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慢性腎臓病(CKD)と動脈硬化 −CKD患者の心血管疾患予防−
(2−2)
JR札幌病院 腎臓内科 科長
富樫 信彦氏
最近、心腎連関という概念が提唱されていますがこれは、心臓病患者はCKDを発症しやすく、また逆にCKD患者は心臓病を合併しやすいという意味です。CKDの患者は、末期腎不全で透析や腎臓移植が必要な状態になるよりも、その前に死亡する危険性のほうが高いことが示されています。
アメリカの研究結果ですが、一般住民の腎機能別にみた死亡と末期腎不全に至った患者数を比較したKeithらの研究報告(図2)で、CKD患者では末期腎不全になる前に死亡するリスクが有意に高いことが示され、GFRが15-29と慢性腎不全に至った患者群でさえ同様の傾向を認めることが報告されました。
また、これ以外にも世界中の多くの研究で、軽度の腎機能低下や尿蛋白が心筋梗塞や脳卒中の大きな危険因子であることが明らかにされています。
我が国のCKD患者においても、末期腎不全のため透析導入されるよりも、経過中に心血管疾患により死亡する危険性が高く、CKD患者においては心血管疾患合併の有無を評価することが重要となっています。
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我が国の一般住民における大規模観察コホート研究(NIPPON DATA 80、吹田研究、JALS-ECGなど)においても、CKDでは心血管疾患リスクがおよそ2倍高いことが確認されています。日本の高血圧患者における降圧薬の心血管疾患抑制効果を研究したCASE-Jという大規模臨床研究においては、種々の危険因子の相対リスクが比較されており、CKD(相対リスク2.8:CKDを持たない人に比較してCKD患者は2.8倍心血管疾患を発症しやすいことを示す)は、脳血管障害既往(相対リスク2.2)、心疾患既往(相対リスク2.2)、および糖尿病(相対リスク2.0)と同等以上の悪影響を及ぼすことが示されています。
それでは、CKDと診断された時に、心血管疾患を合併しないようにするための方法について一般論を概説します。一部の特殊な病態や合併症を有している人には当てはまらない点もあることにご注意ください。
まず成人における生活・食事ですが、食塩摂取量の基本は1日3-6グラムです。摂取エネルギーは年齢、性別、身体活動レベルで調節が必要ですが、1日当たり25-35kcal/kg標準体重が推奨されます。
ここで標準体重とは、22×(身長:m)二乗です。160cmの人であれば、22×1.6×1.6で、56.32kgとなります。この人が事務などの軽労作に従事している場合は、1日当たりの摂取カロリーの目標が25-30kcal/kg標準体重にて、約1400-1680kcalとなります。
肥満の人は標準体重を目指した減量が重要で、禁煙はCKDと心血管疾患両者の発症・進展抑制のため必須です。成人の血圧の目標は130/80mmHg以下で、血圧管理は家庭血圧や24時間自由行動下血圧(ABPM)の測定による血圧日内変動も考慮して行います。糖尿病の血糖コントロールは、糖尿病性腎症でHbA1c6.9%未満が目標です。脂質管理では、LDL(一般的に言われている悪玉)コレステロールは、120mg/dl(可能であれば100mg/dl)未満にコントロールすることが重要です。また、CKDの病期(腎機能によって区分された病期の進行度)が進行すると、貧血管理や骨・ミネラル代謝異常に対しても適切な治療が必要となります。
上記のように、CKDが発症・進行すると、心血管疾患の発症・進行すると、心血管疾患の発症が増加し、その予防には生活習慣の改善だけではなく、血圧、血糖、脂質管理など、多くの留意点が必要となります。健診・人間ドックなどによる早期発見から、早期治療開始がCKDと心血管疾患の発症及び進行予防にとって重要です。
また、CKD患者になったら、かかりつけ医や一般内科などでの診療のみならず、循環器内科・腎臓内科などの専門医併診が必要となることもあります。その都度、かかりつけ医と相談してください。
キーノート CKDと心血管疾患の発症・進展予防のために
@ 規則正しい生活を送り、禁煙を行いましょう。食事の内容(減塩・適正なカロリー摂取)に気をつけて、適度な運動を行い、CKDと心血管疾患の発症予防に努めましょう。
A 尿検査や血液検査などでCKDが疑われたら、速やかにかかりつけ医を受診して、精密検査を受けてください。早期発見・早期治療が重要です。
B CKD患者における心血管疾患の発症予防には血圧、血糖、脂質管理などの多くのリスク評価、治療が必要です。その都度かかりつけ医と相談し、必要に応じて専門医を受診して適切な治療を受けましょう。

