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NO.8 |
疾患別心臓リハビリテーション
(2−1)
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学 後藤 大祐氏、絹川 真太郎氏
はじめに
今日の循環器診療において、薬物治療・カテーテル治療・外科的治療の進歩は目覚しいものがありますが、心臓リハビリテーションも治療の総仕上げとして欠かせない要素となっております。前号の「すこやかハート112号」では心臓リハビリテーションの概要についてご紹介いたしましたが、今号では各疾患における心臓リハビリテーションを紹介したいと思います。
心臓リハビリテーションは、運動療法を主体とはしていますが患者教育・生活指導およびカウンセリングによる包括的な取組みにより、循環器疾患によって低下した体の機能を高め、症状の軽減、再入院の予防、生活の質の向上、さらには寿命を延長させることを目指した治療プログラムです。
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どのような循環器疾患に運動療法が有用か
多くの循環器疾患に対して心臓リハビリテーションの有効性が明らかになっています。なかでも、心臓に栄養を供給している血管(冠動脈)の動脈硬化が原因でおこる心筋梗塞や労作性狭心症、心臓の機能が低下し体が活動するのに十分な血液を供給できなくなる慢性心不全、心臓・大血管手術やカテーテルによる冠動脈形成術などの術後、末梢血管疾患に対する運動療法が保険診療の対象になっています。
心筋梗塞
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心筋梗塞とは、主には動脈硬化が原因で冠動脈の血管内皮が破綻し、冠動脈内に血栓を形成し冠動脈が閉塞する病気です。冠動脈が閉塞したままの状態が続くと、閉塞部位より末梢の心筋が壊死に陥るため、発症早期にカテーテル治療や外科的な治療によって、血流を再開する必要があります。壊死した心筋の量によっては心臓の機能が低下することがあり、この他にも不整脈や急性の弁膜症などの合併症が起こりうるため、発症早期には安静が重要となります。また、急性心筋梗塞後には、病気に由来する心臓の機能低下や入院安静による身体機能の低下のみならず、抑うつ症状などの精神的な問題も起こりやすいことが知られています。このような状態からの回復を促し、高血圧や糖尿病などの冠危険因子を改善し、社会復帰を促進させる目的で心臓リハビリテーションは有用です。
発症後1 〜 2 週間の間のリハビリテーションは、食事やトイレなどの日常生活動作を安全に行なえることを目指して行なわれます。多くの病院でクリニカルパスが作成されており、それにのっとって、徐々に行動できる範囲が拡大されていきます。それと同時に、病気や治療についての教育、栄養指導・服薬指導などが行なわれます。その後、施設により違いはありますが、北海道大学病院では病棟内を自由に歩くことができるようになった時点で、心臓リハビリテーション室で自転車エルゴメーターによる運動療法が開始されます(写真1)。運動量は少なめから開始し、症状や検査所見に悪化が無いことを確認しながら、徐々に運動量を増やしていきます。
心臓リハビリテーションの急性心筋梗塞後の効果は大きく、運動能力の向上や精神的な効果のみならず、再度の心筋梗塞発症を減らし、死亡率も改善することが知られています。また、急性心筋梗塞の後であっても、適切な医学的な評価とモニタリングのもと行われる運動療法の安全性は高いことが知られています。
労作性狭心症
労作性狭心症は、心筋梗塞と同様に冠動脈の動脈硬化による病気ですが、徐々に冠動脈の狭窄が進行し、歩行や階段の昇降時などに心筋への血液の供給が不足し心筋虚血を生じ、胸痛を生じる病気です。狭心症に対しては、罹患している冠動脈の状態によって、薬物治療、カテーテル治療、冠動脈バイパス術が治療法として選択されます。これらの治療と並行して、心臓リハビリテーションを行なうことで、狭心症症状の改善や冠動脈の狭窄度の改善が期待されます。
労作性狭心症の患者さんに運動療法を行なう前には、心肺運動負荷試験または運動負荷心電図という運動をしながら自覚症状・血圧・心電図変化を確認する検査を予め施行しておくことが望ましく、胸痛や心電図変化などの心筋虚血が出現する80%程度の運動の強さを上限にして、運動療法時の心拍数や自覚症状を参考に運動療法を行います。
冠動脈形成術後
近年では、冠動脈の狭窄に対するステント留置やバルーン形成術などカテーテル治療が広く行なわれています。この治療後においても心臓リハビリテーションは再度の狭窄を防ぎ、再発を低下させる可能性が期待されています。ステント留置後の運動療法は、従来は運動に伴うステントの血栓形成による閉塞を危惧して2週間程度あけることが多かったのですが、抗血小板薬によって十分に血栓予防がなされていれば、ステント留置後比較的早期であっても運動療法を安全に行なうことができます。尚、ステント留置後に運動療法を行なう際には、確実な抗血小板薬の内服と脱水にならないように運動療法中の十分な水分補給が大切になります。

