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動脈硬化−病変の成り立ち
(2−2)
なぜコレステロールがたまるのか
アテロームは、内膜に限局して沈着したコレステロールと、ここで増殖し変性した平滑筋細胞とからできています。脂肪などの血液成分のしみこみに対し障壁となっている内皮をこえて、なぜコレステロールが侵入し内膜の部分にたまるのか、またどのようにして本来中膜を構成しているはずの平滑筋細胞がこの場所で増殖するか、については、従来からいろいろな説がありますがおおよそ次のように考えられています(図4、5)。
まず、危険因子などの関わりによって、動脈の内皮細胞が傷ついたり、本来の機能や能力が障害を受けたりします。例えば、不安や興奮、痛みなど、精神的あるいは肉体的ストレスは、副腎を刺激してカテコールアミンと総称されるホルモンを分泌させますが、この物質が内皮を傷つける元凶と考えられています。煙草に含まれるニコチンもストレスと同様にカテコールアミンの分泌を刺激しますから、煙草は間接的に動脈内皮を損傷することになります。
一度内皮細胞が傷ついたり、内皮本来の働きが障害をうけると、そこを通して血液成分、とくにコレステロールの運び役であるLDLが必要以上に血管壁へしみこみ、内膜に限局して蓄積されます。一方、血液の中を流れている白血球の一つである単球が、これも内皮の性質が変わることで内皮の表面に接着し、内皮をこえて内膜に侵入します。単球は内膜中で異物を貪食したり免疫に関係したりするマクロファージに分化、変身します。
内膜にしみこんだLDLは、ここの結合組織などにより酸化され酸化LDLになります。マクロファージはこうして酸化、変性したLDLを好んで取り込み、自身の中に多量のコレステロールをかかえこむことになります。酸化LDLは血管内皮を直接損傷したり(図5-I)内膜への単球侵入を促す(図5-II)一方、マクロファージの流血中への環流を抑えます(図5-III)ので、マクロファージはコレステロールをかかえたまま逃げ場を失い、内膜に閉じ込められ、泡沫化すると考えられます。
障害を受けた内皮や、マクロファージなどが分泌する物質の作用によって、内弾性板をこえて中膜の血管平滑筋が内膜に遊走し、ここで増殖します。これは本来の収縮する能力を失った細胞であり、マクロファージと同様に変性したLDLをとりこみ、動脈硬化病変の成立に関わっています。
このように、傷害された動脈の内膜に限局して脂肪の蓄積と筋細胞の増殖が平行して進み、ついに完成された粥腫の形をとるようになります(図6)。
冠硬化性心疾患が増加
近年日本でも、狭心症や心筋梗塞など動脈硬化が原因である冠硬化性心疾患が増加する傾向にあり、これを中心とする心臓病が死因の上位を占めています。高LDL血症を軸とする危険因子のかかわりが動脈硬化病変への引き金をひくと考えられます。危険因子については次回以降で詳しく説明されますが、「身近な危険因子の改善」、「生活習慣の是正」が心臓病予防の上で最も大切で有力な武器であることを念頭において日常をすごしたいものです。