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動脈硬化−病変の成り立ち
(2−1)
北海道女子大学短期大学部教授 心臓血管センター・北海道大野病院顧問 尾山洋太郎
ヒトは動脈と共に老いるといいます。この動脈病変の兆しは小児期にすでに始まり、若い世代でも年齢と共に進行することが示されています。(図1−a)
動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層からできています(図2)。内膜の表面はレンガを敷きつめたような平たい細胞で被われ、これが直接、血液に接しています。この内皮細胞は、ある種の物質や細胞の生理的な移動を除いて、血液成分のしみこみに対して障壁の役目を果たしています。動脈の中を流れる血液が、ちょうど傷口の出血が止まる時のように、動脈の壁に固まり、こびりつくようなことがあっては、円滑な血液の流れを保つことができなくなりますが、内皮細胞には動脈の内張りである自分自身への凝血や血球成分の接着を防ぐ能力もあります。
内膜と中膜は内弾性板によって隔てられています。中膜は、主として平滑筋細胞からできています。この細胞は収縮性を持っていますし、ここには膠原(こうげん)線維や弾性線維もありますので、動脈本来の弾力性や強靱さは、この内膜によって保たれていることになります。
中膜は外弾性板を介して、主として結合組織からつくられ動脈の壁へ栄養を送る細い血管をもっている外膜と接しています。
粥状硬化など3タイプ
もともと柔軟で弾力性をもつ動脈の壁が、部分的に厚く、かつ硬くなり、本来の構造が失われていく状態を動脈硬化といい、次の三つのタイプがあります。
▽メンケベルグ型硬化
太い動脈に起きてくるもので、中膜の変化であり、ここへの石灰沈着を特徴とします。▽細動脈硬化
直径0.1ミリメートル以下の細い動脈に生じる病変で、脳や腎臓で問題になり、高血圧との関連が重視されています。▽粥(じゅく)状硬化
心筋梗塞や狭心症のひきがねとして、最も大切なのが、内膜に限局性の病変を作る粥状硬化です。心筋梗塞をおこした人の冠動脈をみると、この内壁に健康な血管にはみられないドーム状のもりあがりがあり、このため動脈の内腔がひどく狭められたり、ほとんどつまってしまったりという状態になっています。ドーム状のもりあがりの部分は、脂肪を主体とするドロドロの粥状の物質でできあがっていることから粥腫(アテローム)と呼ばれ、これを中心とする動脈病変を粥状硬化といっています(図3)。疫学的な調査から、動脈硬化を成立・進展させる因子として、高脂血症、高血圧、喫煙習慣、運動不足などがあげられてきましたが、これらはどれも、日常の生活習慣と深く関係しています。なかでも、粥腫の主成分がコレステロールであることから、高コレステロール血症と動脈硬化とのかかわりが、古くから注目されてきました。
コレステロールは、細胞やホルモンの材料となる物質の一つであり、吸収されたところや作られた場所から、必要とする部位へ血流に乗って運ばれ、利用されています。コレステロールは脂肪ですから、そのままでは水中の油滴のように水に溶けない性質を持っているため、血液の中では、蛋白質と結合して「リポ蛋白」と呼ばれる水溶性の姿をとっています。
このリポ蛋白は、比重によりカイロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)の四つに分けることができ、主としてLDLとHDLがコレステロールを運搬しています。コレステロールは動脈壁細胞の構成分としても大切ですが、これが過剰にとりこまれるとアテローム病変を進行させることになります。因みにLDLの血中レベルは動脈硬化病変の広がりと深く関係するとされ(図1−b)、これが上昇している「高LDL血症」は動脈硬化の危険因子として特に重視されています。

