![]() |
NO.8 |
疾患別心臓リハビリテーション
(2−2)
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学 後藤 大祐氏、絹川 真太郎氏
慢性心不全
慢性心不全とは、慢性的な心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする酸素需要に見合うだけの血液量が拍出できなくなる一方で、肺や静脈にうっ血を来たして日常生活に障害を生じる病態です。このため従来は、体の酸素需要やうっ血を増大させないように、安静にすることが大切とされていました。しかし、慢性心不全時の運動時の呼吸困難感や疲れやすさには、心臓の機能低下以上に骨格筋の機能低下が影響していることが、近年、明らかにされています。このため、病状が悪化している急性期には安静が重要であることには変わりはないのですが、慢性心不全の病態であっても病状が安定しているときに運動療法を行なうことが、心不全症状や運動能力のみならず、慢性心不全再発、さらには生命予後まで改善することが明らかになっています。このため包括的な慢性心不全治療の一環として、心臓リハビリテーション、なかでも運動療法の重要性に脚光が当てられています。
対象となるのは、安定期にある心不全患者さんで、少なくとも過去1 週間において心不全の自覚症状(呼吸困難感や疲れやすさなど)および身体所見の増悪がなく、中等度以上の下肢浮腫や肺うっ血を認めないことが、運動療法開始の目安となります。慢性心不全の運動療法では、軽い負荷を短時間行なうことからはじめ、自覚症状や身体所見を観察しながら徐々に時間と強度を増やしていきます。また、運動療法の開始時に運動能力を把握し、運動量を決定する目的で、心肺運動負荷試験を行なうこともあります。
慢性心不全に対する運動療法を安全に行なうためには、運動療法施行中の自覚症状や身体所見・検査所見の観察と定期的な運動量の見直しが重要です。運動量が多すぎる場合には、倦怠感が続いたり、前日の疲労感が残ったりするなど自覚症状の変化や体重増加傾向、他にも脈拍数が増加するなどの変化が現れることがあり、これらの変化に注意が必要です。
心臓手術後
心臓手術を受けたあとにも心臓リハビリテーションは有用です。心臓手術を受けたあとの患者さんは、手術自体の体に対する負担に加えて、術前の罹病期間における安静により、体力が低下しており、術後早期からの運動療法が薦められます。
心臓移植
![]()
心臓移植においても心臓リハビリテーションは重要な役割を果たします。わが国における心臓移植の待機期間は2 〜 3 年と長く、実際に移植対象となる補助人工心臓を装着したり、強心薬を持続点滴したりしている患者さんは、長期間の入院を余儀なくされています。この期間、来る心臓移植に備えて体力を保ち続け、精神的なストレスを緩和するために心臓リハビリテーションが不可欠です。また、移植後においても、移植手術に伴う体力低下や移植後の精神的なストレスを緩和するために、可及的すみやかな運動療法の再導入が行なわれます。
血管疾患
血管疾患では、大動脈瘤術後・大動脈解離術後と末梢血管疾患に対して心臓リハビリテーションが適応となります。大動脈瘤術後・大動脈解離術後では、血圧のコントロールが重要です。また、足の末梢動脈の動脈硬化が原因で血液供給が低下する閉塞性動脈硬化症による歩行時の下肢の痛みにも運動療法は有効です。閉塞性動脈硬化に対する運動療法としてはトレッドミルを用いることが多く、下肢の痛みが出現するまでの時間を見ながら、徐々にトレッドミルのスピードを上げていきます(写真2)。
おわりに
様々な循環器疾患において、運動療法を主体とする心臓リハビリテーションの有効性が明らかになっています。しかし、同じ病気であっても、一人一人病状は異なっていますので、実際に運動療法を行なう場合には、主治医や心臓リハビリテーション担当医による評価とどの程度の運動を行うかの運動処方が必要になります。また、心臓リハビリテーションを実施している施設の情報については、各実施施設または日本心臓リハビリテーション学会のホームページ等をご覧ください。

