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突然心臓が止まったら(上)
救急蘇生法の知識と方法
(3−3)
二次救命処置
一方、二次救命処置は薬剤や生命維持装置を用いる救命処置で、医師または十分訓練を受けた者が医師の指導下に行なってよいとされ、ドクターカーや搬入された救急病院で医師が行なう救命処置を意味します。
病院では気管内に挿管して気道を確保し、酸素を送り呼吸を安定させます。心臓に対しては心室細動であれば直流除細動、心静止であればアドレナリンなど各種蘇生薬を投与して心拍再開をはかり、高度徐脈に対してはペースメーカー、心ポンプ力不全には大動脈内バルーンポンピンク装置や経皮的人工心肺装置(PCPS)で循環を補助します。
いったん心拍が再開し、心肺停止していた時間が長くないことが確認され、原疾患が回復可能なもので、神経学的にもなんらかの回復兆候が認められれば、脳低温療法も試みられ、意識の回復に有効な成績を得ています。
心拍は再開せずとも発症直後より救命処置が開始されて、脳の働きが保護された状態で速やかに高次救急医療施設に運ばれてくれば、人工心肺装置(PCPS)と大動脈内バルーンポンプ装置を用いて呼吸と循環、そして脳を保護しつつ、その間に急性心筋梗塞に対する急性期治療PTCA治療も可能となります。
救急蘇生治療の最終目的は、心臓や肺を再び動かすことではなく、心臓、肺の働きを維持して脳を保護することで、突然に襲った予期せぬ死を乗り越え、全人格的に社会復帰させることにあります。救急病院に搬送されてからの高度な救命治療が整備されていくにつれ、改めて、救命の鎖のなかでも、とくに発症直後から救急隊到着までの居あわせた人による救命処置が意味をもってきています。
救急搬送体制の確立とプレホスピタルケア
近年わが国でも救急搬送体制が完備されて、119番通報があってから5〜6分で救急隊が現場に到着する体制が整ってきました。しかし、心停止後4分以内の救命処置開始が救命率向上には最も重要とされています。わが国の搬入時心肺停止例の救命率は1%で欧米と比べ救命率が著しく低いことが問題になりました。
わが国では搬入時心肺停止症例の8割が発症時に目撃されていたにもかかわらず、心肺蘇生法を施された例は1割に満たないといわれています。しかも、救急隊は一次救命処置しかできず、速やかに救急医療施設へ搬送することに重点が置かれていました。
そこで、発症早期の病院到着前のプレホスピタルケアが救命の鎖全体の効果を大きく左右することが明らかになったため、1991年に、救急救命士制度の発足と共に、救急隊員の資質と技術の向上がはかられ、救急隊員のできる処置の種類・範囲も拡大され、発症の現場や搬送中から効果的な救命処置ができるようになりました。
その結果、救急隊による心肺蘇生処置により心拍再開した状態で救急医療施設に搬入される症例が増加しています。救命士の人数も徐々にではあるが増えてきました。その場に居あわせた人が患者の状態を確認したら、できるだけ早い119番通報と、その場でただちに救命処置を開始する必要が強調されています。
以上、突然心停止を来たした人の救命処置をめぐる問題について述べましたが、次号では実際の一次救命処置について具体的に説明します。


