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虚血性心疾患
(2−1)
北大医学部循環器内科助手 富田 文
現在、心臓病はがんに次いで日本人の死因の第2位となっていますが、心臓病の中でも死因の大部分を占めているのが虚血性心疾患、とくに心筋梗塞です。確かに虚血性心疾患は生命にかかわる恐ろしい病気ですが、幸いなことに日本人の虚血性心疾患は欧米と比べて軽症のものが多く、早期に発見して適切な治療を受ければ天寿を全うできることも決して稀ではありません。そのためにも、虚血性心疾患とはどのような病気であるかを理解して、予防、あるいは早期発見・治療に努めることが非常に大切です。
冠動脈異常で心臓に血流行きわたらない
心臓は全身に血液を送り出し、酸素や栄養を供給していますが、心臓自身にももちろんエネルギー供給が必要です。心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を送っている冠動脈が何かの原因で狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)して、心臓の一部に十分な酸素や血液が行きわたらなくなった状態を心筋虚血、そしてその結果として発作を起こす病気を虚血性心疾患と呼びます。狭心症=血流不足は一時的/心筋梗塞=虚血で心筋壊死
冠動脈に狭窄や閉塞が起こる原因としては動脈硬化によることが圧倒的に多いのですが、そのほかに冠動脈のけいれん(冠攣縮)や血液の塊(血栓)などが原因となったり、また、2つ以上の原因が合わさって起こることもあります 。
このように虚血性心疾患は冠動脈の異常が原因となって発症するため冠動脈疾患とも呼ばれ、大きく狭心症と心筋梗塞の2つに分類されます。狭心症と心筋梗塞の大きな違いは、狭心症は血流不足が一時的なもので心筋が完全に壊死(細胞が死んでしまうこと)しないで回復が可能なのに対して、心筋梗塞では虚血の程度が重くて心筋の一部が壊死し回復できないことです。心筋梗塞に進まぬよう狭心症段階の治療大切
また、狭心症で死亡することはほとんどありませんが、心筋梗塞は突然死の原因となる重篤な病気です。したがって、心筋梗塞まで心臓の病変が進まないよう、発作の起こる前に、あるいは狭心症といわれた段階での治療や生活法が重要になります。さらに、たとえ心筋梗塞でも、梗塞の起こっている部分は一部ですから、それ以上広がらないように生活を改善することが大切です。
虚血性心疾患が疑われる症状
「締めつけられる、押さえつけられる」ような痛み
狭心症や心筋梗塞の発作といいますと、まず第一に「胸痛発作」を思い浮かべる人が多いと思います。具体的には、「胸が締めつけられるような痛み」「胸が押さえつけられるような痛み」というのが多いようです。左胸というよりは胸の中央にある骨(胸骨)の裏面に痛みを感じることが多く、また、左腕の内側や左肩、首、のど、あごなどに痛みが広がる(放散痛)こともあります。階段を上るなど労作が誘因になる狭心症多い
狭心症では、重いものを持って急いで歩いたり、階段を上ったりなどの労作が誘因となって発作が起こる「労作狭心症」が最も多くみられ、この場合、労作をやめて安静にすると大体5〜10分くらいで発作は治まります。狭心症にはニトロ錠舌下投与がよく効く
また、時には安静にしている時に誘因なく発作の起こる「安静狭心症」もみられ、とくに冠攣縮が原因となって、発作が夜間から早朝にかけて起こるものを「異型狭心症」あるいは「冠攣縮性狭心症」といいます。いずれにしても、狭心症では発作が一時間以上も持続したり、逆に一分以内と非常に短いことはほとんどなく、このような場合には他の病気の可能性が高くなります。また、どのタイプの狭心症でも、発作時にはニトログリセリン錠の舌下投与がよく効きます。心筋梗塞は労作と関係なく発症し、痛みも強烈
これに対して、心筋梗塞は一般に労作と関係なく発症し、痛みの程度が強く(胸が引き裂かれる、胸を握りつぶされる、など)、しかも持続時間も30分以上と長いことが多く、吐き気、呼吸困難、冷や汗、ショックなどさまざまな症状を合併する場合もあります。また、心筋梗塞の発作はニトログリセリン錠で完全に抑えることはできません。
狭心症と心筋梗塞の関係
心筋梗塞になりやすいタイプの狭心症も
先に、「心筋梗塞まで心臓の病変が進まないように狭心症といわれた段階での治療や生活法が重要です」と述べましたが、それでは心筋梗塞になりやすい危険な狭心症とはどのようなものでしようか。
狭心症は心筋梗塞になりやすいかどうかで大きく2つに分類されます。1つは「安定狭心症」で、ある一定レベルの労作で発作が起こり、その発作の程度も同じ程度に安定している狭心症です。このタイプの狭心症は急に心筋梗塞へ進行することは少ないと考えられています。
これに対して、(1)新しく発症した狭心症、および「安定狭心症」が、(2)発作頻度が増加したり持続時間が長くなったもの、(3)以前よりも軽い労作、あるいは安静時にも発作が起こるようになったものは「不安定狭心症」と呼ばれ、心筋梗塞に進行する可能性が高い危険な狭心症と考えられています。「不安定狭心症」は多くの場合入院治療が心要になりますので、(1)〜(3)に当てはまる方は主治医の先生とよく相談するようにしましょう。
最近の研究では自覚症状のない心筋虚血も…
一方、最近の研究によりますと、虚血性心疾患の人に起こる心筋虚血は、必ずしも胸痛などの症状を伴うものばかりでなく、かなりの頻度で自覚症状を伴わない心筋虚血(無症候性心筋虚血と呼びます)が起きていること、そしてこの無症候性心筋虚血は心筋梗塞の発症にも関係し、狭心発作と同様に治療が必要であること、などがわかってきました。したがって、自己判断だけで発作がないからといって安心しないで、定期的に医師の診察を受けるようにしましょう。

