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No46 |
命あるもの みな美しく
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「オランウータンはなんの仲間ですか?」と聞くと多くの人が「サルの仲間」と言います。その時に「じゃあ人は何の仲間ですか?」と聞いて「サルの仲間」と言うのだったら良いんです。「いや人はヒトです」と言うのだったらオランウータンはヒトの仲間です。明らかに行動が違います。サルだったらどうしているか。サルだったら間違いなくニホンザルでもヒヒでも、自分が食べようと思っていた餌を誰かが食べたら、自分が一番優位にいればぶん殴って、叩き付けて、口をこじ開けて中全部取ります。これが当たり前です。だって自分が食べようと思っていたのですから。これがサルです。ヒトはそんな事はありません。手に入れたものが食べます。「頂戴」とは言うけれども無理やりという事はありません。それはチンパンジーもそうです。くれなかったらヒステリー起こしてウワーって騒ぐけども絶対に無理やり取ることはしません。これがヒトです。だからオランウータンはヒトなんです。
こういうこともありました。止まっていたトンボがプッと浮き上がったのです。トンボはサルにとっては餌ですから、サルはトンボを食べてしまいます。だけどリアンはトンボと遊びます。これがヒトなんです。それからニヤっと笑います。これもヒトです。サルは笑いません。オランウータンもチンパンジーもよく笑います。しかしオランウータンは声を出しては笑いません。ニヤっと笑うだけです。チンパンジーは声を出して笑います。しかし人間と違ってワッハッハとは笑わないから、笑っているかどうか皆さんわからないだけです。こういう素晴らしい「ヒト」なのです。
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今までいろいろな生き物がいて、様々な進化の過程で命を渡すとか言ってきましたが、それは並大抵の事では無いのだという事をお話したいのです。リアンが出産しました。台北動物園でリアンはお母さんからちゃんと育てられました。リアンの上にはお姉さんがいて、リアンは妹です。リアンの下には子供はいませんでした。私はリアンの方が良いと言ったのは、その時はジャックとは違うオスがいて、年齢の事を考えたらお姉ちゃんより妹の方が良いと思ったから妹を私が貰い受けたのです。その時に一番心配したのは子供をちゃんと産めるだろうかということです。チンパンジーで非常に苦労していますから。
先程スカンクの時に人工哺育の話をしましたが、旭山動物園は仔を親から離してしまう人工哺育を一切やりません。ここ15〜20年位やっていません。なぜかというと、人が動物を育ててしまったらその動物は、その動物に育たないのです。例えば私が育てたスカンクは、スカンクと子供を作る事はできませんでした。私が育てたキツネはキツネの中に入る事すら拒否しました。バケモノになっちゃうのです。だから命というのは、その個体が次の世代へ引き継ぐまでやって初めて命なのです。ですからうちはチンパンジーでも絶対に人工哺育をしません。
ミラクルというチンパンジーの子供がいます。なぜミラクルと名付けたかというと、そのお母さんは産んでは捨て、産んでは捨て、産んでは捨てともう6〜7回位とにかく産んでは捨て、産んでは捨てでした。でも私達は絶対にそれを代りに育てなかった。いつかなんとか母親として目覚めが来るぞと思っていて、確か8産目か9産目だったと思いますがようやく自分で子供を育てました。その子供をミラクルと名付けたのです。そうしたらその次からはしっかりと子供を自分で育てます。
リアンはお母さんに育てられたけど、お母さんが子供を育てるところを見ていない。だから多分育てられないぞ。その為に用意だけはしておこうと。介添え哺育です。お母さんと一緒になって、子供を育てるのを手伝っていこうという事を、今やっていますのでその事を紹介します。出産直後に案の定パニックを起こしました。新生児を捨てて麻袋に隠れてしまいました。もう現実逃避です。何も出来ない、全く普段と違う異常行動です。要するに何がなんだか全くわからなくなっているパニックです。私はその時飼育係にとにかくリアンを一旦落ち着かせろ、それから子供をおっぱいにただただ付けておけと、他は何もしなくていいと言って彼を産室に閉じ込めました。もちろん外側から鍵をかけて。鍵は私が持っていますので絶対に出てくることは出来ません。ただおにぎりだけは差し入れるからと─やさしい一面であります。
それで彼が入っていきます。入って声をかけます。「どうした?」そうすると「コイツなの」と不安そうにして、「お前の子だよ」といくら説明してもわからないのです。ヒトとサルの違いですが、サルは赤ちゃんがお母さんに抱きつきます。だけどヒトの赤ちゃんはお母さんに抱きつけません。だからお母さんが抱っこするしかありませんが、この時は絶対嫌だと拒否します。しかしこれはずっとおっぱいにくっつけておくしかありません。でも落ちてしまいます。これがヒトです。サルだったらこんな事絶対にありません。ヒトだからお母さんが抱かなければいけないのです。でもこの飼育係とリアンの関係を作っておくのが一番重要なのです。飼育係すら拒否するようになったらこのような事は出来ません。この準備をしておくのが介添え哺育の一番重要なところです。でもどうしてもダメだから仕方が無い、無理やりおっぱいを飲ませろと、おっぱい絞り出して、赤ちゃんに吸ってもらいました。本当はお母さんが赤ちゃんを抱っこしてやらなければいけないのですが…。その為に胸に乳房があるのですから。犬でも猫でも胸に乳房はありません。サルしか無い。なぜならサルは赤ちゃんを抱っこした時に丁度口のところにおっぱいがくるように胸の胸部乳頭だけが発達したのです。でも何度やってもとにかく反応しない。それと臍の緒が長いのです。ヒトの臍の緒がどの位の長さか知りませんが、とにかくチンパンジーもオランウータンも長いです。引っかかったりすると困るので、切ってやりました。これ本当はお母さんが切るのです。
朝8時半に生まれたんですけれども夜になってしまいました。全く駄目です。仕方がないのでこうやって寝なさいといって、胸の所に赤ちゃん付けてみたら先ほどよりは拒否しなくなったのです。そしてついに夜中になって抱いたのです。ようやく抱いて自分のベッドに上がっていきます。ここでようやく母性本能にスイッチが入ったのです。翌日2日目以降は赤ちゃんを手放すことはありませんでした。生後10日目、産室に入りますと、しっかりと手で赤ちゃんを抱いています。赤ちゃんもしがみ付いていてかなりこれも力が付いてきました。それでもお母さんは絶対に手を離しません。サルとヒトの大きな違いです。サルは仔を産んだその日から4つ足で野原を走り回ります。だから子供にこの力がなくなったらもう駄目です。動物の仲間で24時間肌と肌を密着して子育てするのはサルの仲間だけです。それ以外は犬でも猫でも授乳している時以外は離れます。サルだけはずっとこうやって一緒にいるのです。だから抱いて育てるというのが如何に重要な事かというのがわかると思います。何度も言いますけれども、サルは赤ちゃんが抱きつく動物です。しかし「ヒト」は赤ちゃんを抱いて育てる動物なのです。ここがサルとヒトの非常に大きな違いです。それで赤ちゃんを連れて空中散歩をするのですが、まだ赤ちゃんが自分にしがみ付く力が少ないと思っているから安全に渡っていきます。そのうちに赤ちゃんの力がつくようになってくると前と同じように渡っていくのです。見ている人がキャーっと言っていても、下を見てヘヘッと笑っています。とにかく赤ちゃんの成長というのはもう24時間肌身離さず暮らしているからよく判るんですね。
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