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No46 |
命あるもの みな美しく
(3/6)
水中を飛ぶペンギンも散歩はヨチヨチ
それからペンギンが一番美しい時はいつか。私はやっぱり水の中を飛んでいる姿が一番ペンギンの美しい時だと思います。うちのガイドの女性が、ジェンツーペンギンの主食のオキアミを食べさせている時の細かな尻尾の使い方。クルンと水の中で簡単に回りますが、皆さん自分で水の中に入った時の事を考えてください。そんなにクルクルクルクル回れないです。スピードもそうです。ものすごいスピードを出して泳ぐので、その為に身体がこういう姿形をしているのです。キングペンギンも皆ペンギン類は弾丸状の格好をしていて水の抵抗を最も受け辛い姿形をしています。弾丸状に膨らませる為に膝を折り曲げて肋骨のない腹部を支えて、お腹がペコンと引っ込まないようにしているのです。そこまで考えて彼等は自分の身体を決めるのです。うちは色々な障害物がありますが、狭い所でも全くぶつかりません。もちろん速く泳いで素早く方向転換出来ないと、イワシのような生きた魚を捕って食べられませんから、彼らにとっては朝飯前のことだと思います。そのように彼らが自分の能力をしっかりと発揮しているその瞬間が、やっぱり一番美しいのだと私は思います。水中を飛んでいる時が美しいかというと、歩く姿もまた美しいのです。残念ながら今年は雪解けが早くて、もう散歩が終わってしまいましたけれども、雪がある時にはヨチヨチヨチヨチ歩いています。先程お腹に膨らみを作るために膝を曲げたと言いましたけど、曲げっぱなしですから、膝を伸ばして歩く事が出来ないのです。しゃがんで歩いているのと同じなのでヨチヨチ歩くのです。膝を真っ直ぐにしたら水圧に負けてへこんでしまい、あの弾丸状が出来ないのです。だから結構歩くのが大変なのです。それで特にデコボコ道なんか腹ばいで歩くしかないのです。
ぺんぎん館の中にはキングペンギン、ジェンツーペンギン、イワトビペンギン、フンボルトペンギンがいますが、ジェンツーペンギンが出たい、出たいと言うんです。別に日本語で言うわけじゃないですけれども、何となく目が出たいと言っているわけです。それで手作りで、登ってきたら雪で遊べるよという坂道を作ってやりました。そしたらどうなったかというと、外に行くために上がって降りてくるんです。もう喜んで、喜んで。一つの所にずっといるよりもなにか機会があれば、どこかに出て遊びに行きたいんでしょうね。皆で出てきて何をするかというと、ただただ散歩するだけなんです。でもここは路面を全くいじらず、雪が降ったままですから全く自然の雪原と同じ状態で、こういう所で遊ぶのが好きです。この様にして遊んで、時間が来るとトコトコ帰っていくのですが、結構この坂急なのです。横から見ますと、結構急なのですが、急でも平気なのですね。これを作った時には、私の予定では坂を降りるときに腹ばいで格好良くスーっと滑り降りる予定だったのです。ところが、スキーの時みたく横になって、なかなかこちらの思う通りにやってくれないのです。腹ばいでいくにはちょっとやっぱりきつ過ぎるのでしょうか。この様に雪が降る時にはキングペンギンは散歩しますけど、ジェンツーペンギンはこうやって登ったり歩いているというのが、彼らにとって非常に楽しみなのだと思います。
好奇心の強いアザラシ
次はアザラシですが、旭山動物園でまだ生まれる予定ではなかったアザラシの赤ちゃんが今日生まれました。このアザラシというのも実に素晴らしい生き物で、あざらし館はボートが置いてあったりしてプールが北の漁港をイメージした作りになっています。アザラシと一緒に必ずいるのはウミネコですとか、オオセグロカモメですとか、オジロワシがいたり、水の中のテトラポットには魚がいるようなものを作っています。
