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No47 |
あなたの理解が“良いお医者さん”を作ります
〜上手な健康管理と賢い病院のかかり方〜
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安全な医療には別な意味があります。医療事故、医療ミスを無くそうと、医療安全対策というのを一生懸命各病院やっています。私も十数年来かかわっていますが、根本は“To err is human”、間違いを犯すのが人間、間違いを犯さない人間はいないということです。医療を行う人間でも人間ですので、ミスがゼロはあり得ないという前提で考えないといけない。でも、命を預かる人間が間違いを犯すとは何事だと皆さんおっしゃると思います。しかし人間である以上それは絶対ゼロにはできない。安全をどこまで突き詰められるのか。限りなくゼロにする努力を我々積み重ねてまいりました。
医療の安全対策 情報を共有、エラーから学ぶ
1999年に横浜市立大学で大変な事故が起きました。肺の病気の患者さんに心臓の手術をして、心臓の病気の患者さんに肺の手術をするという、起こるはずのない事件が大病院で起きた。これは大変ショッキングでした。見過ごした看護師さんが悪い。それをやったお医者さんが悪いと責めるのは簡単です。でも、それでは問題は解決しないというところから、安全対策は始まります。個人の責任を追及してもだめなのです。うっかり者の看護師さんやお医者さんだからではなく、だれがやっても絶対ミスが起きない仕組みをつくらなければいけないというのが安全対策です。
私どもの病院のオーダー画面では、例えば同姓同名の人がいますと、「同姓同名の方が今院内に来ていますよ」というメッセージが出ます。それで今、長谷部直幸さんの診療を始める時に、同姓同名の人がいますと誕生日が4月19日の長谷部直幸さんですかと確認して診察が始まります。この画面は私の発案で10年近く前に開発したのですが、今ほとんどの医療機関で同じような画面が最初に出ます。血液型の異常やアレルギーなど特殊な条件も出るようになっています。ダブルチェックです。二度、三度確認して、間違いを起こさないようにする。
例えば点滴する時、この患者さんでよいのか名前を言ってもらい、確認して始めます。更に、リストバンドにバーコードが付いておりまして、患者さんを照合できます。名前を呼んで確認し、機械にも確認してもらい、絶対間違わない仕組みづくりを徹底しています。
問題が病院の中で起きた時には、すべてを報告してもらいます。その数、月260件あります。月に260回も間違いを犯すのかと皆さん不安になると思います。でも大部分は、チェックの結果最後の段階の前に未然に防げたものが殆どです。ですが、例えば患者さんがベッドから落ちた、転んだというような事もあります。勝手に点滴の管を抜いてしまったというのもあります。それが260件ありまして、中でこれは防がなければというものに逐一対策を立てて、二度と起きないようにします。大きなものは判定会議が開かれて、事故の要素が心配されましたら、調査委員会を開きます。ここで病院の外から第三者の専門の方も呼んで、起きたことを確かめてもらいます。それで何か間違いはないかを見ていただいて、事故と言うべきでしょうとなりましたら、事故調査委員会が開かれます。ここでなぜ起きたのかを検討し、二度と起こさない対策を立てて、患者さんやご家族のお許しが得られましたら、これを公表します。
公表は新聞に出すということだけではありません。もちろん一部はそうなりますが、全国の病院にそれを教えてあげる。この機械のこのボタンを押し間違ったら、このような予想もしないことが起きることを皆さん知っていますかと、全国の病院に教えてあげるために公表するわけです。情報を共有して、みんなでエラーから学ぶ。失敗から学んで、二度と間違いが起きないようにすることを徹底します。
日本は世界一の長寿国です。男性79歳、女性86歳の平均寿命です。100歳を超えられた百寿者が平成元年には3,078人、それが平成20年には3万6,000人になりました。平均寿命は経済状態と相関します。GDP、国内総生産という経済状態の評価との関係を見ますと、豊かな国ほど平均寿命が長い。日本はトップです。
80歳以上の高齢者への健康のアンケートで、日本の80歳以上の方は64%が健康と答えます。ところが、月1回以上病院に行のも日本は57%と最も高い。健康で病院に行くのが日本のお年寄りです。米国、フランスは健康ですので病院に行く人は25%と少ない。韓国は健康な人が43%と少ないですから病院に行く人が多い。ドイツは健康な人が3割ですが、病院に行く人も3割で、我慢強いのかもしれませんが、日本は健康でも病院に行ける環境にあるということです。
ところが、これが進みますと医療費がどんどん膨らんで国を危うくするのではというのが1980年代に出ました。「医療費亡国論」です。高齢化社会が進むと、医療費のために国が危うくなる。それを抑えねばならない。ここから医療費抑制策が始まりました。その一つがお医者さんを増やすなということです。お医者さんを増やすと医療費がかさむ。だから、医学部の定員を減らすことが始まったわけです。
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