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No48 |
京都新発見
〜お寺、診療所そして禁煙〜
(5/6)
さて、もうお寺の話は終わりで、ここからいよいよ医学の話なのですが。1973年にアメリカのカリフォルニアの住民7,000人を対象にしてブレスローという先生が、これだけ守ったらどれだけ体にいいですか、寿命がどれだけ延びますかという健康習慣について調査をしました。先程の養生訓と同じなんていうことはないのですけど、一つはさっきと同じ睡眠、二つ目がタバコ。出てきましたね。ここからいよいよタバコの話なんです。三つ目が体重を維持する。四つ目、やっぱりお酒の話は出てきます。過度の飲酒をしない。五つ目、運動する。六つ目、朝食を毎日とる。七つ目、間食をしない。さあ皆さん、ちょっと時間を割きますから、これ自分でチェックしてみてください。この中のどれだけ自分にできていますか。七つのうち幾つできたかによって、今日来られた方のあと何年生きられるかという寿命がわかりますので、自己チェックしてください。一応多分今日来られている方は6点とか7点ばっかりやと思うんですが、今日帰らはって、ちょっと健康習慣が悪い家族の方がいたら、これをできるだけ覚えてもらって、チェックしてもらってください。チェックできましたら、皆さん表の年齢見てくださいね。まあ一つぐらいあかんのはあったかもしれませんけど、要するにこれはどういう見方をするかといいますと、もしここで現在55歳の男性で二つか三つあかなんだという方がおられましたら、あと20年の寿命です。そういう数字です。あとどんだけ生きられるか。65歳の女性の方がおられましたら、「はい」が4〜5やとあと17年。これ日本じゃありません、アメリカですからね。75歳だったらこれだけと、こういうデータがちゃんと7,000人のデータで出ているのです。
これから見てほしいのは、当然健康習慣が多いほうが寿命が延びます。55歳のときでも、健康習慣を改善するだけでこれだけ差が出るのです。じゃあ今日、これ注意してほしいのは75歳の人、86歳になったら死んじゃうということじゃありません。これは86歳以上大丈夫ですという意味ですから、それ間違わないように。80歳以上のデータはないんですよ。要するにどういうことかといいますと、ある年代になったらそこからまたスタートしますので、計算します。したがって、この75歳の方が現在この表で10という数字から85歳になったとしても、絶対そこでころっといくことじゃありません。そこから何年かはまだ大丈夫なので、そういう見方をしないでください。
これは健康習慣がいかに大事かというデータです。睡眠。タバコを吸わない。これは大事です。体重、飲酒、運動、朝食、間食。二つぐらい抜ける人はあるかもしれませんね。どうですか。女性の方、男性の方、大体見ていただいたら、まあ例えば25年ぐらいやったら、まあもうちょっと好きなことが何でもできるかなというふうに計算していただいたらいいのですけど、これ非常におもしろいですね。健康習慣が大事だということをちゃんと数字で表してくれています。
いよいよ今日の本題です。今までは京都の案内、京都はこうしておもしろいのがいろいろ歴史的にもありますよということを参考にしていただいて、京都へ来られたときに、こういう話を思い出していただいたらいいかなと思って紹介させていただきました。今日は恐らくこの会場に来られている方はタバコを吸わない方がほとんどだと思うんですけど、そういう方も周りにタバコを吸っている方がおられましたら、ぜひそういう方にお話をしていただきたいというふうに思います。そのために知っていただきたいことをお話しします。
1日20本タバコを吸う人の肺に 1年間ではいるタールの量
喉頭がんという手術でのどに穴を開けたのに、中毒のためにそんなところからも吸っちゃっているよという、そのタバコの恐ろしさを表わしている写真もあります。
タバコが悪いのは、一つ皆さんご存じのようにニコチン。これは血管を収縮したりする中毒の物質です。二つ目がタールで強い発がんの作用。三つ目が一酸化炭素ですね。物を燃やしたときに不完全燃焼でできる成分であります。この三つが非常に悪いのです。
