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生まれつきの心臓の病気を持った
子どもたちが大人になったら
― 成人先天性心疾患のお話し ―(前編)
(1/3)
北海道立子ども総合医療・療育センター
横澤 正人氏
<成人先天性心疾患とは?:子ども病院の診察室にて>
「先生、うちの子、23歳になるんだけど、いくつまで先生の所で診てもらえるんですか?」「A君の心臓の病気は特別だから、北海道だとなかなか診てくれる大人の心臓の先生はいないよね…。あと、腸にも病気があるからね。小児外科の専門の先生でないとA君の病気は解らないから、なかなか他の病院という話にはならないよね。小児外科の先生が「もう来なくても大丈夫だよ」と言ったらまた相談しようと思うんだけど、それまでは僕がもうしばらく診せてもらっていいかい?」「あー、安心した。先生、これからもずっとうちの子を診てくださいね」
ここは子ども病院の診察室、私は子どもの心臓の病気を専門に診る小児科医=小児循環器医です。最近は外来をやると、1日に必ず1件や2件、本人・ご家族と私の間でこんなやりとりが行われるようになってきました。
読者の皆さんは<成人先天性心疾患>という言葉をご存じでしょうか?子どもの生まれつきの心臓の病気を<先天性心疾患>と呼びます。心臓の壁に穴が開いていたり、心臓の中の弁の開きや閉じが悪かったり、血管が細かったり太かったりするだけではなく、本来あるべき心臓の部屋がなかったり、小さかったりする場合もあります。要は心臓の構造そのものに異常がある疾患で、最近は<先天性心疾患>と呼ばずに<構造的心疾患>という名称が使われることがあります。
一方、私たち大人の心疾患は、元々の構造や機能に異常がなかった心臓が病気になった状態です。加齢や生活習慣など様々な原因で働きが低下したものです。狭心症や心筋梗塞、弁逆流、大動脈瘤が主で<後天性心疾患>と呼ばれています。
先天性心疾患の頻度は意外に高く、赤ちゃんが100人生まれたら1人は何かの先天性心疾患を持っていると言われています。心臓の構造そのものに異常があるため、手術が必要な場合が多く、その手術も大変に難しい場合が少なくありませんでした。そのため今から30〜40年前までは、軽症や中等症の先天性心疾患のお子さんは何とか生きることが出来ましたが、重症のお子さんのほとんどは、赤ちゃんの時期や幼児期、小学校の低学年の時期に亡くなっていました。
ところがここ20〜30年の間に先天性心疾患の診断や手術は目覚ましい発展を遂げ、重症例のお子さんの多くが救命されるようになってきました。今では重症例を含めて先天性心疾患のお子さんの95%以上が救命され、90%以上のお子さんが成人期に達するようになりました。
日本全国で成人に達した先天性心疾患の患者さんは現在40万人以上になっており、毎年1万人以上増加していると推定されています。特に昔は亡くなっていた重症例の増加が目立っているのが特徴です。

