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No47 |
あなたの理解が“良いお医者さん”を作ります
〜上手な健康管理と賢い病院のかかり方〜
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タクシーがわりに救急車を使うなというのもよく言います。私ども旭川医大は、救急の患者さんが年間7,000人位で道内三大学では断突と思います。そのうち2,000台は救急車で来られる。今、昔と違い、大学病院は24時間オープン、救急も全部受け入れる病院です。そういう中で救急車を使って来る軽い病気の患者さんが最近ようやく減って、本当に重症の人しか救急車を利用しなくなりつつあります。
それを市民運動としている地域を紹介したいと思います。兵庫県丹波の柏原病院というところですが「子どもを守ろう、お医者さんを守ろう」というキャッチフレーズです。本当に必要な人が必要なときに受診できるよう、コンビニ感覚の受診は控えませんかという、チラシです(図7)。この病院は、疲れ切った小児科の先生が、全員いなくなる事態に追い込まれた時、お母さん達が立ち上がって、先生を守ろうと発想を転換して、軽いことで病院にかかるのをやめましょうと運動したそうです。お医者さんに感謝の気持ちを伝えようという標語が、病院中に貼られていたりする。こういう市民運動があるとお医者さんはたまりません。感謝されることを生きがいにしてきたような人種ですから、褒められるのが一番なのです。先生ありがとうと言ってくれるだけで、お医者さんは本当にやりがいがある。もう少しこの病院で頑張ろうということで、この病院は今立ち直っているということです。
全く正反対の人がいます。これは今週の火曜日の読売新聞の記事です。新潟県で入院中の42歳の男性が、真夜中にナースコールを押したのですが、看護師さんが来るのが遅れたそうです。どれ位遅かったかは書いてありませんが、遅いと怒って看護師さん4人を廊下に土下座させて謝らせたという記事です。そのときに止めに入った26歳の若い男性医師が顔を殴られていますが、病院はこうしたものに極めて弱い組織です。私どもこういう患者さんに対して対抗手段を持っていません。でも、病院は病気を治すところですので、この患者さんも病気をきちっと治して、病気が治ったところで警察が逮捕したと書かれています。
モンスターペイシェントには色々な形があります。その筋の方というのもありますし、心配が募る、とにかく黙って点滴しろというのもあります。あの薬の中に毒が入っているに違いないと言い出す人や、酔っぱらって来る人も大変です。きっちりと治療してあげたら、最後に金はないと言って開き直るのもいたりして、これに対して一々お医者さんや看護師さんが対応していますと、ますます時間はないですし大変です。これに対応するような仕組みを病院の中につくらなければいけないと思います。
先ほどの記事ですが、勤務医は3割が1カ月休みがないと書かれています。労災ライン、過労死ラインの仕事をしていて、7割以上は当直の翌日に連続して勤務している。72%の外科のお医者さんは当直の翌日に手術をしているとあります。労基法違反はなぜ問われないのだろうと。そのとおりだと思います。医療者の自己犠牲と善意に頼るしかない過労死ラインの超過勤務が蔓延するような医療界というのは、長続きするはずはないのではないかとこの記事が結んでいるのですが、私もそのとおりだと思います。
お医者さんは皆同じ条件ではないというのを少しお話しします。週平均労働時間を厚労省が調べていますが、開業のお医者さんの平均が55時間だそうです。法定労働時間は40時間で、中央省庁の役人が49時間、運輸業、建設業などに比べて、開業の先生方も非常に長い時間働いておられる。しかし、それに輪をかけて、病院に勤務している先生方はもっと働いている。70時間も拘束されているという数字が既にわかっています。
お医者さんの収入を申すのは本当にはばかられますが、開業医の先生方の収入を100%としますと、病院勤務の先生方の給料はその57%にすぎない。病院で長時間働く人のお給料は安いという現状が、お医者さんが黙っているのでずっと置いておかれているふうに見えます。少なくとも病院で勤務しているお医者さんの給料は、ぜひこの開業医の先生方と同じところまでにしていただきたいということを申したいと思います。
もっと過酷な人がいます。私ども大学病院で働く医師です。私どもはもちろん病院で患者さんの診療もいたしますけれども、その他に学生の教育をしなければいけません。研究をして、新しい情報を発信しなければ医学が進みません。診療して、教育して、研究して、最後には本当に疲れ切ってしまうお医者さんが出てきても不思議ではないと思うわけです。大学で働いている先生方の収入というのもこれまたここに書けないぐらい低いのです。病院の勤務をされている先生方よりまだ低い。信じられますか。
大学の医師は先生と言われますけれども、本当に先生、教職員の扱いなのです。お医者さんは趣味でやっているという解釈です。好きだから研究もやっているのだ、趣味で研究もできていいですねと言われるにすぎない。こういう状況が続きますと、お医者さんが大学にいなくなるのは当然かもしれないと思えます。3倍の仕事をしている自信があれば、我々は3倍のステータスが与えられることを要求してもいいのではないかと思うわけです。誤解を恐れず、本当に勇気を奮って申し上げました。
Aというお医者さんは、夜は休みがない、休日がとれない、収入は半分という状態で働いている。夜は休める、休日はとれる、収入は倍以上というBというお医者さんを見て、Aの医師は、過酷な労働に見合うものが得られなければ、あえて苦労を選ばなくてもと思い始めます。そこでAのお医者さんはやめさせて下さいということになります。Aのお医者さんがいなくなると、その地域で今度はBのお医者さんに負担がかかります。休めていたのが休めない。休日もとれなくなる。するとこの地域にはいられないということで、Bのお医者さんもいなくなります。そして誰もいなくなるわけです。そういう病院や医療機関が全国で発生する現実があるということです。
医は仁術なりで、私どもは、つらいとか、疲れた、休みが欲しい、楽をしたいとかは本当に言わないように育ってきたわけです。しかしここでずっと黙り続けていると、これから私の後に若いお医者さんがどんどん出てくるのですが、彼らが非常に偏ったお医者さんになるのではないか。この条件を改善してあげなければ、必要なところで一生懸命働くというお医者さんが決して増えてはこないだろうと思いまして、今日は勇気を振り絞ってお話をさせていただきました。
先ほどの金沢大学の病院長の富田先生は、医療は珠玉の無形財産で、患者さんと医療サイドが垣根を越えて考えていかなければならない問題が、今そこにあるということをおっしゃっておられます。
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