ニコチンというのは中毒物質です。アメリカのデータで、非常にショッキングな話なんですけども、最近非常に話題になっているマリファナよりも、タバコの成分のニコチンというのは、依存性というのが非常に高いのですね。大麻がいいという意味ではありませんが、大麻を悪く言うんやったら、ニコチンはもっと悪いということはなかなか言ってくれないのですね。ヘロインやコカインといった麻薬と同じぐらいニコチンというのは非常に依存性があり、困ったものです。それがニコチンなのです。タールといいますのは、1日20本タバコを吸う人の肺に1年間で入るタールの量がかなりの量になります。その量が体の中に入っちゃうのです。もう一つ、一酸化炭素(CO)というのは、物を燃やしたときに不完全燃焼でできる成分ですから、1日に吸うタバコの本数が増えるほど体の中に入る一酸化炭素が増えまして、その結果として息の中に出てくる一酸化炭素が増えるということになります。一酸化炭素というのは皆さんご存じのように、練炭ガス中毒とか排気ガス中毒で酸素欠乏になる成分であります。こういう三つの悪い成分がタバコの中にいっぱい入っているのですね。前半の講演でもちょっと出ていましたメタボリックシンドロームに関しても、タバコは本数が増えれば増えるほどメタボリックシンドロームになりやすいと、そういうデータがあります。
もう一つ、がんの話なのですけど、喉頭がん、のどのがんはほとんどタバコを吸う方がなります。肺がんは大体3分の2ぐらいが関係していると。このがんの話をよくしますのは、大体がんの全体の30%が喫煙と関係していると言われているのです。男性の2人に1人、女性の3人に1人が一生のうちにがんになるんです。これ非常に高い数字だと皆さん思われませんか。どういうことかと言うと、30歳でがんになる方もあれば、70歳でがんになる方もある。それをトータルで考えると、男性は2人に1人、女性は3人に1人、がんというのはごくありふれた病気だということです。これは当然、だからタバコはやめてほしいということと、もう一つ、やはりがんというのはありふれた病気ですから、皆さん自分ががんにならないと思わないで、がんの検診は必ず受けてくださいよということです。今日会場に来られた方でがん検診を全然受けたことのないような方はぜひ受けていただきたい。それは数字が物語っているんです。それを知っておいてほしいと思います。
今日のテーマの心臓病に関しましては、タバコの本数が増えれば増えるほど心臓病、心疾患の出る確率が高くなるというデータが当然出ております。本数が増えれば増えるほど高くなる。じゃあやめたらどうですか。やめても仕方がない?そんなことはありません。やめるとどんどんそういう心臓病が出る率が下がってきます。何年間かは寿命がちゃんと延びてくれます。
タバコを吸っている方にこういう話をしますと、今やめてせいぜい3年、4年、何年か寿命が延びる程度、もうそんなんやったら好きなように吸わせてくれよと心の片隅で思っている人はあるでしょう、この会場の中にもね。周りに言うてもそう言わはる人はあります。じゃあそれは本当にそれでいいんですかねということです。先月朝日新聞に載っていた記事ですが、僕はこの記事を見て、これは絶対タバコを吸う人でそういうことを言う人に言わないかんなと思いました。13歳の骨肉腫で亡くなった少女の作文です。亡くなる前に弁論大会で言わはった。読まれた方もあるかもしれませんが、紙面に載ったときはもう亡くなったというような記事が載っていました。「皆さん、本当の幸せって何だと思いますか」13歳で亡くなった制服姿の中学2年生の少女が聴衆に問いかけた。「それは今生きているということなんです」。この子にとっては「3年、4年ぐらい寿命が短うなって、タバコを吸ったってええやんか、好きなようにさせてくれ」という言葉は絶対許せない言葉ですよね。
私の患者さんでも一人白血病で亡くなった患者さんがあります。それは40代ぐらいの方で、その方はもう当然タバコを吸いませんが、最後私の外来に来られて、子どものことをあとよろしくお願いします言うて入院されましたね。その方は何も悪いことをしていないですよね。1日でも2日でも自分の命をもらえるものなら欲しいと思っている方があるわけです。そういう方に、「ちょっとぐらい体に悪いことをしてはよう死んでもええやろう」「もう年とってそんなもう周りに迷惑かけるよりかは」という言葉は非常に言ってはいけないというか、残念な言葉ですよね。それはタバコの禁煙外来に来られる私の患者さんにもよく言う話です。あなたの命はあなたの命だけじゃないんだろうと。周りの人に対しての命でもあるわけで、ましてあなたの煙が周りの人に害を与えるとすれば、それはやっぱり命を大事にしていないことになる、この子に悪いでしょうという話をよっぽどそういうことを言う人には言います。皆さん、今日は健康を考えるということはやっぱり命を大事にすることなんだ。自分のもらった命を大事にするということなんです。だから、ちょっとぐらい不摂生して、タバコや好きな酒を飲んで寿命が短くなってもいいということはやはり考えてほしくない。命を大事にするということをここで改めて皆さん振り返って考えてほしいと。
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