あざらし館には円筒水槽がありまして、深さ6メートルのプールと繋がっています。その周りにはお客さんが来ることが出来るようになっています。先ほどのぺんぎん館はペンギンの中にお客さんが入れるようにしたのですが、今度は逆です。お客さんの中にアザラシを入れてやろうという発想でこれを作りました。最初の時はお客さんを見にアザラシが本当に来るだろうかと多くの人が疑問に思っていたようなのですが、私は絶対に来ると思っていました。なぜかと言うと私が現場にいた時に、アザラシのプールに入った事があるのです。その時は実はスカンクの赤ちゃんを、親が育てなかったので私が育てていまして、その人工哺育をやった時にスカンクの赤ちゃんが水を怖がるのです。園内を散歩させても水溜りに来たらピタっと止まってしまうのです。野生動物ともあろうものが水なんか怖がっちゃいかんという事で、なんとか泳ぎを教えようとアザラシのプールに連れて行って私が中に入って泳いだら、私を親だと思っていますからスカンクの赤ちゃんは必死になって私の後について泳いでくるわけです。その時に本当に驚きました。陸上に居るときには私が入っていくとアザラシ達は私から逃げようとするのです。威嚇して口開けて、嫌な顔をして水の中に皆逃げていく。ところが私が水に入った途端、全く逆なんです。アザラシが私の回りに寄ってくるのです。皆言っているんです、「なんだこのブヨブヨしたのは」とか言って。「みっともない形をしているなー」「美しくないな」と思っているんですね。水の中では圧倒的にアザラシの方が美しいですよ、やっぱり。それでもう私の回りは皆アザラシになって「ああ、アザラシはこんなに好奇心の強い動物なんだ」と思ったのです。だからきっと水の中にさえいれば、お客さんがどれほど居てもアザラシは特に嫌がらないだろうと思っていたら、やっぱりアザラシはすぐにこの筒の中に入ってきました。
お客さんに公開する前に私が撮ったビデオ見ていただくと、この筒に入ってきて「何しているの?」という感じでこっちを見ているのです。アザラシってただの棒っこかと思ったら、柔らかくてしなやかで、これはもう美しいとしか言い様がないですね。やっぱりこういう生き物なんです。一番得意なところにさえ身を置けば、彼等はものすごく生き生きと暮らすし、すごく美しいというのが実感できます。私は、外プールから円筒の中に入ってくる様子をビデオに撮りました。実はこのビデオを撮った理由はクローズアップ現代というNHKの生番組があり、その時にアメリカから苦情を受けたのです。この筒のまん前で生中継をやったわけですから「あんな筒の中でアザラシを飼うとはどういう事だ」と。その時にこれを撮ったのです。要するに自分の意思でアザラシはあの中に入って行くのだという事を示す為に。筒の中にアザラシがずうっといて、テレビカメラをずっと見ていたものですから、アメリカの人がそれを見てこの筒の中で閉じ込めて飼っていると勘違いしたみたいなのです。それで、私はへたくそな英語を書いてこのビデオを送って、アザラシ達は決してここに閉じ込めているのではなくて、今みたいに自由に自分の意思でやってくるんだと。さらにそればかりじゃなくてアザラシは雪が大好きな生き物なので、雪が降ると雪の上でも自由に遊んでいるんですよと書いたんです。まさにこれがアザラシの特徴そのものなのです。斜面であっても全然滑りません。私達がそこへ行ったらツルンと滑ってジャブンです。ツルツルで、ここで立てる人間なんていませんから。でもアザラシは平気です。これは彼らの1センチ位の固い毛がみんな尾っぽの方に向かって生えているから、それが引っかかりになって平気で上がって来ることができる。ただそれだけなのですが、それがアザラシの非常に大きな特徴になっているわけです。それで、ビデオと全体の写真をCDに焼いて、私の所に苦情のお手紙を頂いたアメリカのなんとかさんへすぐに出しました。もう3年以上経つんですけど未だに返事がこないですけどね。文句言う時は早いけど、わかったというのは遅いと言う…。この動物舎では特に私はアザラシというのはアザラシだけで生きているのではなくて、鳥とか魚だとかそういうのと一緒に生きているんだよというのをしっかり伝えたいという事でこの施設を考えました。
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