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No46 |
命あるもの みな美しく
(6/6)
次の世代へ命のバトンタッチ
1年3ヶ月経つとそろそろ自分で動きなさいと言って自分で運動させます。それで3歳2ヶ月になると今度は自分で空中散歩したいと言うものですから、それに合わせて教えるんです。これもサルとヒトの大きな違いです。ちゃんとここまで教育するというのは、これはヒトの仲間以外には見られません。サルはここまでやりません。こうやって教えていきます。それで3歳6ヶ月、今度は自分で渡って行くようになります。こうなってくるとちゃんとお母さんの身体にも変化が生じて来て、今度は卵巣が活動を始めて次の卵胞が育って発情が来て出産をするという順番になっています。
第2子の誕生は去年の7月30日でした。実はお客さんの見ているところで産んだのですが、第1子のモモが全部見ているのです。胎盤を部屋に持って行くのもモモは手伝いました。ずっとお母さんが何をやるのかをモモが見ているのです。常にモモはお母さんが何をやるのか見ています。そして赤ちゃんの事が気になるのです。8月5日には信じられない事に3人で空中散歩しました。これはビックリしました。渡ったと聞いて私は慌てて駆けつけました。無理する事は無いのに、なぜかなと思ったのです。まだ小さいですから、邪魔といえば邪魔だしと思っていたら、「あっ、危ない!」モモの足がモリトに当たってしまいました。リアンがモモを払い除けると、モモが捻くれて向こうへ行っちゃったのです。お母さんやっぱり上の子も気になるんですね、おいでと言ってちゃんと呼びに行って、大変です。下の子連れて上の子の面倒を見ながら、このようにして次の世代へ命を伝えていく訳です。このような苦労があって初めて成長するのだという事です。そしていつの間にか、なんとモモが赤ちゃんのモリトを抱っこして子育ての練習をしているのです。1日1時間とか2時間位。
今自分達がいるというのは結局この命を誰からもらったのかと考えた時に、やっぱり自分の両親からもらった。勝手にどこかで生まれたわけではありません。その両親は両親から命をバトンタッチしている。そのように考えると自分がここにいるというのは、命の誕生という地球上で40億年前に起こった事と直結しているわけです。それはチンパンジーであっても全ての生き物であっても全く同じ。皆生命誕生のあの一瞬に遡っていけるのです。しかも全ての動物というのは、他の生き物の命を糧として生きているわけですから、今ここで生を得て生きているというのは本当に奇跡的で、なおかつ非常に大きなバランスの中に私達はいるのだろうなと。だからこそこの命というのはしっかりと受け継がなければならないし、バトンタッチして行かないとならないのだと考えています。動物達というのは環境に合わせた暮らしをしています。これは皆さん御存知の通りで人間だけが環境破壊なんてバカな事をやってきたのですけれども、動物というのはそんな事はありません。それから動物達は自らの意思で活動しています。決して誰かにやれと言われてやっている訳ではありません。それから何事も諦めず全力を出しきって生きています。動物達は皆命のネットワークの中で生きているという事です。
先ほど言ったジェンツーペンギンがやっぱり自分達はキングペンギンと一緒に散歩に行きたいんだという意思表示をするようになった時に、私達は「そうかい、出てみるかい?」と言って最近の散歩にはたまにキングペンギンばかりではなく、ジェンツーペンギンも出てくるようになりました。ブリッジを使って運動させてやったら、やっぱりこっちの方が良いと思うんでしょうか。こうやって一緒になって散歩したり遊んだりして、子供達の前で「ほら生きているんだぜ」というような事を言ってるのだと思うのです。私はいつも考えているのですけども、多くの生き物と共に生きているというこの幸せを感じなくなった時に、恐らく人間というのは動物じゃなくなるのだと思うのです。それがどんなものなのか、誰にもわからないという事だと思います。私達も命のネットワークの中で、美しく生きて行きましょうというのが今日の話でした。
<座長・長谷部直幸先生>
大変素敵なお話と感動的な映像を沢山見せていただきました。旭山動物園というのはパンダが居るわけでもコアラが居るわけでもないですけれど、こんな風に動物がその能力を発揮しているところが最も美しいのだというその信念を、行動展示という形で私達に見せていただき、感動を与えてもらっております。
何度でもリピーターが出る動物園というのは日本にそんなにないだろうという事で、旭川の誇りであり、北海道の誇りである旭山動物園。私たちはここから元気をもらって今頑張らなければいけないと思っております。
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