽しいと思うことがとても重要である。その代表的な方が日野原先生です。私ついこの間、心臓病学会を札幌で開催いたしました。このとき市民公開講座で日野原先生においでをいただきました。厚生年金会館ですからあの大ホールですね。2,300人位入るのですけれども、3,500人応募があったんですね。千何人かの方はお断りをしたんですけど、日野原先生、97歳ですよ。そして、5年先の講演の予定は全部いっぱいだそうです。1時間お話しされたんですけれども、やはりもう見ていてもお聞きしていても明るいですね。前向きですね。人生を楽しんでいる。もう本当に音楽もお好きで、オリンピックが東京に招致されたら、自分が曲をつくって指揮をするんだとおっしゃっておられました。その位やっぱり日野原先生を見ていても、楽しく生きていくこと、笑うということが本当にどれだけ重要なのかということがよくわかりました。
皆さんに聞きますと、どの病気が一番怖いですか。まだまだがんと言われますよね。しかし、先程言いましたように、心臓血管系の病気も本当に死亡率から見ると同じ位重要です。もう一つ、がんと心臓血管系の病気の違い。心臓血管系の病気は自分で予防できる。病気になっても100%とは言いませんが、自分で一定程度治療・改善することができます。本当にもう今日から生活習慣を改善して、心臓血管系の病気からぜひ皆さんご自身で守っていただきたい。今日は、なってしまってからの検査、あるいは治療ということでお話しさせていただきましたが、一番良いのはそういう検査、治療を受ける必要がないこと。まず予防が一番です。そういったことに向けて、今日のお話が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
<座長・筒井裕之先生(北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学 教授)>
この数年の間に、心血管病の診断と治療が随分と進んできたんだということを、おわかりいただけたと思います。先生には予防の重要性も強調していただきました。心血管病にならないにこしたことはありませんが、もし不幸にしてなったとしても、少しは安心感を持っていただけたのではないかと思います。
今後も我々のために心血管病の診断、予防、治療にますます力を尽くしていただけますよう願っております。
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