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NO.4 |
不整脈
(2−1)
旭川医大 第一内科 川村 祐一郎
健診で指摘される軽症から、仕事も手につかない重症例も
日常生活のいろいろな場面で「心臓の鼓動がとぶ」という経験をされた方、あるいは何らかの理由で病院を受診した際にたまたま医師に「脈の異常」を指摘された方がいらっしゃることと思います。
一方、突然発作的に動悸が出現し、安静を保って我慢していたけれど軽快せず、とても仕事どころではないので病院へ直行し注射を打ってもらってやっと治った、といった経験のある方もおられるかも知れません。
これらはいずれも「不整脈」によって起こり得る症状です。では、このようにいかにも軽そうな症状から重そうな症状まで来し得る「不整脈」とは一体どのような異常なのでしょうか。
心臓を規則正しく動かす「刺激伝導系」
図1は、ヒトの心臓の前面を切り取って内部構造を明らかにした図です。心臓は主に4つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)から成る、血液を送り出すポンプですが、これが円滑に機能するために、一定のリズムを生み出し、これを心臓全体に伝達する命令系統を併せ持っています。これを専門用語で「刺激伝導系」と呼びます。
刺激伝導系の中で最も上(右心房上方)に位置するのが洞結節です。洞結節は一方の間隔、一定のスピードで興奮しています。これが、命令として他の刺激伝導系すなわち房室結節・ヒス束・右脚,左脚,プルキン工線維などへ順次伝わり、心臓全体がリズミ力ルに拍動し、脈は整(脈と脈との間隔が一定)となるわけです。
一定の間隔より早めか、遅れて興奮し不整脈に
不整脈とは、心臓のどこかの部分が、この命令系統を無視して早めに興奮するか、あるいは命令伝達障害により遅れて興奮するか、いずれにしても正常な心拍数やリズムに乱れが生じた状態ということができます。
日中安静時の心拍数は1分間50〜100回
日中安静時のヒトの心拍数はおおむね1分間50〜100回、整で、厳密に定義すればこれ以外のものはすべて不整脈です。ただし、健康な人でもジョギングをすれば100以上の心拍数になるし、睡眠中は50以下となります。
発熱している人や、脱水の人では心拍数は速くなります。これらの現象は、洞結節よりももっと上位のコントロ−ル機構(自律神経系や内分泌系などの働き)によって生体の心要性に応じて心拍数が変化しているもので、不整脈には含めません。
不整脈の分類・症状・診断方法
まず心拍が速まるか、遅れるか
一□に不整脈といってもその種類はさまざまです。一般には、心拍数が速くなる方向に乱れるか(頻脈性)あるいは遅くなる方向に乱れるか(徐脈性)で大きく分け、さらにその原因が心臓のどの部位にあるか(心房性、心室性)をもとに分類されます。例えば、最もありふれた心室性期外収縮という不整脈は、心室に起こる頻脈性不整脈の一種で、何拍かに一拍、心室興奮のタイミングがずれるものです。症状も「脈が抜ける」から眼前暗黒、失神まで多様
不整脈発症時の心電図が診断に必要症状も不整脈の種類によって異なります。前記の心室性期外収縮の場合、何も症状がなく、「検診で不整脈を指摘された」「脈が抜ける」などが発見の発端である場合が多いようです。感じる症状として最も多いのは、いわゆる「動悸」ですが、これも「脈がバラつく」「胸がドキンとした」「鼓動が突然走り出した」など、いろいろに表現されます。ときに「胸痛」と表現する人もいますが、よくお話を伺いますと、狭心症のような「胸部圧迫感〕ではなく、やはり心拍の乱れによる動悸の一種と推定できます。やや重症なものを思わせる症状として「眼前暗黒感」「頭がふわっとする感じ」などがあり、さらに「失神」となるともう少し事は重大となります。
あとの方の症状は、血圧の変化や脳血管疾患などでも起こり得るものなので、まず、本当に不整脈による症状か?ということを考えてみる必要があります。
さらに、不整脈によるものだとして、何という不整脈によるものか?ということが問題になります。というのは、頻脈性、徐脈性、心房性、心室性を問わず、高度のものになると極めてよく似た症状を来し得るのに、これらの治療方針はかなり異なるからです。
丁寧な問診や丹念な検脈・聴診である程度までは正しい診断に接近できるものの、限界があります。そこで不整脈の診断には心電図が必須の武器となります。心電図は、痛みを与えずに心疾患の診断に多くの情報をもたらす有用な検査法ですが、不整脈については特に「有症状時の心電図所見」を知ることが重要です。そのために、なるべく長い時間心電図をとり続ける必要が生じ、24時間の心電図をテープレコーダーに記録しつつ日常活動を続けて頂き、あとで解析する装置、すなわちホルター心電計が開発されました。これは現在の不整脈診療には必要不可欠の装置で、動悸を主訴に病院へ行き、この装置による検査を受けられた方もいらっしゃることと思います。

