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No47 |
あなたの理解が“良いお医者さん”を作ります
〜上手な健康管理と賢い病院のかかり方〜
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図3 図4 図5 図6日本の医療費は本当に多いのでしょうか。OECD(経済協力開発機構)の平均値がこの横線ですが(図3)、GDP(国内総生産)で見ますと、日本はイギリスと同じ位で平均よりも低いのです。1人当たりの医療費を見てみましても、イギリス、イタリア、日本は平均よりも低い。日本の医療費は決して多くないということです。日本は年間1人のお医者さんが8,400人の患者さんを診るのが平均です。各国の左側のバーですが(図4)、世界の平均は2,400人位です。ところが、1回に払う医療費は、7,000円位。米国が2万5,000円、フランスが6万2,000円、ドイツが8万9,000円ですので、医療費は非常に安いけれど、一人のお医者さんが多くの患者さんを診ているのが日本の現状です。多分お医者さんの数も少ないのだろうということになります。OECDでは国民1,000人当たり3人のお医者さんが平均だそうです。日本は2.1人しかいない(図5)。この平均値のところまで埋めるだけでも、あと14万から15万人のお医者さんがなければ世界的なレベルと言えないという状況にあるということです。
医師不足は日本中均等ではありません。北海道はお医者さんが不足している病院の割合が最も高い。東北、北陸も足りない。東京周辺とか名古屋や大阪は、不足している病院は少ない。お医者さんは偏在しています。都市にいて、地域にお医者さんがいない。診療科でも偏在しています。危ないことをするお医者さんが少なく、危ないことをしない診療科のお医者さんが増えます。昼と夜でも偏りがあります。昼や平日はお医者さんが沢山でも、夜や土日に働くお医者さんは少ない。こういう偏在を解消していかないと、日本の医療はよくならないだろうと思うわけです。
それには多分お金もかかるだろうということです。道路づくりも海外援助もすべてやめて、すべての資金と人的資源を医療分野に回して、それでもまだ足りないかもしれないということを、金沢大学の病院長の富田先生が言っておられます。
本田先生というテレビによく登場される済生会病院のお医者さんが書かれた本の中に、ある財務省の主計官、官僚の談話が載っていました。ダム建設の予算を400億円削ったら、翌朝から電話が殺到して、国会議員や自治体の人が押し寄せて、すぐに大臣折衝でもうやめます、削りませんとなります。一方、医療費は、例え1,000億円削っても医者は文句を言わない。医は仁術です。だから医療費を削るほうが楽だということになる。我々黙っていていいということでは済まないという現状が今ありそうに思います。
日本では公共事業費が多いとよく聞きます。これはよく出る図なのですが(図6)、アメリカからカナダまで先進6カ国、全部の公共事業費の合計より、日本一国の公共事業費が3,279億ドルで、最も多いということです。これは1995年のデータでして、その後、経済状態の悪化や、公共事業の見直しなどで少なくなっていますが、それでもまだ多い。道路や橋も確かに必要だと思いますが、あまりにバランスが悪いという現状があります。
医療の均霑(きんてん)という大変美しい言葉があります。生き物が等しく雨露の恵みに潤うように、人々が平等に医療の利益を得ることを言うそうです。これはまさに国民皆保険の精神です。皆さん保険に入って医療を賄いましょうという制度は、世界に誇る医療の理想像だと思います。皆平等に同じ料金で医療が受けられる。病気になったとき、だれもがいつでもどこでも、安全で格差のない最高の医療が受けられるのが、この国民皆保険の基本的な考え方です。当然の権利と皆さん思われるでしょうが、お医者さんが酷使されて疲労困ぱいの現状では、そこまで整備されていないというのが結論だと思います。
もう一つ、国民皆保険。診療所や市中病院、大学病院でも、若い研修医が診ても専門医が診ても大学教授が診ても、同じ病気は同じ料金で、安全で格差のない最高の医療が受けられる。すばらしいとおっしゃるかもしれません。しかし、これで本当に平等なのかなと思います。おいしいお料理を高級レストランで食べたら料金は高い。ファストフード店で定食を食べたら料金は安い。でも医療はすべて同じ料金ですと言われますと、1時間かけて一生懸命患者さんにお話をして治療をしても、5分間診てお薬を出しても同じ病気だと同じ料金というのは平等なようでいて、医療を提供する側からすれば、質を改善する意欲が報われないシステムです。
コンビニ受診というのがあります。病院は24時間開いているコンビニエンスストアのようだ。いつ病院に行ってもいい。血まめができた。ひざを擦りむいたで夜中に病院に行く。ところが、そこで診てくれる先生は、さっきまで生きるか死ぬかの患者さんを処置して、ようやく一段落して当直室でちょっとウトウトとしていた時かもしれないのです。その時に、先生、血まめができた患者さんが来ていますから診てくださいと電話がきます。お医者さんは断れません。行って、この血まめを治すということになる。これはちょっとおかしいと思われませんでしょうか。
実は医療機関は、コンビニほども整備されていないと思います。コンビニは、夜中に働く人と昼間働く人は全然別な人です。ちゃんとワークシフトで、業務分担をしている。ところが、病院のお医者さんは昼でも夜でも、この血まめができた患者さんを夜起こされて診たとしても、次の日朝から手術や、外来の診療、或いは出張に行くというのが現実なのです。
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