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生まれつきの心臓の病気を持った
子どもたちが大人になったら
― 成人先天性心疾患のお話し ―(前編)
(2/3)
北海道立子ども総合医療・療育センター
横澤 正人氏
<先天性心疾患に根治手術はない:生涯医療の必要性について>
心臓の手術を受けた方ならご存じと思いますが、余程の軽い手術でない限りは、元気になっても担当医から1年に1回か2回は必ず外来に通院するように言われます。手術後に思いもよらない病気=<合併症>が起こることがあるからです。元々心臓に異常がなかった成人の心疾患でもこんな状況ですので、生まれつき心臓の構造に異常があって手術した先天性心疾患の場合は、もっと注意が必要だろうと想像するのは難しくないでしょう。
<根治手術>という言葉がありますが、人間は神ではありませんので、100%完璧な根治手術はあり得ません。またフォンタン手術と言って、生理的な人間の血液の流れを根本的に変えてしまっている手術も存在します。先天性心疾患で「もう病院に来なくてよい」と言われるのは、手術を必要としなかった軽症例か、心室中隔欠損や心房中隔欠損、動脈管開存といったごく一部の疾患の手術例のみと考えてください。ただ、そのような例でも最近は数年に1回くらいは定期受診した方が良いと言われています。
小児期に救命された重症の先天性心疾患のお子さんの多くは比較的順調に成人期に達します。しかし、20歳台か30歳台を境に再び状態が悪化することが多いのが特徴的です。疲れやすいとか、息切れ、むくみといった心不全が悪化したり、今までは無かった不整脈の発作が急に出現することがあります。
軽症の先天性疾患でも、感染性心内膜炎と言って心臓の一部に細菌が繁殖し、頑固な発熱と血液と細菌の細かい塊=<塞栓>が全身に散らばり様々な症状を起こす疾患になる場合があります。
また疾患によっては低酸素血症(チアノーゼ)が残っていることがあります。このような場合は、脳梗塞などの塞栓症、脳膿瘍や肺炎などの感染症になりやすく、痛風や肝障害、腎障害など全身の臓器の障害が徐々に出始めてきます。20歳台、30歳台はこのような様々な合併症が出現してくる時期です。
それに加え、成人先天性心疾患の患者さんは、私たちと同じように加齢、生活習慣などの影響も受けることになります。先天性心疾患の心臓がそのような状況にさらされたときにどのようになるかは全く分かっていません。
20〜30年前までは生きていなかった人たちが、今、生きていて歳を重ねているのですから…。さらに女性の場合は、妊娠、出産をどうするのか?が非常に大きな問題となってきます。そんな患者さんが日本全国で40万人居て、それが毎年1万人増加しています。そして今一番問題なのが、それらの人たちを診る専門の医者がほとんどいないこと、それらの人たちを受け入れる病院が整備されていないことです。