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NO.1

動脈硬化と血栓(予防と治療への挑戦)
(2−2)

構造は単純、複雑な働き



1.血管の基礎知識

 血管には、心臓から出る動脈系血管と末梢臓器・組織から心臓に戻る静脈系血管があり、ポンプの役割をする心臓と併せて血管系と呼ばれています。成人男性では約5リットル、女性では約4リットルの血液がポンプである心臓によって循環する閉鎖循環回路を形成しますので、血管系は循環系とも呼ばれることがあります(図2)。

 最近になって血管系は一つのシステムとして働いている臓器と理解されるようになってきました。心臓から出る血管は大動脈の1本ですが、分岐して分配動脈となり、さらに、小動脈、細動脈と分岐しつつ細くなっていきますが、その総断面積はむしろ増えていきます。細動脈はさらに分岐して臓器・組織の中で物質交換をおこなう総計93億本の毛細血管となります。毛細血管は細静脈、小静脈そして2本の大静脈となり、心臓に戻ります(図3、4)。

血管の構造は、動脈と静脈で異なり、また、太さによって異なりますが、基本的には血管内面を被覆している内皮細胞を含む内膜、平滑筋細胞からなる中膜、そしてその外側にある外皮に相当する外膜からなっています(図4)。この中で、血管病変の発現に関係するのが内皮細胞、血管平滑筋細胞、そして、細胞間を埋めている弾性線維と膠原(こうげん)線維です。

■内皮細胞

 毛細血管を含めて全ての血管系の内面を被覆している1層の細胞です。昔は、血液と血管壁とを隔てているバリアーであり、また、容易に血液が血管内で凝固しないように血管内面に滑らかさを与えている構造と理解されていましたが、最近は、血管壁の機能・病変形成に大きな役割をもつ多様な生理活性分子を産生する、臓器としての血管の重要な構成細胞であることが判ってきました。動脈硬化のような血管病変もこの内皮細胞の機能変化が引き金になるのです。表2に血管内皮細胞が作り出す生理活性分子の1部をあげました。

表2 血管内皮細胞が産生する多様な因子(物質)
血管平滑筋の
緊張の調節
一酸化窒素(NO)(弛緩)
プロスタグランジン類(弛緩と収縮)
エンドセリン(収縮)
抗血栓性 トロンボモジュリン
ヘパラン酸
一酸化窒素
血栓形成 プラスミノゲーンアクチベター
インヒビター
血小板活性化因子
白血球の内皮
付着
ICAM−1
VCAM−1
セレクチン類

■平滑筋細胞

 血管壁中膜に存在する血管平滑筋は、交感神経や血液の中の血管作動物質の作用によって収縮と弛緩をおこして、血管の内径を変え血圧を決定する要素となります。血管平滑筋が、骨格筋や心筋と大きく異なる点は、様々な刺激(血管収縮因子や増殖因子、サイトカイン類)によって脱分化して容易に増殖する性質を持つことです。これが、血管壁の肥厚や動脈硬化の病態形成に強く関わっているのです。

■弾性線維・膠原線維

 エラスチンやミクロフィブリルと呼ばれている弾性線維やコラーゲンのような膠原線維は、血管壁に力学的強度を与えています。その産生及び物理化学的性質は、加齢によって増加してくる平滑筋細胞とともに動脈壁に硬さを与える要因となっています。

■栄養血管

 細い血管や太い血管の内側は内腔を流れる血液から直接酸素と栄養素を取り込むことが出来ますが、大動脈のように太い血管では外側を養うための血管網が出来ています。これを栄養血管と呼んでいますが、この血管の閉塞は血管壁に障害を与えます。

 
生命体支えるシステム臓器


2.血管生物学の進歩

 生命科学の領域では、遺伝子工学や分子生物学などの新しい研究手法を取り入れるようになって次々と新発見が報告されています。

 生命体としての個体が存続するためには、臓器機能を統合する神経系、内分泌系および免疫系の調和のとれた働きを必要としますが、加えて、血管系が健常であって臓器機能の正常な活動を支えることが基盤となります。血管系を、単なる血液を輸送するパイプではなく生命体としての働きを支える重要な臓器、システム臓器として認識する様になりました。

 血管の構造は、基本的には内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞とこれら細胞が作り出す間質線維からなっている単純なものですが、個々の細胞の働きは今まで考えられてきた以上に複雑です。血管構成細胞が、血管を取り囲む外界から様々な情報 (神経伝達物質やホルモン、アンギオテンシンの様な血管作動物質)によって機能を変えるほかに、血管壁を構成している細胞間で情報のやり取りをして相互会話(クロストーク)をしています。

 現在、血管構成細胞の外界情報の受容の分子機構や細胞間のクロストークの実体が分子生物学的手法によって明らかにされようとしていて、「血管生物学」という新しい研究分野が確立されました。ここで得られた研究成果が、「動脈硬化と血栓」の予防と治療に役立つ新しい治療法の開発に大きな貢献をすることが期待されるようになりました。

 このシリーズでは、動脈硬化と血栓の研究の基礎的および臨床的研究の最前線を紹介していきます。次回は、動脈硬化を取り上げます。 


  
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